『経験学習モデル』を活用し、人の経験を“成果に変える”
ざっくりのあらすじ
1. 「成長が早い人」と「遅い人」の差は、経験から学ぶ力の差であると言われている
2. コルブの経験学習モデルは「具体的経験」→「内省的観察」→「抽象的概念化」→「能動的実験」という4段階のサイクルで構成され、このサイクルを回すことで学習が深まる
3. 一般的な学習との違いは、単に知識を得て使用するだけでなく、学習者自身が経験から得られた気づきを整理・概念化し、それを活用することを繰り返す点にある
4. 経験を「一度きりの出来事」で終わらせず、次につながる学びに変換することが重要である
人は生まれたときから、経験したことを学びに変え、成長していきます。
例えば、私たちは基本的な言葉を、周囲の大人の話しかけを通じて学んできましたし、学校での勉強も、単なる授業内容の記憶以上に、実際の体験や他者との関わりから学ぶことが多かったのではないでしょうか?
実際に、人の学びの7割は経験から、とも言われています。(アメリカのロミンガー社による、優れたビジネスリーダーの経験に関する調査より。「7・2・1の法則」ともいわれ、学習の7割を「仕事経験」から、2割を「他者との関わり」から、そして1割を研修や書籍等の「公式の学習」から得るとするもの。)
つまり、経験を効果的に活かすことができれば人の成長のスピードを圧倒的に速めることも可能である、と考えられます。
このコラムでは、「経験からの学びを最大化」するための学習モデルである『経験学習モデル』の概要と、それを活かして人材の成長を促進する方法についてご紹介します。
コルブの経験学習モデル(experiential learning model)とは?
「経験からの学び」を体系化した理論のひとつが、アメリカの教育学者 デイビッド・コルブ博士が提唱した『経験学習モデル(experiential learning model)』(Kolb 1984)です。
コルブの経験学習モデルは、「人が経験を通じてどのように学び、成長するのか」を説明する学習理論です。
具体的には、以下の4つの段階を循環することで学習が進むとされています。
1. 具体的経験(Concrete Experiences)
- 実際に何かを体験する段階
例)営業担当者が商談を行う
2. 内省的観察(Reflective Observation)
- 体験を振り返り、どのような結果になったのかを考える段階。
例)「なぜうまくいかなかったのか?」「相手の反応はどうだったのか?」を振り返る。
3. 抽象的概念化(Abstract Conceptualization)
- 内省をもとに、自分なりの仮説や一般化を行う段階。
例)「対話を通して顧客の反応を読むのが難しい」と気づく
4. 能動的実験(Active Experimentation)
- 新しい知識や気づきをもとに、次の行動を試みる段階。
例)次の商談では、意図的に質問を増やして相手の反応を確認する。
一般的な学習モデルとの違い
一般的な学習モデルでは、外から新しい知識を得る段階とその学習成果を使用する段階を区別しますが、経験学習モデルでは、その両者を学習プロセスの中に組み込んであり、学習者自身が何を得られたのかを整理し概念化します。さらに概念化した成果を他の場面で活用することを繰り返すことで身についていくと考えられています。
出所:鈴木克明 監修 市川尚・根本淳子 編著(2016)『インストラクショナルデザインの道具箱101』p48, 北大路書房.
実務経験での「成長が早い人」と「成長が遅い人」の差は、“経験から学ぶ力の差である”と言われています。(出所:松尾睦(2011)『職場が生きる人が育つ「経験学習」入門』p1, ダイヤモンド社.)
この経験学習モデルのサイクルを回し続けることで、学習が深まり、成長が促進されるのです。
営業活動における経験学習サイクルの具体的な事例
ここでは「営業担当者がオンライン商談に初めて挑戦した経験」を例として、経験学習サイクルを理解してみましょう。
1. 具体的経験(Concrete Experiences)
- 初めてオンライン会議システムを使って商談をした!
