部下を成功に導く! フィードバックの3つの黄金ルール

OJT, コーチング, フレームワーク, リスキリング, リフレクション, 人材育成, 学習支援, 振り返り, 教育設計

ざっくりのあらすじ
1.人材開発やリスキリングの推進にあたり、上司から部下へのフィードバックの質の向上や強化が求められている。
2.フィードバックの効果を高めるには、「フィードアップ」「フィードバック」「フィードフォワード」の3つの要素がそろっていることが重要。
3.フィードアップ、フィードバック、フィードフォワードを実践するための部下への問いかけの仕方とは?
4.3つの要素を意識した指導により、部下が自身の改善点やネクストアクションを腹落ちしやすくなり、人材育成の効果が高まる。

人材開発やリスキリングの推進が国を挙げて叫ばれる中、多くの企業や組織が、OJTや1on1などの上司による部下指導の取り組みを一層強化しています。人材育成においては上司から部下へのフィードバックが欠かせません。しかし実際のところ、フィードバックとは具体的に何をしたらいいのでしょうか?

効果的な1on1のやり方、ティーチングにコーチング、傾聴や部下との関係性づくりなど、フィードバックに関する理論やノウハウは数多く存在します。しかし、どうフィードバックしたらよいかが分からなかったり、「フィードバックのつもりがダメ出しになってしまった」といった失敗談も少なくありません。

実際にフィードバックのポイントやコツをインターネットで検索すると、ポジティブ・フィードバック、ネガティブ・フィードバック、SBI型、FEED型、KPT型、サンドイッチ型、ペンドルトン型など、多くのキーワードが出てきます。いずれも有効かつ大事なアプローチですが、今回は「The Power of Feedback」(Hattie & Timperley, 2007)に基づく、フィードバックの効果を高める3つの要素「フィードアップ」「フィードバック」「フィードフォワード」について紹介します。

フィードバックの効果を高める3つの要素:「フィードアップ」「フィードバック」「フィードフォワード」

フィードバックの主な目的は、目標(あるべき姿)と現状のパフォーマンスとの間の不一致を減らすことです。そのためには、その不一致がなぜ起きているのか、その状況を、上司と部下がともに理解することが重要といえます。
Hattie と Timperley は、こうした目的を果たし効果的なフィードバックを提供するためには、重要な“3つの問い”があるとしています。

フィードアップ (Feed Up):「Where am I going? (What are the goals?)」(目標の設定・再確認)

1つ目は「どこに向かっているのか?」という問いです。学習者が目標や方向性を理解することの重要性を示します。上司は、部下と望ましい成果や具体的な目標を明確に共有します。これにより、部下は自分が達成すべき方向性や役割を再確認し、集中して取り組むことができます。たとえば、「今月の目標は新規顧客を5件獲得することです」とあらためて確認することで、課題の明確化や具体的な行動計画を行いやすくなります。

フィードバック (Feed Back):「How am I going? (What progress is being made toward the goal?)」(ここまでの手段・方法の評価、振り返り)

2つ目は「どう向かっているのか?」という問いです。現在の進捗状況を評価し、目標達成に向けた手段や方法を確認することの重要性を示します。上司と部下は、部下の行動や成果を評価し、強化すべき点や改善すべき点を具体的に述べます。これにより、部下は自己評価を行い、成長を促進することができます。
ポイントは、「過去」の時間軸にフォーカスする点です。たとえば、「先月の新規顧客獲得の目標に対して、3件獲得できました。お客様のニーズをしっかりと聞いて対応できた点は良かったですが、提案資料の準備が不足していたために失注した案件がありました」と、実際に行ったこと、過去の事実、それらに対する考えや改善点などについて、具体的なフィードバックを行います。

フィードフォワード (Feed Forward):「Where to next? (What activities need to be undertaken to make better progress?)」(今後の行動や目標の再設定)

3つ目は「次にどこへ向かうのか?」という問いです。次に取るべき行動を計画することの重要性を示します。上司は、部下に対して今後の行動計画や改善の方向性を提案し、目標達成に向けた支援を行います。これにより、部下は次のステップを具体的に計画し、準備を進めることができます。
フィードバックが過去にフォーカスするのに対し、フィードフォワードは「未来」にフォーカスするのがポイントです。たとえば、「次回の商談では、提案資料を事前に準備し、お客様のニーズに合わせた提案を行うようにしましょう。明日の会議で提案資料のレビューを行いましょう」と次のアクションを具体的に示します。

「フィードアップ」「フィードバック」「フィードフォワード」を取り入れる具体的な方法は?

