ゲームの世界でいつの間にか学んでいる!? Game Based Learning(GBL)で実現する効果的な教育・研修
ざっくりのあらすじ
1. Game Based Learning (GBL)は、学習そのものをゲームとして設計・開発して学習効果を高める教育手法である
2. GBLはゲーム自体が学習プロセスの主要な手段であり、問題解決思考などのより複雑なプロセスを扱う
3. GBLを取り入れるメリットには、学習意欲と集中力の向上、実務への応用、記憶定着率の向上、コミュニケーション促進などがある
4. GBLの実践には開発コストが課題となるケースが多いが、既存のボードゲームのアイデアを応用する等、工夫次第でコストを抑えることも可能である
あなたは、「ゲーム」と聞くとどのようなものを頭の中に思い浮かべますか?
多くの方は「ビデオ(テレビ)ゲーム」が思い浮かぶのではないでしょうか?
代名詞となったファミコンから始まり現在まで主流となっている家庭用ビデオゲーム、最近はスマホゲームで遊ぶ方も多いかもしれません。
特に熱中したゲームなどでは、必死で攻略法を探し出し、何度もチャレンジしては失敗し、苦労しながらやっとクリアして……その時の達成感は、何物にも変えられない強烈な感覚として脳裏に焼き付けられているのではないでしょうか?
一方で、学校の授業や社会人になってからの研修などの学びを、ゲームのように楽しんでいますか?
多くの人は、おそらくゲームほど熱中できていないのでは……?
それでは、もし遊びと同じような感覚で、ゲームの中でみんなと楽しみながら学べるような研修があったらどうでしょうか?
きっと大事な学びを脳に焼き付けることができるのではないでしょうか。
そんな「楽しみながら学ぶ」を形にした理論が、今回紹介するGame Based Learning(GBL)です!
ゲームで学ぶ学び方 “Game Based Learning(GBL)”
GBLはその名の通り、ゲーム本来の遊びの要素をフル活用し学習ゴールを達成する、楽しく刺激的な学習手法で、アクティブラーニングの一種です。一般的には、様々な種類のソフトウェア、アプリケーションを用いて教育的価値を提供するもので、コンピューターゲームを使用することが多くなっています。
典型的なGBLの設計では、学習者はデジタルおよび非デジタルのゲームやシミュレーションを通じて、体験的に学習を行い、批判的思考や問題解決スキルを高めていきます。実は、この点においてみなさんがよく耳にするであろう「ゲーミフィケーション」と区別されるのですが、それは次のセクションでお話しします。
GBLの市場規模はものすごい勢いで成長しており、世界市場は2022年に226億米ドルと推定された市場が、2030年までに2,414億米ドルと予測するレポートもあるほどです。
出典:株式会社グローバルインフォメーション.ゲームベーストラーニングの製品・サービスの世界市場.
https://www.gii.co.jp/report/go1243255-game-based-learning-products-services.html
Jan Hense と Heinz Mandl は、GBLのうちとくにデジタルプラットフォーム上に開発された学習プロセスや学習コンテンツを指すDigital Learning Games(DLG)について、その品質基準として、学習理論・感情理論・動機付け理論の3つの理論的観点から分析したリストを作成しています。ここでは、リストの多くの項目の中からいくつかの要素を要約した形で、以下にご紹介します。 (ここで示されている基準は、推奨事項として提示されたものとなります。)
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出典:Hense, J., & Mandl, H. (2012). Figure 1: Quality criteria for the design, quality analysis, and evaluation of DLGs. In Proceedings of the IADIS International Conference on Cognition and Exploratory Learning in the Digital Age. Madrid, Spain: IADIS. ※筆者による翻訳のうえ、左記の一部を抽出、要約して記載
このように「ゲーム」というエンターテイメントを提供する形態に対するプレイヤーの熱中度を学習の達成に利用しようという理論がGBLです。
「ゲーミフィケーション」との違いは?
