職場の学習革命『PLE30』~学びで未来を変えるための30の指標~

インストラクショナルデザイン, 学習支援, 学習環境, 教育設計

ざっくりのあらすじ
1.ビジネスパーソンは、自身の学びの70%を職場・実務経験から得る(研修からは10%!?)
2.全ての社員がビジネス目標達成につながる学習を常に継続できるような環境を『肯定的学習環境(PLE)』という
3.PLEを見極める30の指標(PLE30)を活用して職場が肯定的学習環境であるかをチェックし、学びの連鎖を生むことができる
4.学習環境の整備は教育全体に影響し、肯定的な学習環境を作ることで組織の成長と自走を促進する

研修から得られる学びは10%

「部下はどこに消えた? あ、研修か……」

これは過去にリープのメルマガの件名だったフレーズなのですが、このコラムをお読みの皆様にも、「オフィスで部下を見かけないと思ったら研修に参加していて不在だった」なんてご経験がおありの方もいらっしゃるのではないでしょうか。

研修と現場の連携が取れておらず切り離された状態というのは、人材育成においては“あるある”の課題で、リープのコラムでもたびたび触れてきました(「『研修』と『現場』の垣根をなくすワークプレイスラーニング」,「研修の効果測定『レベル2学習』と『レベル3行動』 赤壁の戦い」 など)。
企業における教育というと、いまだに研修や講義、セミナーといったフォーマル学習を思い浮かべる人が多いですが、そうした公式の学習の場から得られる学びは10%にとどまり、学びの20%は他者との関わりから、70%は職場・実務経験から得られると言われています(ロミンガーの法則)。

実務経験から学べるというのであれば、どんな職場でもとりあえず働いていればどんどんと学びが進むものなのでしょうか?
当然、そうではありませんよね。
たとえば最近、心理的安全性という言葉をよく耳にしたり、1on1などの取り組みを強化して社内の関係性や指導育成の質の向上を目指したりなど、多くの皆様が職場環境、教育環境が良くなるように心を砕いていらっしゃるものと思います。
そう、学びが促進するにはやはり、良い学習環境、つまり「肯定的な学習環境」が構築されていることがとても重要なのです。

職場が肯定的学習環境(PLE)かどうか見極めるための30の指標

Tobin(2000)は、企業全体が自己管理学習を推進するために必要不可欠なものとして「肯定的学習環境(Positive Learning Environment, PLE)」を提唱しました。PLEは、「社長から一般社員までのすべての社員が、ビジネス目標達成のために常に学習の態勢にあること」と定義されます。これは、社員のすべての学習活動が具体的な業務やビジネス目標に直接関連し、さらに、常に新しいアイディアの追求と共有が社員同士で積極的に推進されている状態を意味します。

PLEは、自己管理学習を推進するための環境であり、学習の継続、イノベーションの促進、組織全体の成長を支える重要な要素といえます。
Tobinは、組織がPLE、つまり学習環境が肯定的であるかを確認するための指標を、PlanSoft社のMike Kunkleが作成した15の指標に、さらに15項目を付け加える形で作成しました。

