部下育成がうまくいかない? マネージャーに求められる『構造化スキル』とは
2025年3月13日更新
ざっくりのあらすじ
1. マネージャーの指導力不足の背景の一つにマネージャーの「構造化スキル」の欠如があり、経験を部下に適切に伝えられていない可能性がある
2. 「構造化」とは情報を整理・分解し、個別経験を概念化して応用可能なルールに変換するプロセスである
3. マネージャーが構造化スキルを獲得することにより、部下の学習効率と組織全体の生産性向上につながる
4. 5W1Hなどのフレームワークを使った構造化された指導は、具体的で論理的な改善ポイントを示せる
あなたはマネージャーにどんなことを教わってきましたか?
マネージャーになって、部下に何をどのように教えていますか?
その指導は、あなた/部下の成果に、どんなふうに役立っているでしょうか?
マネージャーが組織のボトルネック?!
業務功績を認められ、上司からも部下からも期待を寄せられるマネージャーという職務。
そこに喜びややりがいを感じる一方、想像していた以上に求められる資質が多岐にわたっていたり、組織内で風当たりを感じることもあったりするなど、思うようにいかないことも多いのではないでしょうか。
人材育成にまつわるマネージャーの役割には、①チームの生産性向上、②メンバーの育成、そして③意思決定のサポートがあります。
組織を牽引し、部下の指導に自らの能力を活かすことが期待されるマネージャーですが、企業の悩みの中には、組織開発や人材育成を考えるにあたって「マネージャーの指導力に課題を感じている」といった声もお聞きします。
これらの課題が生じる背景の一つには、マネージャーが自身の経験を適切に「構造化」して部下に伝えられていないことが考えられます。
なぜマネージャーの指導が伝わりにくいのか?
現代は変化のスピードが速く、マネージャーが過去に培った経験やノウハウをそのまま部下に適用することが難しくなっています。たとえ貴重な知見であっても、
- 部下にとって現場の現実と合わない
- 伝え方によっては押し付けがましく感じられる
- 個別のケースの対処法だけを伝えても、応用力が身につかない
といった問題が生じます。
では、どのようにすれば、マネージャーの経験やノウハウを効果的に伝えられるのでしょうか?
ここで重要になるのが、「構造化スキル」です。
マネージャーの経験・知見の効果的な活かし方とは
有用な経験であっても、先に挙げた問題例のように、部下に理解してもらえるように伝達するのは案外難しいものです。意図が適切に伝わらずに煙たがられてしまったり、間違った解釈で伝わってしまったりするなど、一筋縄では行かないこともしばしばです。
なぜこのような苦戦に陥るかというと、経験の「情報」が、そのままで「教え」に活用できるとは限らないからです。
どれだけ価値の高い経験も、指導につなげるためには、部下に伝わるよう、そして現在のビジネスの文脈に活用できるように有効な情報に「変換」しなければなりません。
逆に言えば、経験を「学習可能な形」に変換すること、つまり「構造化」することができれば、一気に部下の成長を促しやすくなります。
部下指導に必要とされるのは、マネージャーの「構造化」スキル
「構造化」とは、情報を整理し、要素を分解し、それらの関係性を明確にすることです。たとえば、営業交渉の成功事例を『誰が(Who)』『何を(What)』『どのように(How)』行ったのか整理すれば、他の部下も応用しやすくなります。
具体的には、構造化は以下のようなステップで行います。
- 経験やノウハウを概念化する(個別的、具体的な事象や経験を抽象化し、共通の特徴や法則を見出して整理する)
- 現在の状況に即したルールに当てはめて伝える(1の経験とは別の事例に応用する)
このプロセスを意識することで、部下にとって理解しやすく、応用可能な知識として伝えられるようになります。
こうした構造化のメリットには、以下のようなものがあります。
- 問題の原因を見つけやすくなり、的確に対処しやすくなる
- 事象の関係性がわかるので、問題解決の優先順位がつけやすくなる
- 問題を解決する際に「モレやダブり」を回避しやすくなる
- 情報が整理されるので、コミュニケーションがしやすくなる
OJTにおける「構造化」の実践例
それでは、実際に構造化を意識した指導の例を見てみましょう。
