上司も部下も研修部も今すぐ使える!“デキる”の大原則『メリルのID第一原理』

インストラクショナルデザイン, フレームワーク, 人材育成, 学習支援, 教育設計

ざっくりのあらすじ
1.インストラクショナルデザインには、その多くの理論に共通する基本原理をまとめた“第一原理”がある
2.M・デイビッド・メリルが提唱したID第一原理は5つの要素(問題、活性化、例示、応用、統合)で構成されている
3.現実の問題解決に役立つため、実務上のタスク・課題解決のための指導育成に非常に効果的
4.柔軟に取り入れやすく、研修、OJTや自己学習などさまざまな教育場面で幅広く活用可能

ID第一原理_アイキャッチ
従業員のスキル向上、そして業績の向上を目指すには、どのような育成方法が最適なのでしょうか?
伝統的な講義形式の研修や、前年度と同じ内容を繰り返すような前例踏襲型の教育では、成果が見えにくいことが多々あります。

・新しいプロジェクト管理ツールを導入したのに、社員がうまく使いこなせない
・新しい営業手法をトレーニングしたのに、現場でその効果が見られない

研修、OJTなど問わず、こうした人材育成に関するお悩みは、多くの企業が抱える共通の問題です。
そんなときは、インストラクショナルデザインの大原則に頼ってみるのはいかがでしょうか?

あらゆる教育の設計指針『メリルのID第一原理』

M・デイビッド・メリルはIDモデル・理論に共通する要素は5つであるとしてID第一原理を提唱しました。

ID第一原理

この学習理論は研修設計や教材設計など、あらゆる状況において活用でき、とくに現実に起きている/起こりうるタスクや問題・課題の解決に最適なのです。

1. 問題(Problem):現実に起こりそうな問題に挑戦する

具体的なタスクや問題に焦点を当て、それらと新しい知識・スキルを紐づけることが重要です。学習者は抽象的な理論よりも、実際の問題解決に関連した内容を学ぶことで効果的に学ぶことができます。

<例>実際の商談での失敗経験の想起
実際の商談で顧客から十分にニーズや課題を引き出せなかった経験などを想起させたり、過去に起きた失敗事例(失礼な質問をして顧客を怒らせてしまった など)をこれから自分にも起こりうる問題として認識させたりするなどして、学習者に今回の学習内容を自分の問題として紐づけて認識させる。
2. 活性化(Activation):すでに知っている知識を動員する

新しい知識・スキルを学ぶ前に、関連する既存の知識・スキルや実際の経験を想起させる=学習者の既有知識・スキルを活性化することが重要です。これにより、新しい情報が既存の知識と関連付けられ、理解を深めることができます。逆に言えば、今回の学習内容に前提として連なる知識・スキルが学習者にとって既有のものでないと、学習内容の十分な習得につながらないおそれがあるといえます。

<例>過去の商談での質問経験の共有
学習者がすでに知っている質問技法や、過去にうまくいった質問の経験を思い起こさせるなどして経験を振り返らせ、新たに学ぶ質問技法と過去の経験を結びつけることで理解・習得を促進する。
3. 例示(Demonstration):例示がある(Tell me でなく Show me)

新しい知識・スキルは、実際の業務での文脈における具体的な例やデモンストレーションを通じて示されることが重要です。学習者は自身の実際の活用場面を想定した具体事例を観察することで理解を深めることができます。

<例>熟練営業マンによる質問技法のデモンストレーション
トップ営業マンが顧客のニーズを引き出すための効果的な質問技法をデモンストレーションしたり、その録画映像を学習者に視聴させるなどして、学習者がその技法を具体的にイメージできるようにする。
4. 応用(Application):応用するチャンスがある(Let me)

学んだ内容を実際に応用=練習する機会が学習者にあることが重要です。研修“内”などの、学んだその場ですぐ実践できる場があることが肝要であり、なおかつ、学習者の自己評価を経て指導者からフィードバックがなされることが非常に効果的であるといえます。自己評価→フィードバックのプロセスが重要であるのは、学習者の思考過程や認識齟齬の修正に効果的な流れであるからです。

