『キャロルの時間モデル』で成長の阻害要因を整理しよう

インストラクショナルデザイン, パフォーマンス評価・設計, 人材育成, 学習支援, 学習課題分析

同じように指導しているのに、人によって成長にバラツキが出てきてしまうのはなぜでしょうか。
どうして、パパッとできるようになる人と時間がかかる人がいるのでしょうか。

人が何かをできるようになるまでに想定より時間がかかるとき、要因をその人の“資質の有無”で捉えてしまいがちですが、実はその他にも様々な要因があるかもしれません。

学習者が「自分には資質がないんだ」と思って学びを諦めてしまうほど悲しいことはありませんよね。
「その人に必要な時間をかければ、誰でも学習課題を達成できる」ことを示した『キャロルの時間モデル』を使って、伸び悩みの要因を整理してみませんか?

必要な時間をかければ誰でも学習課題を達成できる『キャロルの時間モデル』

1963年にジョン・B・キャロルが『学校学習の時間モデル』を提唱しました。これは学校教育における子供たちの成績の差を捉えた理論ですが、大人の学びにもあてはめることができます。
『キャロルの時間モデル』とも呼ばれるこのモデルは、学習の成否(できるようになる/ならない)は学習者の資質や能力の差によるのではなく、“学習に必要な時間をかけたか否か”であると説いたものです。つまり、できないのはその人の能力や資質が不足しているからではなく、かけた時間が足りないからだとする理論です。

もちろん、やみくもに時間をかけることを推奨しているわけではありません。
キャロルは学習に必要な時間をどうコンパクトにしていくかを、“学習率”という観点で説明しています。

学習課題の達成度合いを示す“学習率”

『ある学習課題を達成するために必要な時間は学習者によって異なり、その人に必要な時間をかけさえすれば誰でもその学習課題を達成できる』という視点で、その達成の度合いを“学習率”として次の式で表しています。

さらに、“学習に費やされた時間”と“学習に必要な時間”はそれぞれに影響を与えるとするいくつかの変数(要因)を示しています。

<学習に必要な時間(time needed)を左右する変数>
課題への適性:理想的な学習環境において、ある学習者が課題達成にかかる所要時間。短時間なら適性が高い。
授業の質:教師自身が実施する授業だけでなく、教科書、問題集、コンピュータ教材などにも当てはまる。質が高い授業は短時間。
授業理解力:授業の質の低さを克服する学習者の力。一般的な知能と言語能力が高いと、授業理解力も高い傾向がある。

<学習に費やされる時間を左右する変数>
学習機会(許容された学習時間):ある課題を学習するためにカリキュラムの中に用意されている授業時間。
学習持続力(学習意欲):与えられた学習機会のうち、実際に学ぼうと努力して、学習に使われた時間。使われた時間の割合が高ければ高いほど学習持続力が高いとみなす。

出典:鈴木克明 監修,市川尚・根本順子 編著, 『インストラクショナルデザインの道具箱101』(北大路書房, 2016, p.86)

⋙インストラクショナルデザインとは?

つまり、さきほどの学習率の式は次のようになります。

「能力が低い」「資質が無い」で片付けず、学習率を高める方法を考える

キャロルの時間モデルは、「必要な時間をかければ学習課題を達成できる」というポジティブさと育成を効率化する有用さを兼ね備えたモデルだと思います。

安易に学習者の資質の問題で片付けてしまうのではなく、キャロルの時間モデルの5つの要素<課題への適性・授業(指導)の質・授業(指導)理解力・学習機会・学習持続力>の観点で整理していくことで、これまで気がつかなかった成長の阻害要因を発見できるかもしれません。
例えば、研修時間そのものを増やすことは難しいかもしれませんが、研修前後のフォローアップとしてeラーニングなどを用いた事前学習や振り返りにより学習機会を増やしたり、動機づけモデルの『ARCS』などを活用して学習持続力を高めたり……そのような工夫で学習率を向上させることができるのではないでしょうか。
⋙相手の心を動かす4つのポイント「ARCS(アークス)」モデルとは?

部下の育成に行き詰まったとき、部下自身が伸び悩みに苦しんでいるときには、ぜひ『キャロルの時間モデル』を使って現状を整理してみてください。
より学びやすくなるためのヒントがきっと見つかるはずです!

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