おそらく皆さんはゲーミフィケーションという言葉を聞くことが多いと思いますし、GBL=ゲーミフィケーションと思われた方も多いと思いますが、ゲーミフィケーションとGBLは明確に区別することが出来ます。
ゲーミフィケーションとは
ゲーミフィケーションとは、ゲームの楽しい要因や思考を利用して学習の動機付けを行うアプローチです。
ゲーミフィケーションは、ゲームの要素をゲーム以外の文脈に適用します。教育、ビジネス、健康などさまざまな領域で使われ、特にポイント、バッジ、ランキングなど、ゲームに特徴的な仕組みを利用して参加者の行動・動機づけを促進します。ゲーミフィケーションの主な目的は、学習や作業そのものを「ゲームのように」魅力的にすることです。教育の内容自体は変わらず、その体験や過程にゲームの要素を取り入れて楽しさを追加することに焦点を当てます。
<事例>
言語学習アプリ:レッスンを進めるごとにポイントが獲得できたり、日々の練習を継続することでバッジが与えられたりする。他のユーザーとの競争要素などでモチベーションを高める工夫がされているものもある。
GBLとは
GBL(Game Based Learning)は、学習そのものがゲームであるという点でゲーミフィケーションと異なります。GBLでは、特定の教育目的を持ったゲームが設計され、そのゲーム内での体験を通じて知識やスキルが習得されることを目指します。つまり、ゲーム自体が学習プロセスの主要な手段であり、プレイを通じて学ぶことができるのです。問題解決思考など複雑なプロセスを扱い、その内容はシミュレーションゲームのような戦略性に富んだものが多くなります。解答を導き出すためには、学習者の感性や暗黙知が重要な要素となります。
<事例>
街づくりシミュレーションゲーム:都市を構築し管理するシミュレーションゲームで、プレイヤーはゲームを通して都市計画や経済の理解を深めることができる。特定の課題に取り組みながら、経済や環境問題に関する知識を実際にシミュレーションの中で体験できる。
このように、ゲーミフィケーションはあくまで通常の学習活動や課題にゲームの要素を取り入れるものですが、GBLはゲームそのものが教育的なツールであり、学習内容がゲーム内で提供されます。
ゲーミフィケーション、GBLのどちらが良いというものではなく、その学習目標や目的に応じて使い分けることが重要です。
GBLを取り入れるメリット
しっかりとしたコンセンサスは未だありませんが、概ね以下の4点からGBLの学習効率の良さが指摘されています。
- 学習に対する意欲と集中力が高まる
ゲームと共通項が多いことで、学習者はより良い答え(ゲームでいえば攻略法)を導き出すことに集中しやすくなる。 - シミュレーションを実務に活かすことができる
実務に近いシミュレーションゲームを行うことで、現実の実務にもそのノウハウで取り組むことができる。 - 記憶定着率が高まる
集中力を高めて取り組むことができるため、ゲームの達成感同様、記憶にしっかりと残りやすい。 - 社内におけるコミュニケーションが促進される
チームで取り組むことで学習者同士の連帯感が高まり、その後の日常の社内においてもコミュニケーションが維持されやすい。
GBLを取り入れるデメリット
ここまで読んでお気づきの方も多いと思いますが、GBLは基本的にソフト開発、アプリ開発など、総じてコストを必要とすることの多い学習手法です。GBL実践の現実的な難しさは、コストがかかることです。そのため企業の研修における活用では、専門の企業からソフトを購入するなどして対応することとなりますが、企業ごとに異なる研修目標達成のためのカスタマイズなどで、一層コストがかさむこともあります。
研修に明確な学習目標がある場合には、モノポリー等のボードゲームのアイディアを使ってより現実的な課題に当てはめることもできるでしょう。例えば、モノポリーに歴史要素を加えてシミュレーションする、人生ゲームのような現実的なシナリオでシチュエーションに応じた判断を問うなどのゲーム学習が想定されます。
このような形で、ゲーム形式で問題解決に取り組むシミュレーションゲームを作るといったコストダウンを図ることもできます。
まとめ
今回はGame Based Learning(GBL)をご紹介しました。GBLはゲームの攻略に向けた情熱を利用した、効果の高いアクティブラーニングです。コスト面での課題も存在しますが、記憶定着や実務応用の高さが魅力のアプローチ方法です。
ぜひ一度ご検討されてみてはいかがでしょうか?