<例>商談シナリオでの質問技法のロールプレイ
ペアを組んで、片方が営業担当者役、もう片方が顧客役となってロールプレイを行い、実際の商談を模した対話を進めながら適切な質問を投げかける練習をする。その後、指導者(熟練者)からフィードバックを受け、改善点を明確にすることで学習内容の適切な理解・実践を促進する。
5. 統合(Integration):現場で活用し、振り返るチャンスがある

学習した内容を現場で実践したり、他の学習状況に統合したりするプロセスが用意されていることが重要です。学習者は新しい知識を自分の知識体系に組み込む機会を経ることにより、持続的な理解や知識・スキルの定着を図ることができます。

<例>商談後のフィードバックと質問技法の振り返り
実際の商談が終了した後、学習者はその商談で使用した質問技法を振り返り、上司や同僚と一緒にフィードバックセッションを行う。具体的には、商談でどのような質問が効果的だったか、それらは学んだどの技法が該当するかを確認したり、改善できるポイントは何かを分析したりすることで、学んだスキルが日々の営業活動に統合され、持続的に活用されるようになる。

研修やOJTなどの教育の場面に、これらの原理が取り入れられていることにより、実務上の課題を改善したり、実践につながりやすい、効果的な教育プログラムの設計につながります。学習者がより深く、持続的に知識・スキルを習得するために非常に有用な理論であるといえます。

“教える”ためだけでなく、“学び”のヒントにもなる

アイディアの挿絵

ID第一原理は、上司や研修トレーナーなどの指導者だけでなく、学習者が自分の学びに活用することも可能です。

1. この学習は自分のどんな問題を解決するのか? <問題>
2. 過去に学んだどんな知識・スキルと関連しているのか? <活性化>
3. 実際に活用するのはどのような場面か?上司や先輩がやっていたあの場面が該当するのでは? <例示>
4. 本で読んだことを実際に今練習してみよう <応用>
5. 次の○○の機会でこの知識・スキルを使ってみよう <統合>

何か新しい知識・スキルを学ぶ際に、例えば上記のように学習者自身がID第一原理の5つの要素を意識して学習内容と紐づけて考えることで、学習の効果を高めることにつながります。
新しいことを学ぶのですから、もちろん学習者だけで補えない要素も出てくるかと思いますが、そんな場合にも「このスキルはどんな場面に役立ちそうでしょうか?」「実際にやっている先輩はいますか?」など、上司への相談するときのコツとしても使えるのではないでしょうか。

今日からすぐにでも使える『ID第一原理』をあなたの実務に役立てよう!

ID第一原理は、IDの数多くの理論・モデルに共通する要素を5つの原理としてまとめたものです。つまり、必ず5つセットでないと使えないものではありません。
取り入れやすいものから取り入れて、有効活用が可能です!

ご参考(※外部サイト):
IDマガジン第91号 – IDポータル 【連載】ヒゲ講師のID活動日誌(84) :学習支援のトップ10デザイン原理:メリル・ライゲルース対談@AECT2020

ID第一原理の一番の特徴は、現実のタスク・問題を中心に据えた学習理論であるということです。
つまり、実務や日常生活で使える知識・スキルの習得に非常に効果的かつ有用です。

あらゆる教育の場面に取り入れることができる、まさに“第一原理”ですので、ぜひ部下育成、研修、自身の学びなど様々な場面に取り入れていただければと思います!

執筆者プロフィール

月足 由香 リープ株式会社 アシスタントマネージャー・インストラクショナルデザイナー

ラーニングデザイナー(eLC認定 e-Learning Professional)、コンテンツクリエイター(eLC認定 e-Learning Professional)、
SCORM技術者(eLC認定 e-Learning Professional)、CompTIA CTT+ Classroom Trainer、CompTIA Project+、修士(教授システム学)
社内では月ちゃんと呼ばれています。みなさまにもお気軽にお声がけいただけたら嬉しいです!

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