相手の心を動かす4つのポイント「ARCS(アークス)」モデル

インストラクショナルデザイン, 人材育成, 学習支援, 教育設計

「教える」スキルは、
ビジネス上のあらゆるコミュニケーションにおける共通の悩み事

このブログを読まれている皆さんの多くは、人に「教える」スキルが重要と捉えていらっしゃると思います。
部下を指導中の上司や研修の講師のように人材育成を担っている方はもちろん、ビジネスのあらゆる場面で「教える」能力が求められています。


これらに共通する「教える」能力ですが、その本質は教えることにより「相手の行動変容を促す」ところにあります。
ところが、相手に行動変容を促すこと、つまり、相手の心を動かし行動に起こさせることは容易ではありません。

「教える」熱意が空回り・・・どうしたら相手の心を動かせるのか

どれほど熱意をもって教えても相手の行動が変わらず、結局、「相手に理解する気がないから」と伝えることを諦めてしまったという経験もあるのではないでしょうか。

「部下のやる気がない」
「そのプロジェクトに関与する気持ちが薄い」
「時間をかけて教えても、上の空で理解が進まない」
「問題解決の重要性やソリューションの価値を理解してもらえない」

教える熱意が空回りした挙句、相手の心に刺さらないと悩むのは、なんとも心苦しいことですよね。
相手の心を動かし行動変容につなげるために、どのように動機づけを行うべきか。
教える側は相手の立場に立って、行動変容に対する意欲を向上・維持させる方法を考える必要があります。

そこで今回は、相手に行動変容の意欲を持たせるための4つのポイント「ARCS(アークス)」をご紹介していきます。
このARCSモデルは、大学などの教育の場を始め、企業における研修設計・教材開発といった幅広い分野において活用されている、
教育工学の観点に基づいた「行動変容の意欲」や「学ぶ意欲」を引き出すための理論です。
相手の心を動かし行動変容を促さなくてならない場面で、きっと役に立つはずです。
参考:「効果・効率・魅力」的な教育とは?「インストラクショナルデザイン」

教える側が意識する4つのポイント「ARCSモデル」

ARCSモデルとは、教育工学・教育心理学者のジョン・ケラーにより提唱された、学ぶ意欲を向上・維持するために教える側がとるべきポイントを整理したフレームワークです。

「注意喚起(Attention)」「関連性(Relevance)」「自信(Confidence)」「満足感(Satisfaction)」の4つに分類されており、それぞれの頭文字から「ARCS(アークス)」と呼ばれています。

行動変容の意欲や学ぶ意欲を引き出すことはとても繊細かつ困難な作業といえますが、ARCSモデルでは相手の意欲を高めるための心理的な要因を交えて、そのメカニズムが端的に体系化されています。

相手に物事を教える(伝える)ときに、その伝え方にARCSの4つの工夫が含まれているかどうかをチェックし、これらの工夫を加えた教え方や伝え方をすることで、相手の心を動かし行動変容を促すことができるようになります。

A(Attention) - 注意喚起の工夫

「面白そうだなあ」といった相手の興味や知的好奇心、探求心を刺激する工夫です。
教え方・伝え方を考えるときには、以下のようなポイントを考慮します。

・ 知覚的喚起:相手の興味を引き出すために何ができるか?
・ 探求心の喚起:行動を変えたいという気持ちや好奇心を刺激するために何ができるか?
・ 変化性:どうすれば相手の興味・関心を維持できるか?

R(Relevance) - 関連性の工夫

「やりがいがありそうだなあ」と、教わる(学ぶ)内容に対する自分との関係性に親しみや意義を持たせ、積極的な姿勢を形成する工夫です。これから教わる(学ぶ)ことが、相手に身近なもの、関係するものと思わせることで積極的になります。
教え方・伝え方を考えるときには、以下のようなポイントを考慮します。

・ 親しみやすさ:教える(伝える)内容を相手の文脈や経験に結びつけるためにはどうすればよいか?
・ 目的指向性:教える(伝える)内容と相手の目的を結びつけるためにはどうすればよいか?
・ 動機との一致:やりがいを実感してもらうにはどうすればよいか?

C(Confidence) - 自信の工夫

教わる(学ぶ)過程で成功体験を実感させ、その成功が自分の能力や努力によるものだと思わせることで「やればできる」という自信につなげる工夫です。⋙自信の工夫とは?
教わった(学んだ)ことが身に付いていることを実感させるなど、ポジティブな変化を感じさせる工夫が重要です。
教え方・伝え方を考えるときには、以下のようなポイントを考慮します。

・ 学習要求:ゴールを明示し、「やればできそう」という期待感を抱かせるにはどうすればよいか?
・ 成功の機会:成功体験のステップを通して自信につなげるにはどうすればよいか?
・ コントロールの個人化:相手が成功体験は自分の努力と能力によるものだと認識するためには何をすべきか?

S(Satisfaction) - 満足感の工夫

教わる(学ぶ)過程で得た知識や情報・技能などの有効性を実感させることで、「やってよかった」という満足感を与え、新たな行動変容に向けた意欲を引き出す工夫です。自らの行動変容による目に見える成果や報奨は、新たな変化に対する意欲向上につながります。
教え方・伝え方を考えるときには、以下のようなポイントを考慮します。

・ 自然な結果:相手の興味・関心をさらに向上させるにはどうすべきか?
・ 肯定的な結果:相手の行動変容に対して、どのような称賛や報酬を提供すべきか?
・ 公平さ:オープンでバイアスのない状況で、行動変容の価値を実感させるためには何をすべきか?

 

「ARCSモデル」を活用し、「教える」スキルを向上させよう

ARCSモデルは、「教える」側が物事を伝える際に凝らすべき工夫を提示しています。
この4つのポイントに沿って、意識的に動機づけすることで相手の行動変容に対する意欲を高め、積極的に行動を促す環境を整えることができます。

相手との対話やコミュニケーションを進める際に、これらの工夫を交え、また作戦を立てて対話を進めてみてはいかがでしょうか?
部下指導の場面や研修の講師として教える場面、そして、お客様やユーザーにソリューションの手法や価値を伝える場面など、コミュニケーションにおいて、「教える」スキルに課題を感じたときには、ぜひ活用してみてください。

執筆者に質問する

YouTubeでも本記事の内容をご覧いただけます。

関連記事一覧