一口に構造化といっても、どのような切り口で構造化するか、その方法は様々ですが、ここでは多くの方が知っていてイメージしやすいであろう『5W1H』のフレームワークを使ってみましょう。
以下は、BtoB営業を担当している部下へのOJT(On-the-Job Training)の場面を、【非構造的な指導】と【構造的な指導】でそれぞれ表した例です。
【非構造的な指導】
部下: 「費用と納期を提示しているのですが、なかなか顧客に提案が通りません……」
上司: 「とりあえずもう少し粘って交渉してみたら? 顧客も安くしたいだけだろうし、うまく説得すれば大丈夫だよ。俺なんか昔、顧客に食い下がって何とか契約取れたことがあるよ。とにかく気合いで乗り切れ!」
問題点:
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【5W1Hを活用した構造的な指導】
部下: 「費用と納期を提示しているのですが、なかなか顧客に提案が通りません……」
上司: 「顧客が納得しない理由をもう少し整理してみよう。価格と納期だけで決まらないケースが多いからね。」
- 顧客の意思決定要因を分析しよう(What & Why)
・「費用と納期の提示だけではなく、顧客の意思決定要因を分析し、総合的な価値提案を行おう」
・「顧客は価格や納期だけでなく、リスク回避・品質・長期的な取引なども考慮している可能性があるのでは?」
- 誰が決裁者なのかを明確にしよう(Who)
・「交渉相手(購買担当者・決裁者)の立場や優先事項を把握しよう」 - 商談の流れに合わせて適切なタイミングで提案しよう(When)
・ 「価格・納期提示のタイミングを適切に調整し、商談の流れをコントロールできるようにしよう」 - 競合や市場の情報を活用しよう(Where)
・「顧客の状況(業界動向・競合情報・予算サイクルなど)を踏まえて提案を設計しよう」 - データや事例を用いて、納得感のある説明をしよう(How)
・「数値データや成功事例を用いて、価格や納期の正当性を説明し、納得感を高めよう」
構造化された指導のメリット:
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2つの事例を比較してみて、いかがでしょうか?
非構造的な指導では、指導内容が主観的・抽象的になり、部下の理解が進みにくいことが予想されます。一方、構造化された指導では、問題点を明確にし、再現性のある指導になっているといえるのではないでしょうか。
構造化スキルの獲得が、組織の生産性向上につながる
マネージャーが構造化スキルを身につけることで、以下のような効果が期待できます。
- 指導が論理的かつ明確になる
- 部下が「経験を学び」に変換しやすくなる
- チーム全体の生産性が向上する
とはいえ「どうも難しそう」、「フレームワークの正しい活用の仕方がわからなくて敬遠してしまう」など、ハードルを感じられる方もいらっしゃると思います。
そこで、構造化を難しく捉えず、簡単に実践するポイントを紹介します。
1. 経験をいくつかの項目で要素分解する
例:「いつ」「どんな場面で」「誰と」「何があったのか」「その関連性や理由は何か」
2. 同様のパターンの経験を、さらに同じように分解して、共通項を見出す
3. その共通点から何が言えるのかを整理する
4. 整理した要素に「要素名」と「定義」をつける
各要素を整理し、全体のつながりや意味を説明できるようになれば、それが「構造化」の第一歩です。「構造」は学習の指針となるため、部下にとって理解しやすく、役立つ情報になります。
本コラムの末尾に、いくつかのフレームワークを部下指導の文脈で活用する際の構造化事例を記載しておりますので、あわせてご参考にしていただければと思います!
OJTの場面で求められるマネージャーの「構造化」スキル
OJTなどの部下指導の際に部下が抱く不安や不満の多くが「今回のケースの対処法は分かったが、未来に向けてどう応用するべきかがわからない」というものです。
マネージャーが効果的な指導を行うには、経験を単に伝えるのではなく、「構造化」して学習しやすい形にすることが不可欠です。これにより、部下は「なぜその行動が必要なのか」を理解し、応用力を身につけることができます。
参考記事:
あなたの部下は、経験を学びにつなげられていますか?
