【コーチング談義 Vol.2】PBPの視点で効果的な成長支援への道筋を紐解く

コーチング, パフォーマンス評価・設計, 人材育成

ざっくりのあらすじ
1. コーチングでは、コーチが「PBP(Possession, Behavior, Presence)」の3つの視点を持つことが重要
2. 目標設定は「Want to」で行い、クライアントが自分事として目標を捉えることが重要
3. 大きな目標を小さなステップに分解し、一つずつ達成していくことでクライアントが自信をつけ行動変容を促すことができる
4. コーチ自身もPBPの視点を活用し、常に自己研鑽を続け、成長していくことが大切

コーチングは、クライアントが目標を達成し、自己成長を遂げるための強力な手段です。そのために、コーチはどのような視点を持ってクライアントと向きあえばよいのでしょうか?

本記事では、コーチングにおける「PBP(Possession:所有、Behavior:行動、Presence:存在感)」という視点について、弊社代表取締役の堀と、弊社フェローの永田の対話を通じて掘り下げていきます。

◆ Profile

永田 寿夫 リープ株式会社 フェロー
認定プロフェッショナル コーチ。
外資系製薬企業3社で営業本部長を歴任し、現在は、リープにてフェロー(顧問)として、顧客企業のリーダーシップ、コーチングスキルの育成に取り組んでいる。

堀 貴史 リープ株式会社 代表取締役
外資系製薬企業などで、MR、マネジャー、マーケ・事業企画部長などを経験。東京都立産業技術大学院大学を修了し、現在は自然言語処理を用いたスキル評価や教育デザインを研究。
専門:感性工学/教育工学/自然言語処理 修士(創造技術)
資格:認定評価士、認定コーチ、認定アクションラーニングコーチ 等

コーチが持つべき視点「PBP」とは?

堀
前回の対談では、コーチングの3原則についてお話をしました。今回は、クライアントに対して、私たちコーチはどんな「視点」を持って臨むべきなのかを考えてみたいと思います。
いい議題ですね。コーチングを実施する際には、前回の対談で出てきたテーラーメイド、つまり相手のことを十分に知った上でコーチングをすることが大事になります。
永田
永田

堀:相手の状態を理解した上でテーラーメイドにコーチングを進める際に、コーチに必要とされる『PBP』と呼ばれる3つの視点について考えていきたいと思います。PBPとは、Possession、Behavior、Presenceの頭文字で、以下の意味となります。

*前回の対談の内容はこちらをご覧ください:
【コーチング談義 Vol.1】コーチングの「本質」に切り込む!

コーチに必要とされる視点 説明
Possession(ポゼッション) (知識やスキルなど)身に付けるもの
Behavior(ビヘイビア) 行動
Presence(プレゼンス) 考え方、信念

Possession(ポゼッション):身に付けるもの

堀:まずはPossessionの視点についてお聞きしたいと思います。

永田:Possessionは、クライアントに対する重要な問いかけの一つと言えます。

「これを達成するために、あなたはどんなものを身に付けなければなりませんか?どんな知識を持っていなければなりませんか?」というように、クライアントの気づきを促し、必要な知識やスキルを築いていくことが重要です。

例えば、マネージャーに必要なPossessionには、リーダーシップスキル、コミュニケーション能力、業界知識などが含まれます。ただ、実際の現場では目指すべき姿や目標が曖昧になっている場合も多く、クライアントが何を身に付けるべきかを把握することが難しいケースも多いと感じます。

堀:確かに、目指すべき姿が曖昧だと、具体的な行動につながりにくいですよね。

永田:そうですね。まず、抽象的な目標を具体化していく必要があります。例えば、「リーダーシップのあるマネージャーになる」という抽象的な目標を、より具体的な行動や成果に落とし込んでいくことが大切です。

堀:目標を具体化することは大切ですね。また、クライアントの経験によって、アプローチを変える必要もありそうです。例えば、新任のマネージャーと、ある程度経験のあるマネージャーでは、Possessionの捉え方が異なってきますね。

永田:はい、その通りです。新任のマネージャーの場合は、まっさらな状態からスタートできるため、固定観念に捉われずに何を見つけるべきかを考えることができます。一方、経験のあるマネージャーの場合は、すでに持っている知識やスキル、そして固定観念を考慮しながら、新たに必要なPossessionを探っていく必要があります。

*抽象的な目標を具体的にするための考え方については、以下の記事もご覧ください:
部下の行動が変わらないのは目標設定の仕方が原因? “ふわっとした目標”を具体的にする3つのチェックポイント

コーチとクライアントが向き合っている

BEHAVIOR(ビヘイビア):行動

堀:2つ目の視点に、ビヘイビア(Behavior)があります。クライアントがPossessionで明らかになった知識・スキルを習得したら、それを用いて実践するための具体的な行動を考えていく必要があります。Behaviorの視点で、永田さんが意識していることはありますか?

