相手の心を動かす4つのポイント「ARCS(アークス)」モデル

インストラクショナルデザイン, 人材育成, 学習支援, 教育設計

2024年10月31日更新

ざっくりのあらすじ
1. 人に「教える」時は熱意だけでは空回りしてしまうことが多い
2. ARCSモデルは相手のやる気を引き出す4つの要素を示している
3. ARCSモデルの「注意」「関連性」「自信」「満足感」を意識することで部下の行動変容を促せる
4. ARCSモデルは部下指導や顧客対応など、様々な場面で活用できるフレームワークである

「教える」熱意が空回り……どうしたら相手の心を動かせるのか

社内で部下に対して、あるいは社外でお客様に対して、一生懸命教えているのに、相手の行動が変わらない……
そんな経験、ありませんか?どれだけ熱意を持って伝えても、結局相手に響かず、「もう相手に理解する気がないんだ」と諦めてしまったことがある方も多いのではないでしょうか。

例えば、部下に対しては、
「やる気がない」
「プロジェクトにあまり関心がない」
「時間をかけて教えても、理解が進まない」
と感じることがあるかもしれません。

また、お客様に対しては、
「問題解決の重要性やソリューションの価値をわかってもらえない」
「製品やサービスをなかなか理解してもらえず、使ってもらえない」
といった悩みもあるでしょう。

熱意が空回りし、相手に響かないのは本当にもどかしいものです。では、どうすれば相手の心を動かし、行動につなげられるのでしょうか?
ここで重要なのは、相手の立場に立ち、相手が行動変容に向けて動機づけされるような伝え方を考えることです。

今回は、相手の心を動かすための4つのポイント「ARCS(アークス)モデル」をご紹介します。
ARCSモデルはインストラクショナルデザイン(ID)の理論の一つです。
教育の現場や企業研修など、さまざまな場面で活用されている教育工学の理論で、相手の「行動変容の意欲」や「学ぶ意欲」を引き出すのに役立ちます。

相手の心を動かし、行動変容を促すために、ぜひ参考にしてみてください。

ご参考:
インストラクショナルデザイン ~教え方にはルールがある!?~

「教える」スキルは、ビジネスコミュニケーションの共通課題

ARCSモデルご紹介の前に、もう少しお付き合いください。
このコラムを読んでいる皆さんの中には、人に「教える」立場にある方が多いのではないでしょうか。そして、「教える」スキルがビジネスの中でとても重要だと感じていることでしょう。

部下を指導する上司や、研修を担当する講師など、人材育成を担っている方はもちろん、ビジネスのさまざまな場面で「教える」スキルが求められます。それは社内でのコミュニケーションだけではなく、社外のお客様に対しても同様です。お客様に対して商品やサービスをわかりやすく説明する機会も多く、「教える」スキルが大きな役割を果たしています。

ビジネスにおける「教える」場面
社内 社外
  • 部下を指導する
  • 講師として研修する
  • 新人に業務の進め方を教える
  • 社内のステークホルダーにプロジェクトの価値や進め方を伝える   など
  • お客様にサービスの説明をする
  • お客様に製品の使い方を教える
  • お客様の課題に対するソリューションやその価値を伝える  など

「教える」スキルの本質とは?

前述した「教える」スキルですが、その本質はただ知識を伝えることではなく、相手に行動の変化を促すことにあります。
とはいえ、相手に行動変容を促す、つまり、

  • 相手の心を動かし
  • 行動に移してもらう

ということは、簡単なことではありません。この難しさは、多くの方が共感できる部分ではないでしょうか。

ご参考:
‟マインド″ を育成するための5つのステップ

「ARCSモデル」教える側が意識すべき4つのポイント

ARCSモデルは、教育工学・教育心理学者のジョン・ケラーが1983年に提唱したフレームワークで、学ぶ人の意欲を高め、持続させるために、教える側がどう動機付けを工夫すべきかを整理したものです。

このモデルは、「注意(Attention)」「関連性(Relevance)」「自信(Confidence)」「満足感(Satisfaction)」の4つの要素から成り立っており、それぞれの頭文字を取って「ARCS(アークス)」と呼ばれています。

行動変容や学ぶ意欲を引き出すことは、とても繊細で難しい作業ですが、ARCSモデルはそのメカニズムを心理的な要因を交えながらシンプルに体系化しています。

相手に何かを教えたり伝えたりする際には、このARCSの4つのポイントを取り入れているかを意識することが大切です。
この工夫を加えることで、相手の心に響きやすくなり、行動変容を促す効果が期待できます。