フィードアップ、フィードバック、フィードフォワードの3つの要素が部下指導の効果を高めることをご紹介しましたが、具体的に部下とどのようなやりとりをしたらよいのでしょうか?

以下は、営業担当のAさんと、Aさんの商談に同行した上司の、商談後のやりとりの事例です。やや一方的に上司がAさんに商談の改善点を伝えており、3つの要素が十分に取り入れられているとはいえません。
あなたがAさんの上司だとしたら、フィードアップ、フィードバック、フィードフォワードの3要素をふまえて、Aさんにどのように問いかけますか?
ぜひ考えてみてください!

事例

  1. 上司:さっきの商談で、Aさんはいきなり製品説明から入ったと思うけど、そのときのお客様の顔を覚えている?
  2.  部下A:えっと……よく見ていませんでした。
  3. 上司:お客様、少し戸惑った顔をしていたよ。前にも言ったかもしれないけれど、常にお客様の表情を見ながら話したほうがいいかな。Aさんが説明した内容のほかにもっと聞きたいことがあったかもしれないからね。次からはお客様の顔をよく見て、まずお客様のニーズをお聞きしてみて。
  4. 部下A:はい、次回から気を付けます。

フィードアップの問いかけの例

  • 今回の商談のゴールは何か?
  • 今回の目標は何か?(スキル目標 など)
  • 前回の商談で決めた、今回のアクションプランは何か?
  • この商談で達成したい具体的な成果は何か?
  • 今月/今期の目標は? そのためにあなたが現状取り組むべきことは?

など

フィードバックの問いかけの例

  • 今回の商談を自己評価するとどうだったか?
  • どんなところがうまくいったか?/うまくいかなかったか?
  • うまくいったところ/うまくいかなかったところは、なぜそう思ったか? どうやればよかったと思うか?
  • 自分の成長を感じた部分があったか?
  • 自分の力で解決が難しい障害などがあったか?

など

フィードフォワードの問いかけの例

  • 今回をふまえて、次回は何をするか?
  • いつから取り組むか?
  • 成果につなげるために、どのような商談ができるとよいと思うか?
  • 顧客とどのような関係が作れるとよいと思うか?
  • 今後、どのような支援があれば成功しやすいと感じるか?
  • 自分(上司)のほかに、支援してほしい人はいるか?
  • 今後、強化していきたいスキルなどはあるか?

など

3つの要素を意識した問いかけがなされることで、部下も「どこを、なぜ改善すべきなのか」が腹落ちしやすくなり、「次に何をすべきなのか」も明確になるのではないでしょうか。

フィードアップ・フィードバック・フィードフォワードの3点セットが部下の成長のカギ!

よかった点や改善点をただ伝えるのではなく、もともと設定している目標に対して(フィードアップ)、どうよかったのか/悪かったのか/どこまでできていたのか(フィードバック)、目標に近づくために次に何をすべきか(フィードフォワード)の観点で部下とやりとりをすることが、部下指導には効果的です。

これらは「あるべき姿」と「現状」とその「GAP」を整理するという問題解決の観点であり、この観点自体は珍しいものではありませんが、部下へのフィードバックの場面においては意外とこの要素を押さえられていなかったり、見落としてしまっていることも多い気がします。あらためて「フィードアップ」「フィードバック」「フィードフォワード」の3つのキーワードで捉えることで、指導育成の場が進めやすくなるのではないでしょうか?

営業同行後や商談ロールプレイの後の振り返り、部下との1on1の場面などで、「フィードアップ」「フィードバック」「フィードフォワード」の3点セットを活用して、部下指導の効果をぜひ高めていただければと思います!

 

執筆者プロフィール

月足 由香 リープ株式会社 アシスタントマネージャー・インストラクショナルデザイナー

ラーニングデザイナー(eLC認定 e-Learning Professional)、コンテンツクリエイター(eLC認定 e-Learning Professional)、
SCORM技術者(eLC認定 e-Learning Professional)、CompTIA CTT+ Classroom Trainer、CompTIA Project+、修士(教授システム学)
社内では月ちゃんと呼ばれています。みなさまにもお気軽にお声がけいただけたら嬉しいです!

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