トレーニングのコスパを考える!「ROI」という視点
「あれ?このトレーニングって、なんのためにやってるんだっけ??」
あなたがトレーニングなど学習コンテンツの見積書をベンダからとったときに、高いか、安いのか、どうやって判断しますか?
相見積りをとって比較しますか?
そのベンダにしかないユニークなコンテンツの場合、費用の妥当性はどう判断しますか?
同類のコンテンツを提供しているベンダがある場合でも、算定方法や、コンテンツに含まれているものが違って(講師費用、テキスト、eラーニングなど)、単純には比較できませんよね。
そんな時はトレーニングのコスパをROIという観点で検証してみてはいかがでしょうか?
ROIという観点でトレーニングを見つめなおすことは、外注したベンダの見積りの妥当性だけでなく、トレーナーなど社内リソース確保の交渉が必要な時にも役立ちます!
トレーニングのコスパを検証するROIという視点
教育評価といえばカークパトリックの4段階評価モデルがメジャーですが、ジャック・フィリップスはレベル4の上位にレベル5 ROI(Return on Investment)を提唱しています。
ROIは以下のようにして計算します。
ROI=(研修の金銭的価値-研修費用の合計値)/研修費用の合計値
ROIの計算において難しいのは、研修が生み出す金銭的価値を見極めることです。
研修以外の要因によって影響をもたらしていると思われる部分を分離し、金銭的な価値に転換します。その際に金銭的な価値でない測定不可能なもの(例:組織へのロイヤリティ向上、チームワーク改善など)については「インタンビジブル」として併記します。
カークパトリックの4段階モデルに関するご参考リンク
研修はテストとアンケートの両方でしっかり効果測定しよう!
受講者テストってどんな種類があるの?【カークパトリック4段階評価モデル】*動画 音が出ます*
「この研修はなぜ必要なの?」という問いに答えられる!
カークパトリックに言わせれば、「ジャック・フィリップスのレベル5はレベル4(結果・業績)の一部」ということですが、いずれにしてもROIという観点で全体を捉えて整理しておくことは、トレーニングを担う皆さんにとって「なぜこの研修は必要なのか?」ということを組織やステークホルダーに説明する際に非常に役に立ちます。
研修実施後に慌ててレベル4やROIを証明できないか試行錯誤する人は多いと思いますが、研修企画段階でROIを意識しておくことで、「そのトレーニングで”できるようになったこと”は、職場のどんな問題を解決し、その問題が解決することはどんなビジネスインパクトをもたらすのか」、つまりトレーニングゴールとパフォーマンスゴール、ビジネスゴールとの紐づけができます。
ROIの計算は複雑で、厳密に試算しようとすると心が折れてしまいますが、トレーニングの企画段階で上記のプロセスを経てビジネスゴールから紐づけて考えておくことにより、「このスキルを習得することは、現場で起きているどんな問題で役に立ち、それは組織に対してどんな成果を生み出すことになるのか?」という、学習の動機づけ理論であるARCSのAやRとしてトレーニング設計にも活かすことができます。
ARCSモデルに関する参考リンク:
相手の心を動かす4つのポイント「ARCS(アークス)」モデル
永遠のお悩み「人のヤル気」問題に答えます
【事例で考える!】マネジャーのコーチング研修編
マネジャーに向けにコーチング研修を実施して欲しいと営業部門から依頼がありました。
営業担当者は100名、マネジャーは10名です。コーチング研修については以前より外部講師で実施しており、自社の文脈に合わせてコンテンツをアレンジして実施してくれることから、あなたはこの講師(ベンダ)に依頼したいと考えています。
見積りを取ったところ「200万円(税別)」とのことでした。
上司に相談したところ、期末で予算の残りが少ないことから、二つ返事でOKというわけにはいきません。
講師費用を値切る、外注はあきらめて自前で実施する…
その前に、このトレーニングの必要性と費用の妥当性をROIの観点で整理して説明してみてください。
このトレーニングでマネジャーは何ができるようになるのか?(レベル2)
例:マネジャーが現場での部下指導に使える「コーチング」ができる
そもそも職場ではどんな問題が起こっているのか?(レベル3)
例:新規サービスのリリースに合わせた営業力強化のため、営業担当者を中途採用によって大幅増員したが、無形商材の営業経験がなく、商談に苦戦している。商談スキルアップに向けたトレーニングは提供しているが、商談スタイルを変更できない営業担当者が全体の4割(40名)いる。現場でのOJT体制が十分に取られておらず、売上目標達成に苦戦している。
その職場問題が解決することで、事業にどんなインパクトをもたらすことができるのか?(レベル4)
例:マネジャーのコーチングにより、無形商材に対応できる営業担当者を6割(60名)から8割(80名)に増やすことができれば、新たに無形商材の商談に対応できるようになった営業担当者の成果により、売上が平均3%上がる(商談スキルが高い営業担当者の売上達成率から算定)と予想される。
想定される事業インパクトから、トレーニングにかかるコスト(外注費、社内リソースなど)を差し引いたときに、元はとれるのか?(レベル5)
ROI=(研修の金銭的価値-研修費用の合計値)/研修費用の合計値
例:
- 研修の金銭的価値…営業担当者 20名×売上3%
- 研修費用の合計値…<直接費用>コーチング研修費用200万円+テキストブック費用5万円+<間接費用>マネジャー10名の研修参加時間分の給与+事務局の準備にかかった人件費
(注:今回のトレーニングはオンラインで実施するため交通費、会場費などは発生しない)
このトレーニングは何をできるようにするためのトレーニングで(レベル2)、それは現場のどんな問題を解決することができて(レベル3)、その問題が解決するとどんな成果が期待できて(レベル4)、研修にかかるコストからROIを試算すると(レベル5)、営業担当者 20名が売上3%アップすれば、2カ月で、コーチング研修にかかるコストは十分に元を取れる…
そんな風に試算をしてみることで、上司に交渉したり、営業部門やマーケティング部門から予算を取ってくることができます。
「現場はもっと複雑でそんな単純に計算できないよ…」と思われるかもしれませんが、概算でも仮説でも良いので、ステークホルダーに話す前に、この4つの観点をつなげて整理してみてください。
コーチング研修においても、受講しているマネジャーに対して、「現場に戻った後、誰に対して(無形商材の商談に対応できない部下)集中的にコーチングを実施して欲しいのか」(レベル3)、「そのコーチングによって売上に対してどんなインパクトを期待しているのか」(レベル4)について説明することで、何のためのトレーニングなのかを明確にすることができます。
トレーニングのROIを意識する=研修企画段階で評価設計を考えること!
トレーニングのROI(レベル5)は一足飛びに計算できないので、レベル1(反応)、2(学習)、3(行動)を評価することが大前提となります。これは言い換えると研修の企画段階からニーズ分析と評価設計をしっかりしておきましょう…ということです。
インストラクショナルデザインを実施する上でもっとも多い ”つまずきポイント”である、『ニーズ分析と評価設計』に困ったら、是非リープにご相談ください!!