リーダーシップ理論のBig5~もう「自分には向いてない」と言わせない~
ざっくりのあらすじ
1. リーダーシップは生まれ持った「才能」や「性格」ではなく、実は理論と経験を通じて後天的に習得できるスキルである
2. リーダーシップ理論の5つの主要理論(特性理論、行動理論、条件適合理論、変革型リーダーシップ理論、リーダーメンバー交換理論)は、それぞれ異なる状況や目的に応じて活用できる
3. 実践例としてリープ株式会社の「ラーニングコモンズ」での取り組みを紹介—講師の実体験をリーダーシップ理論と結びつけて学ぶクイズ形式の学習法が効果的だった
4. 効果的なリーダーシップ学習は「理論(知識)→事例への応用→実践」という三層構造で設計され、インストラクショナルデザインの観点からも理にかなっている
5. リーダーシップ理論の5つの主要理論を知ることで「自分には向いていない」という思い込みを克服し、自分なりのリーダーシップスタイルを見つけて実践できるようになる
「どうしてあの人はリーダーシップが発揮できないんだろう?」
「自分にはリーダーの素質がないのかも…」
そんなふうに、リーダーシップを「センス」や「マインド」のせいにしてしまっていませんか?
人材育成の現場では、若手にリーダーシップを求める機会が増える一方で、「任せてみたけど上手くいかなかった」「結局、自分が手を出してしまった」という声をよく耳にします。
実は、リーダーシップは生まれつき備わっている才能ではなく、【理論と経験の両輪で後天的に身につけることができるスキル】なのです。
その手がかりとなるのが「リーダーシップ理論のBig5」。これは「リーダーシップとは何か?」をさまざまな視点から説明してきた主要な理論を5つに分類したもので、それぞれ異なる角度からリーダーシップの本質を捉えています。
リーダーシップ理論のBig5とは?
ここでは、それぞれの理論の概要を紹介します。
① 特性理論
「優れたリーダーには特有の資質や性格がある」という考え方。カリスマ性、決断力、自己肯定感などが例に挙げられます。
使える場面:重要なポジションへの選抜など、「誰をリーダーに据えるか?」を検討する時
② 行動理論
「リーダーシップとは、特定の行動によって表れる」という考え方。
課題達成機能(P:Performance)と集団維持機能(M:Maintenance)の2軸で分類されるPM理論もこの一つです。
使える場面:リーダーに必要な行動を可視化して育成したい時
③ 条件適合理論
「効果的なリーダーシップのスタイルは状況次第で変わる」という考え方。指示型/支援型/参加型など、場面によって適切なアプローチが異なるとするものです。
使える場面:組織の変化・部下の成長段階に応じて柔軟に対応したい時
④ 変革型リーダーシップ理論
リーダーがビジョンや信念をもって人を感化し、行動を促すという考え方。目標だけでなく、「意義」や「情熱」に火をつけるリーダーシップです。
使える場面:変革期や組織文化を大きく変えたい時
⑤ リーダーメンバー交換理論
上司と部下の関係性に着目する理論。すべての部下に同じ対応をするのではなく、「関係の質」が仕事のパフォーマンスや満足度に影響を与えると考えます。
使える場面:チームビルディングや信頼構築を強化したい時
こんなにたくさんあるのです。皆さんはいくつ知っていましたか?
リーダーシップ理論は時代と共に進化してきたため、発展の流れに沿って整理されることが多いようです。
事例・ポイント解説:リープのラーニングコモンズ
ここまでそれぞれのリーダーシップ理論をご紹介してきましたが、リーダーシップを学ぶには、どんな方法があるでしょうか?
強い組織になるべく、社員のリーダーシップを育成したい気持ちは、弊社(リープ)も例外ではありません。以前のコラムでも社員同士の学び合いを推進する「ラーニングコモンズ」をご紹介しましたが、先日、リーダーシップ理論を学ぶ企画を実施しました。
今回の講師は、FWD生命保険株式会社 執行役員CHROの樋口 知比呂さんにご登壇いただきました。樋口さんは人事部門のイベントで数多く登壇されるなど大変なご活躍なのですが、海外MBAだけでなく、さらになんと、人間科学分野、ワーク・エンゲイジメントの研究で博士号を取得されるなど、アカデミックにも素晴らしい業績を残されていらっしゃいます!加えて、弊社代表 堀の、中高時代の友人……でもあります。
36年前の中高の卒業アルバムに、修学旅行の写真まで赤裸々にお披露目しつつ、樋口さんの幼少期から学生時代、社会人になってからの「リーダーシップを発揮した経験」をいくつかのフェーズにわけて語り、それぞれで発揮されたリーダーシップはどの理論がもっとも当てはまるかをクイズ形式で考えるというワークを行いました。
たとえば、「大学生時代にテニスサークルの幹部(飲み会の司会)を任された経験」は、特性理論に該当。
一方、「海外赴任したアメリカで企業買収後における業務プロセス変更を伴うシステム統合のプロジェクトマネージャー」経験は、変革型理論が当てはまります。
参加者は「なるほど、これは行動理論的に言えばPM型だ!」といった具合に、理論と講師の実体験を結びつけながら学んでいきました。
研修後には、希望者で懇親会(インフォーマルラーニング)を実施し、より深い学びが自然に醸成される場も設けました🍻。
リーダーシップ理論を活用した学びの実践例のポイント
このように、リーダーシップ理論を事例に当てはめて考えるプロセスは、「知的技能」の学習に非常に有効です。
インストラクショナルデザインの観点から見ると、「理論(知識)」→「事例に当てはめる(応用)」→「自分が直面している場面に当てはめてみる(応用→実践)」 という三層構造での学びが、知的技能としての学びを深める効果が期待できます。
そして最終的には、「自分もプロジェクトメンバーとしてリーダーシップを発揮してみよう!」「チームをまとめるポジションに手挙げしよう!」といった態度(マインド)につながっていきます。
よくある落とし穴は、リーダーシップは「マインド・センス」と捉えて、「自分には(●●さんは)向いていない」と勝手に苦手意識を持ってしまうこと。
理論の理解を深め、自分自身の日常の接点を見つけることで、「自分にもできそう」と思えるリアリティのある学びに変わります。
リーダーシップは「センス」ではなく、「スキル」として育てられる
リーダーシップは“生まれつきの素質”や“マインド”で決まるものではありません。
インストラクショナルデザインの力を借りれば、リーダーシップもまた「学べるスキル」です。
リーダーシップ理論のBig5は、それぞれが異なる局面や目的に応じて使い分けることができます。
「学んで終わり」ではなく、「日常で活かす」ことができるリーダー育成のヒントを、この理論群から掴んでみてはいかがでしょうか?
さあ、あなたの現場では、どの理論が一番役立ちそうですか?
執筆者プロフィール
荒木 恵 リープ株式会社 取締役・インストラクショナルデザイナー
ラーニングデザイナー (eLC認定 e-Learning Professional)、e-Learning マネージャー(eLC認定 e-Learning Professional)、e-Learning エキスパート (eLC認定 e-Learning Professional)、CompTIA CTT+ Classroom Trainer、認定アクションラーニングコーチ、日本評価学会認定評価士、修士(教授システム学)、RCiS連携研究員
著書に「インストラクショナルデザイン 成果から逆算する“評価中心”の研修設計」がある
趣味は温泉・秘湯・マッサージ巡り。(どこかおススメがあれば”こっそり”教えてください!)
教育に関わるデータの活用方法から、データに基づいた教育プランの設計まで、皆さんのお悩みをサポートしますので、お気軽にメッセージください。