以下が、「職場が肯定的学習環境(PLE)かどうか見極めるための30の指標」、通称「PLE30」です。

【職場が肯定的学習環境(PLE)かどうか見極めるための30の指標】
    1. アイディアに対し公式、非公式な反応がある。
    2. 提言が歓迎される。
    3. 失敗が教育とみなされる。
    4. 会社が業務関連の購読費・参加費等を払う。
    5. 検閲・派閥などがない。
    6. 社員が経営部のアイディアに反対できる。
    7. フォーカスグループのような集まりが奨励される。
    8. ブレインストーミングが一般的である。
    9. OJTが使われている。
    10. 適切な場面で研修が奨励される。
    11. 上司も部下が学習している内容を学習する。
    12. コーチングが一般的である。
    13. 学習はイベントではなくプロセスである。
    14. 360度の調査(上司部下同僚を含むすべての関係者からの聴取)が行なわれる。
    15. 能力の評価が恐れられず、社員の学習や成長に関連づけられている。
    16. 部局をこえたチームワークが一般的である。
    17. タスクフォースが様々な地位・場所・部局の社員からなる。
    18. すべての社員が会社の概要をプレゼンテーションできる。
    19. 社員が仕事を拡大し、顧客や取引業者の業務について学ぶことが奨励される。
    20. キャリアパスが部局・事業単位・地理の枠を越えて開かれている。
    21. 社員がお互いに話し合い問題を解決することが奨励されている。
    22. すべての部局・レベルで会社が学習ガイドを発行している。
    23. 会社が図書館やインターネット設備を備えている。
    24. job shadowing(上司の影となり終日同行・観察すること)が奨励される。
    25. 飲食持ち込み可のセミナーが定期的に開催される。
    26. 重役が社員と話すために時間を割いている。
    27. すべての職位レベルでメンターのプログラムがある。
    28. 自分の専門に関して社外で活動することが奨励され報酬が出される。
    29. 社員が常によりよい実践を求めている。
    30. 社員がミーティングを楽しみにしている。

※ PlanSoft社(会議・イベント用ソリューション提案会社)のMike Kunkleが作成した15の指標に、Tobinが15項目を付け足したもの(Tobin,2000)の西渕・鈴木による訳出
※ 出典:鈴木克明(2015)『研修設計マニュアル―人材育成のためのインストラクショナルデザイン―』p.211, 北大路書房.

IDの5つの視点の「⑤学習環境」の重要性

教育を設計する際には、IDの5つの視点を活用しますが、このような「学習環境」は通し番号で最後の⑤として記載されているため、検討するのが後回しになったり、おざなりになったりしてしまっている研修も少なくないかもしれません。

 

⑤学習環境は①~④の全体を包括します。つまり、教育全体に影響する超大事な視点なのです。いえ、もちろん5つのうち大事でない視点はないのですが……どうしても(ID導入時はとくに)①出口や、④学習方略などにとらわれてしまいがちではないでしょうか。

研修内容だけならまだしも、職場環境を変えていくなんて、壮大に聞こえてしまいますか?
「とてもやれない」と思われてしまうでしょうか?

人は、自分が教えられたように教える傾向があります。つまり、放任的、否定的な教育を受けた人はそれを自分の部下や後輩にもしてしまう可能性があり、その部下や後輩が将来また……という負の連鎖につながってしまいます。
逆に、一度よい学習環境を作ることができれば、ポジティブな学びの連鎖を生むことができ、自ら成長する組織、自走する組織を作ることも全く夢ではありません。
実際に肯定的学習環境を構築し、大きな成長を実現された企業様もたくさんいらっしゃいます。

ご参考:
【イベントレポート】 測る力が組織を変える~横河電機様の事例より~ | リープ株式会社
リープの実例を公開!学習環境を整えて、社員のやる気を引き出すコツ | リープ株式会社

PLE30をチェックすれば、もう学習環境づくりは始まっている!

ビジネスパーソンの学びの7割を占める職場。どんなに素敵な研修でも、どんなに学習者の満足度が高くとも、研修の真の成否を分けるのはもしかしたら、部下たちが戻っていく職場環境なのかもしれません。
誰も教えない、学ばない、職場がそんな荒んだ学習環境になってしまう前に、まずはPLE30でチェックしてみませんか?
なんといっても「評価は最高の学び」です。チェックするだけでも肯定的学習環境への第一歩となるはずです。

なんとなく職場での指導育成がうまくいっていないと思ったらぜひPLE30を活用してみていただければと思います。

 

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執筆者プロフィール

月足 由香 リープ株式会社 アシスタントマネージャー・インストラクショナルデザイナー

ラーニングデザイナー(eLC認定 e-Learning Professional)、コンテンツクリエイター(eLC認定 e-Learning Professional)、
SCORM技術者(eLC認定 e-Learning Professional)、CompTIA CTT+ Classroom Trainer、CompTIA Project+、修士(教授システム学)
社内では月ちゃんと呼ばれています。みなさまにもお気軽にお声がけいただけたら嬉しいです!

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