「できる」のその先を設計する21世紀のインストラクショナルデザイン

インストラクショナルデザイン, パフォーマンス評価・設計, 人材育成, 学習支援, 学習環境, 教育設計

ざっくりのあらすじ
1. 企業内教育の課題: インストラクショナルデザインを取り入れる人材育成担当者が増える一方、効果・効率・魅力的な教育で「できる」ようになったその先を考える必要がある
2. インストラクショナルデザインの進化: 日本のID 大御所の一人である向後千春先生(元・早稲田大学教授)の最終講義で「できる・つながる・意味がある」を21世紀のインストラクショナルデザインとして紹介
3. 21世紀のインストラクショナルデザインは単なる知識・スキル習得が「できる」だけでなく、「つながる」ことで楽しい学習体験となり、継続可能な行動へ発展し、「やりがい」を感じることで、学びのエコシステムが構築されることを目指す
4.
学ぶ組織文化醸成を目的としたリープ社内勉強会の事例を「できる・つながる・意味がある」に当てはめて紹介

学び
企業内教育を担当する皆さんは、研修やOJT、eラーニングなどさまざまな手法を活用し、社員のスキル向上に日々奮闘されていらっしゃると思います。そんな方に役立つのがインストラクショナルデザイン(ID)で、リープのコラムでも、IDにまつわる様々な理論をご紹介してきました。

インストラクショナルデザインを取り入れて、研修のデザインの「効果・効率・魅力」を日々考えていると、「できる」ようになったその先をふと考えることはありませんでしょうか?

つい先日、日本のインストラクショナルデザインの大御所の一人である向後千春先生(元・早稲田大学教授)の最終講義に参加させていただく機会がありました。その中で向後先生が「できる」ことを超えた学習のあり方として「21世紀のインストラクショナルデザイン」についてお話されていましたので、そのエッセンスをご紹介したいと思います。

向後千春先生はインストラクショナルデザインに関する書籍を多数出版されています。
最新の書籍『上手な教え方の教科書、実践編(技術評論社 刊)』もぜひ参考にしてみてください。

21世紀のIDは「できる・つながる・意味がある」で学びのエコシステムを構築する

日本のID第一人者である鈴木克明先生はインストラクショナルデザインを「教育活動の効果、効率、魅力を高めるための理論・モデル・技法の集大成」と定義しています。
向後先生は、21世紀におけるインストラクショナルデザインを考えるにあたり、次の3つの要素の重要性を述べられています。

1. できる

  • 学習の目的は、単なる知識の獲得ではなく、「実践できる」こと。
  • スモールステップやフィードバックを活用し、社員が着実にスキルを身につけられるようにする。

2. つながる

  • 人は「誰かと学ぶ」ことで、理解を深め、意欲が高まる。
  • 社内外のコミュニティやメンター制度を活用し、学習の継続性を高める。

3. 意味がある

  • 「なぜ学ぶのか?」を明確にすることで、学習が持続する。
  • 仕事やキャリアの成長と結びつけることで、社員が主体的に学ぶようになる。

この3つの視点をしっかりと取り入れることで、単に知識やスキルを習得するだけではなく、楽しい学習体験を通じて感情を動かし、それが継続可能な行動になります。また、学びが自身のやりがいにつながることを理解することで、一時的なものではなく、自分の人生を豊かにするための学びへと変わります。このプロセスを通じて、学びのエコシステムが構築されるのです。

事例・ポイント解説:リープのラーニングコモンズ

この「できる・つながる・意味がある」を実践事例として、弊社(リープ株式会社)の「LEAPラーニングコモンズ」の取り組みをご紹介したいと思います。

リープのラーニングコモンズとは?

リープでは、社員の継続的な学習を支援するために、社外の講師を招いた勉強会を実施しています。実施頻度は1~2ヵ月に1回程度、夕方17時~18時(1時間)で、終了後は有志で懇親会という名のインフォーマルラーニングがあります🍻。

ラーニングコモンズの狙いは、何かの技術を「できる」ことを主眼におくというよりは、普段は異なるチームに所属するメンバーが、学びを通じて交流をはかり、有識者の知識や体験が共有されることで、新たな学びに対する興味を持ち、組織での学ぶ文化の醸成を目的としています。

この企画を実施するに至った背景には、社員が活用できる学習支援制度はあるものの、活用する人が少なく、学びのハードルが高くなっているもどかしさがありました。
この取り組みを、向後先生が提唱された21世紀のインストラクショナルデザインの3つの視点に当てはめて考えてみました。

1. できる:実践を重視した学習設計

各回のラーニングコモンズのテーマは、1時間で取り扱える内容になるため、スコープが限られるのですが、この取り組みを通じて、リープメンバーが自律的に学び、キャリアに活かすことが「できる」ことを目指しています。

2. つながる:社内コミュニティの形成

研修前からSlackを通じてアンケートがあり、参加形式(オンライン・対面参加など)や、講師からの質問に回答します。研修中は、チーム横断的にグループをつくってミニワークを行います。

3. 意味がある:キャリアと学習を結びつける

研修冒頭では、講師招聘者が今回の講師・テーマを選んだ理由を紹介し、自分にとっての興味・関心をもったきっかけ、どんな風に自分のキャリアに役に立ったかを共有します。これにより、「学びの意味」を社員自身が再認識し、学習意欲を維持することができます。

ラーニングコモンズの取り組みをはじめてまだ半年弱ですが、企画するきっかけとなったリープメンバーの学習支援制度の利用者数は、開始前の約2倍になりました!

21世紀のインストラクショナルデザインは「仲間と楽しんでできるようになる」こと

企業の人材育成は、単なるスキル習得の場ではなく、社員が「学び続ける」組織にすることが肝要ですが、その際に21世紀のインストラクショナルデザインの視点は、ヒントになるのではないでしょうか。
向後先生の言葉を借りるなら、「仲間と楽しんでできるようになる」ことが、21世紀のインストラクショナルデザインの目指す方向です。

「自律的な学び」は1日にしてはならずですが、だからこそ、社員が主体的に学び続け、成長できる環境を日々のトレーニングにも織り込みながら、どのようにデザインするかが問われています。
あなたの組織でも、この3つの要素をどのように取り入れるか考えてみてはいかがですか?

執筆者プロフィール

荒木 恵 リープ株式会社 取締役・インストラクショナルデザイナー 
ラーニングデザイナー (eLC認定 e-Learning Professional)、e-Learning マネージャー(eLC認定 e-Learning Professional)、e-Learning エキスパート (eLC認定 e-Learning Professional)、CompTIA CTT+ Classroom Trainer、認定アクションラーニングコーチ、日本評価学会認定評価士、修士(教授システム学)、RCiS連携研究員
著書に「インストラクショナルデザイン 成果から逆算する“評価中心”の研修設計」がある
趣味は温泉・秘湯・マッサージ巡り。(どこかおススメがあれば”こっそり”教えてください!)
教育に関わるデータの活用方法から、データに基づいた教育プランの設計まで、皆さんのお悩みをサポートしますので、お気軽にメッセージください。

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