次に、それぞれのポイントについて詳しくご紹介します。

A(Attention) - 注意喚起の工夫

相手に「面白そうだな」「もっと知りたい」と思わせるような、興味や好奇心、探求心を引き出す工夫が大切です。
教え方・伝え方を考えるときには、以下のようなポイントを考慮します。

  • 知覚的喚起:どうすれば相手の興味を引き出せるか?たとえば、視覚的な工夫やインパクトのある言葉を使ってみましょう。
  • 探求心の喚起:相手に「もっと知りたい」「やってみたい」と思わせるためには、どのように好奇心を刺激できるかを考えてみてください。
  • 変化性:相手の興味や関心をどうすれば持続させられるか?内容に変化やサプライズを織り交ぜたり、休憩を挟んで気分転換を図ったりすると関心が持続しやすくなります。

R(Relevance) - 関連性の工夫

相手に「これって自分に関係あるな」「やりがいがありそうだ」と感じてもらうことが重要です。
教わる内容が相手にとって身近で意義あるものだと感じれば、自然と前向きな姿勢で学んでくれるでしょう。
教え方・伝え方を考えるときには、以下のようなポイントを考慮します。

  • 親しみやすさ:相手の経験や日常に関連づけて教えることで、内容がぐっと身近に感じられるようになります。
  • 目的指向性:教える内容が、相手の目標や課題にどう関わっているかをはっきり示すと、理解が深まりやすくなります。教える内容が学習者にとって、「自分のもの」になるような工夫ができることがポイントです。
  • 動機との一致:相手の「どう学びたいのか」に応えるような仕掛けや印象作りを工夫して個々の学習者の学びのプロセスを支援することで、相手が積極的になりやすくなります。

C(Confidence) - 自信を持たせる工夫

「やればできる!」と感じてもらうためには、相手に成功体験を実感させ、その成功が自分の努力や能力のおかげだと思ってもらうことが大切です。
学んだことが身についていると感じられれば、自然と自信がついてきます。
教え方・伝え方を考えるときには、以下のようなポイントを考慮します。

  • 学習要求:何ができたら達成であるかを明確に判別できるゴールを示すことで、「これなら自分にもできそう!」と期待感を持ってもらうことが大切です。段階的な目標を立て、ゴールまでの見通しを立てやすくするのもよいでしょう。
  • 成功の機会:少しずつ成功体験を積み重ねることで、相手の自信を育てていきましょう。成功のための、安心して失敗できる場を用意すること、他人ではなく過去の自分との比較ができるような環境作りがモチベーションを高めます。
  • コントロールの個人化:相手が成功体験を「自分の力で成し遂げた」と感じられるように工夫することで、自信を深めることができます。

S(Satisfaction) - 満足感を与える工夫

「やってよかった!」と感じてもらうことは、学びのモチベーションを継続させるためにとても大切です。教わったことや学んだスキルが実際に役立つと実感することで、相手に満足感を与え、新たな行動変容への意欲を引き出せます。行動の結果が目に見える形で現れたり、適切な報奨が与えられたりすると、さらに次のステップへ進む力になります。
教え方・伝え方を考えるときには、以下のようなポイントを考慮します。

  • 自然な結果:相手の興味や関心をより深めるには、学んだことをすぐに(シミュレーションなど擬似的な環境でも、本番の環境でも)実践する場面を提供し、学んだことがきちんと結果につながっていることを自然と理解できるような工夫、仕掛けを行うと良いでしょう。
  • 肯定的な結果:行動変容があった際に、賞賛や報酬を通じてその成果をしっかり認め、モチベーションを高めましょう。
  • 公平さ:バイアスのないオープンな環境で、行動変容が公正に評価されることで、相手に満足感と信頼感を持ってもらえます。

ご参考:
ARCSによる動機づけで誤解しやすいポイント3選
インストラクショナルデザイン講座「学習者をやる気にさせる4つのマインド」(YouTube)

「ARCSモデル」を活用し、「教える」スキルを向上させよう

ARCSモデルは、教える側が物事を伝える際に考慮すべき工夫を示しています。
この4つのポイントに沿って意識的に動機づけを行うことで、相手の行動変容に対する意欲を高め、積極的に行動を促す環境を整えることができます。

相手との対話やコミュニケーションを進める際に、これらの工夫を取り入れてみてはいかがでしょうか?部下指導の場面や研修の講師として教えるとき、さらにはお客様やユーザーにソリューションの手法や価値を伝える際など、さまざまなコミュニケーションの場面で「教える」スキルに課題を感じた際には、ぜひARCSモデルを活用してみてください。

人材育成の設計や支援についてお悩みがあれば、リープにぜひご相談ください!

リープへのご相談はこちら

 

 

 

 

 

 

 

関連記事一覧