あなたの会社のマネージャーは、十分な「構造化」スキルを備えていますか?
「構造的な指導」を日常的に取り入れることで、部下の問題解決能力を高め、より成果につながる人材育成を実現しませんか?
組織の生産性を高めるために、マネージャーの指導力を強化したい場合は、ぜひリープにご相談ください!
おまけ:構造化に役立つフレームワーク例
5W1H(Who, What, When, Where, Why, How)
概要: 情報を整理し、論理的な説明を行うための基本的なフレームワーク。
活用方法: 指導の際に「部下が何を理解していないのか」を特定し、明確に伝える。
活用場面の例: 「商談がうまく進まない」と悩む部下の課題を特定する
- Who: 交渉相手の役割・決裁権の有無を確認したか?
- What: 提案内容は相手のニーズに合っているか?
- When: 適切なタイミングで提案しているか?
- Where: 顧客の業界や市場環境を考慮しているか?
- Why: 相手が断る理由を分析したか?
- How: 交渉の進め方を改善できるポイントはあるか?
PREP法(Point, Reason, Example, Point)
概要: 簡潔で論理的な説明を行うためのフレームワーク。
活用方法: 指導時の説明を分かりやすく構造化する。
活用場面の例: 「なぜこの提案方法が有効なのか?」を部下に説明する
- Point(結論):「顧客の意思決定要因を分析することが重要だ。」
- Reason(理由):「価格や納期だけでなく、品質やリスク回避も考慮されているからだ。」
- Example(具体例):「過去の成功事例では、価格交渉前に品質保証を強調したことで、契約につながった。」
- Point(再確認):「だから、提案の前に顧客の優先事項をしっかり把握しよう。」
参考記事:
PREP法とは?4つのステップで学ぶビジネスコミュニケーション術
ARCSモデル
概要: 学習意欲を高めるための4つの要素(Attention, Relevance, Confidence, Satisfaction)を定義したモデル。
活用方法: 部下のやる気を引き出しながら指導を行う。
活用場面の例: 新人営業担当者にプレゼン技術を指導する
- A(注意):「過去の成功事例を紹介し、プレゼンが成約率に与える影響を強調する。」
- R(関連性):「このスキルを身につけると、実際の商談でどのように役立つかを伝える。」
- C(自信):「練習を通じて、小さな成功体験を積ませ、自己効力感を高める。」
- S(満足感):「商談の成果が上がったときにフィードバックを行い、成長を実感させる。」
参考記事:
相手の心を動かす4つのポイント「ARCS(アークス)」モデル
ARCSによる動機づけで誤解しやすいポイント3選
GROWモデル(Goal, Reality, Options, Will)
概要: コーチングの場面で使われるフレームワーク。部下が自ら解決策を考えられるように導く。
活用方法: 部下の自主性を促し、成長を支援する。
活用場面の例: 交渉が苦手な部下と一緒に商談を振り返る
- Goal(目標):「次回の商談で、自信を持って提案できるようになりたい。」
- Reality(現状):「今は、価格交渉で押し切られてしまうことが多い。」
- Options(選択肢):「事前に決裁者を特定する」「競合情報を集める」「データを活用する」などの戦略を考える。
- Will(意思):「次回の商談では、競合との差別化ポイントを明確に説明することを試してみる。」
参考記事:
部下のスキルとパフォーマンス向上を促進!GROWモデル
執筆者プロフィール
月足 由香 リープ株式会社 アシスタントマネージャー・インストラクショナルデザイナー
ラーニングデザイナー(eLC認定 e-Learning Professional)、コンテンツクリエイター(eLC認定 e-Learning Professional)、
SCORM技術者(eLC認定 e-Learning Professional)、CompTIA CTT+ Classroom Trainer、CompTIA Project+、修士(教授システム学)
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