永田:Behaviorを考える上で重要なのは、知識を実際の場面で使えるかどうかということです。多くの場合、知識はあっても実践できないというケースが多いですよね。Behaviorの視点で重要なポイントは以下の通りです。

・知識と実践のギャップを認識する
・クライアントの現状をしっかりと把握する
・小さな成功体験を積み重ねる
・マイルストンを設定し、進捗を確認する
・「せっかち」にならず、プロセスを重視する

堀:なるほど。小さな成功体験の積み重ねは特に重要だと感じました。具体的にはどのようなアプローチを取られていますか?

永田:大きな目標を小さなステップに分解し、一つずつ達成していくことで、自信をつけながら行動変容を促すことができます。

営業部門のマネージャーによくあるのが、部下が大きな目標を達成したときだけ褒めて、小さな目標達成を見ていないケースです。部下のマイルストン、すなわち小さな目標を達成したか否かをしっかり見てあげなければ、どこで失敗したかもわかりません。一つひとつの小さな積み重ねをしっかり見てあげる、褒めてあげることがコーチとして大事になると思います。

また、特に営業マネージャーは「せっかち」になりがちで、「いつ成果が出るのか?」など、部下に早急に結果を求めてしまう傾向があります。もちろん、業務でそういった会話も必要になると思います。しかし、コーチングの場面では、「せっかち」な部分を取り除いてクライアントと向き合う必要があります。ここもぜひ意識していただきたいと思います。

マイルストンを思い描く女性

PRESENCE(プレゼンス):考え方、信念

堀:さて、最後にPresence、つまり「考え方や信念」の視点について話を進めていきたいと思います。プレゼンスとは、「これをすれば自分にいいことがある」と心の底から思ってもらう、動機付けとも言えそうです。

永田:私は、「腹落ち」という言葉を大切にしています。「腹落ち」とは、クライアントが心から納得することを意味します。クライアントが「何故これをしなければいけないのか」という意味を理解することが大切です。腹落ちすれば、クライアント自らその目標を達成するために準備をし、上司に相談をし、自分を客観的に見て何が足りないかを考えるようになります。

堀:一方でクライアントとコーチングをしていると、「そこまでやる意味がないのではないかと思います」といった話をされることもあります。

永田:私にもそのような経験があります。その理由を考えてみましょう。

仕事における目標のほとんどがトップダウンで落ちてきて、KPI(重要業績評価指標)としてトラッキングされています。コーチングにおける目標はHave to ではなくWant toで設定するのが基本だといわれています。

「会社がこう言うから…」「上司がこういうから…」というように他者を自分の行動の基準としていると、 目標を「Have to」として設定しがちになります。

一方「自分基準」、すなわち「自分はこれをしたくてこの会社に入ったんだ」「自分はこういうことをやりたいんだ」と、自分の思いを大切にし、それを基準として行動していると「Want to」の目標を設定する傾向になります。たとえ他者から言われた目標であったとしても「自分基準」でその目標を捉え直すことは十分に可能なはずです。

例えば医薬情報担当者(MR)を例にすると「新規顧客数を 2 倍にしなくてはいけないが、せっかくやるなら困っている患者さんの最も多い訪問先から順に工夫してみよう」と「他者基準」から「自分基準」に目標を引き寄せることができれば、担当者はより主体的に行動できると考えます。

堀:自分事として目標を捉え直すことで、クライアントの腹落ちに繋がっていきますね。
目標を定める

まとめ:PBPの視点を活かした効果的なコーチング

PBPの視点は、コーチングを構造化し、クライアントの成長を多角的にサポートする上で非常に有効なフレームワークです。
以下に主要なポイントをまとめます。

1. Possession(身に付けるもの):クライアントに必要な知識やスキルを明確にし、獲得計画を立てる
2. Behavior(行動):知識やスキルを実践に移す具体的な行動を促し、小さな成功体験を積み重ねる
3. Presence(考え方、信念):クライアントの根本的な価値観や信念に働きかけ、長期的な成長と変革を支援する

これら3つの視点を統合的に活用することで、クライアントの全人的な成長を促すことができます。ただし、重要なのは、これらの視点を機械的に適用するのではなく、クライアントの個性や状況に応じて柔軟に活用することです。

また、コーチ自身もこのPBPの視点を自己の成長に活用することが大切です。コーチとしての知識やスキル(Possession)を磨き、それを実践(Behavior)し、そしてコーチングに対する自身の考え方や信念(Presence)を常に見直していくことで、より効果的なコーチングを提供できるようになるはずです。コーチングは、クライアントとコーチが共に学び、成長していくプロセスとも言えます。PBPの視点を軸に、常に自己研鑽を続けながら、クライアントの可能性を最大限に引き出していきましょう。

私たち、リープ株式会社は、科学的にコーチングスキルを評価し、企業におけるコーチングスキル向上のご支援をしております。
もし、企業においてマネージャー等の上長が行っているコーチングスキル評価や、コーチングスキル向上のためのトレーニングの設計や実施に関するご質問やご相談がございましたら、ぜひお気軽にお問い合わせください。

お問い合わせはこちら

関連記事一覧