2. 内省的観察(Reflective Observation)
- 操作がうまくできず、会議の開始時にモタついてしまった。
- 音声が届いていなかったため、商談の流れがスムーズに進まなかった。
- 対面より、顧客と信頼関係を築くのが難しく感じた。
3. 抽象的概念化(Abstract Conceptualization)
- 事前にオンライン会議システムの操作方法を確認しておくべきだった。
- 場が和むようなアイスブレイクを取り入れてみよう。
※2. 内省的観察の具体的な結果を教訓化する
4. 能動的実験(Active Experimentation)
- 次回の商談では、事前に操作方法を練習し、自信を持って対応する。
- バーチャル背景を工夫し、会話のきっかけを作ることで場の雰囲気を良くする
※3. 抽象的概念化した内容をふまえて、次回の経験に向けたネクストステップを設定・実践する

経験学習モデルを上司と部下それぞれの視点で取り入れる
経験学習モデルは、部下(学習者)が自分自身の学びの効果を高めるため、上司(指導者)が部下の学びを支援するため、そのどちらにも活用することができます。
経験学習モデルを意識しよう 〜部下(学習者)の視点から〜
何かに失敗してしまった時、「△△がダメだったから次は○○しよう!」と短絡的に次のアクションを決めてしまっていませんか? 何かがうまくいった時、次も同じやり方でやってみたら今度はうまくいかなかった……なんて経験はありませんか?
こうしたやり方は、経験をもとに考えているようでいて、実は振り返りとしてうまくいっているとはいえません。なぜなら1.具体的経験と4.能動的実験をただ往復している状態であり、2.内省的観察と3.抽象的概念化が十分に行われていないからです。
学習者が自分自身の経験をより効果的な学びへと変えるためには、次のポイントを意識することが大切です。
• 経験したことを具体的に振り返る(単なる成功・失敗ではなく、何が起こったのかを客観的に整理する)
• 良かった点・改善すべき点を分析する(悪いことだけではなく、良いことも具体的に振り返る)
• 学んだことを一般化し、自分なりの指針を作る
• 次の機会に学びを活かして行動する
• 新しい経験を積んだ後、再び振り返る(経験学習サイクルを回す)
このように、経験学習モデルの各段階を意識することで、経験が単なる「一度きりの出来事」ではなく、「成長のための学び」に変わります。
経験学習モデルを活かして指導しよう 〜上司(指導者)の視点から〜
部下や後輩に指導する際に、あなたはどんな風に部下に声をかけていますか?
部下の考えを聞く前に、すぐにフィードバックするのがクセになっていませんか?
できていないことばかりにフォーカスしたフィードバックになってしまってはいないでしょうか?
上司が適切な助言・フィードバックを行うことで、部下の経験学習サイクルを効果的に促進できます。また、部下がこうした学習サイクルに慣れていき習慣化することができれば、上司の支援なしに、自律的に学習ができるようになることにもつながります。
上司として意識したい経験学習のポイント
• まず部下に経験を振り返らせる(上司がすぐに答えを出さない)
• 部下の振り返りをサポートする質問を投げかける(例)「何がうまくいった?」「次はどうする?」など)
• 振り返りを深めるためのフィードバックを行う(良かった点・改善点を整理)
• 学びを次の行動に結びつけるよう促す
• 行動後に再び振り返る機会をつくる(定期的な1on1などを活用)
ご参考:
部下指導に必要な4つのステップ | リープ株式会社
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まとめ
経験学習モデルを活用することで、学習者は単に経験を積み重ねるのではなく、効果的な学習サイクルを回しながら成長していくことができるようになります。
そのためには、学習者自身が経験を振り返り学びを次の行動に活かすことが重要です。
また上司の立場から、適切な問いかけやフィードバックで学習者の経験学習が支援されることが、学習の効果を高めることにつながります。
ぜひ経験学習モデルを活用して、効果的・効率的、そして自律的な学びを実現しませんか?
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