ブランドプランを現場で活かすKPI設定とは ― 戦略実行の壁を突破して行動につなげる ―
ざっくりのあらすじ
1. ブランドプランを立てても、現場で「戦略が動かない」背景には、行動の質が見えないKPI設計がある
2. 多くの企業では、成果や活動量といった“量的KPI”しか設定されておらず、戦略がどのように体現されているかがブラックボックス化している
3. HPIの視点では、戦略を成果につなげるために「どのように行動すべきか=パフォーマンスゴール」を定義し、行動の質的KPIとして測定することが重要。
4. ブランドプランのPDCAに「行動の質」を組み込むことで、戦略の実行精度が高まり、“浸透する”から“機能する”ブランドプランへと進化する。
ブランドプランを立て、KGI・KPIを設定した——。
ところが、その戦略が現場で十分に実行されていない。
報告されるのは「売上」などの成果指標や、「面談数」「講演会の招聘数」「説明会の実施回数」など、行動“量”を示す数値ばかり。
肝心の「どんな行動が成果を生んでいるのか」「戦略は現場でどのような行動として再現されているのか」が見えない。
この“見えない実行”こそ、戦略が現場で動かない最大の要因です。
本コラムでは、HPI(Human Performance Improvement)の視点から、ブランドプランを現場で“動かす”――行動の質を測るKPI設計の考え方を紹介します!
「結果は見えるが、そこに至るまでの行動は見えない」KPIの限界
多くのブランドプランでは、KGI・KPIが数値目標として設定されています。
しかし、その多くは「結果」や「活動量」を示す量的KPIです。
たとえば、「売上○○円」「処方シェア◯%向上」「顧客の製品評価」といった成果指標に加え、営業担当者の「説明会の実施回数」「面談件数」「講演会の招聘数」など、“どれだけアクションを実施したか”を測る活動量KPIが多く見られます。
もちろん、これらは重要な活動実績を可視化するうえで必要な指標です。
しかし、これだけでは「どのように行動したか」=行動の質を把握することはできません。
結果や活動数だけが見え、戦略がどのように現場で顧客に合わせて体現されているのか――
その「実行の中身」はブラックボックスのままなのです。

曖昧になりがちな「戦略に沿った行動」
ブランドプランは、製品のSTP(Segmentation・Targeting・Positioning)に基づいて策定されます。
つまり、「どの顧客層に」「どの価値を」「どう位置づけて訴求するか」という、マーケティング上の意図が明確に設計されたものです。
しかし、その意図が現場でどのような行動として再現されるのかは、曖昧になりがちです。
たとえば製薬会社の場合、MRが1回の医師面談で、相手に合わせてどのような順序で話を進め、どのターゲット患者像を念頭に、どのようなメッセージを伝え、どんな工夫をしながら医師との合意形成を進めていくのか――。
このような「戦略を顧客に合わせて体現する行動設計」は、多くの場合、現場任せになっているのが実情です。
その結果、MRごとに戦略理解や実行度にばらつきが生まれ、「ブランドプランはあるのに、戦略が動かない」という状態に陥ってしまいます。

“質”を測るKPIが戦略を“動かす”
このギャップを埋めるカギとなるのが、行動の“質”を測定するKPI設定です。
HPI(Human Performance Improvement)は、ATD(米国人材開発協会)が推奨する、ビジネス課題を人材軸で解決するシステム的な成果創出手法です。
したがって、戦略を成果につなげるには、「パフォーマンスゴール(=どのように行動すべきか)」を具体的に定義し、その実行度を測定する必要があります。
ここで重要なのは、行動“量”だけでなく“質”を捉えることです。
「行動の質(=パフォーマンスゴール)」は、営業推進・マーケティング・トレーニング部門など、複数の部門が関与する領域でありながら、その責任範囲が曖昧になりやすいのが実情です。
結果として、どの部門も明確にマネジメントしない“空白地帯”となり、戦略実行のボトルネックになってしまうケースが少なくありません。
この“空白地帯”を埋めるためには、ブランドプランのKPIに質的な行動指標を組み込むことが不可欠です。
そうすることで、単に「どれだけ動いたか」という活動量ではなく、「どのように戦略を実践したか」という行動の質と実行度を精緻に把握できるようになります。
▼HPIに関して詳しくはこちらの記事もご覧ください。
それって本当に「研修」で解決すべき問題ですか?
事例:製薬会社Xの取り組み
製薬会社Xでは、ブランドプランの実行度を明らかにするため、MR(医薬情報担当者)と医師の面談を観察・分析しました。
目的は、STPに基づくブランド戦略が、面談の“質”としてどう再現されているかを検証すること。
実際の面談を録音・観察し、戦略意図に沿った訴求順序や質問設計、合意形成の進め方を分析しました。
さらに、MRのブランド戦略理解度をWEBアンケートで測定し、その理解が施設攻略プランや面談計画にどのように反映されているかを確認。
その結果、これまで曖昧になっていた「ブランドプランを体現する行動の質」が定義され、戦略実行の実態がデータとして可視化されました。
行動の“質”を測ることで得られた成果
1. 戦略実行のブラックボックスを解消
面談の“質”を観察することで、戦略と実行の整合性を具体的に調査。
MRがターゲット医師に戦略・戦術を落とし込む際に、どのような行動を取るべきか、またどんな誤解があるかが可視化されました。
2. 戦略と現場の確信が一致
「この行動がブランド戦略を体現している」という理解が共有され、戦略に沿った行動を取ることが成果につながる確率が高いことが数値で示され、現場の納得感と戦略実行力が高まりました。
3. スキル育成が戦略実行に直結
行動の質的KPIをもとに、戦略実行に必要なスキル(質問技法など)を特定。
MRがスキルを発揮しやすい資材が提供され、研修は“戦略を動かすためのスキルトレーニング”へと進化しました。

ブランドプランのPDCAに「行動の質」を組み込む
多くの組織では、Plan(計画)とCheck(結果)は存在しても、Do(実行)の中身――行動の質――を測定していません。
ブランドプランのPDCAに「行動の質的KPI」を組み込むことで、
戦略に沿った行動の“質”を明確にし、
実行度を可視化し、
改善のPDCAを回すことができます。
このアプローチにより、成果につながる「戦略的行動の精度」が上がり、ブランドプランのPDCAが真に機能するようになります。
戦略を“動かす”のは、行動の“質”ד量”
ブランドプランは、STPに基づく「戦略の地図」です。
しかし、その地図を現場が読み取り、行動として再現するには、“行動の質”を測定するKPIという羅針盤が必要です。
成果指標に加えて行動の質的KPIを設定し、PDCAを「行動の実行→検証→改善」で回す。
それが、戦略を“浸透させる”から“機能させる”へと変える第一歩です。
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リープは、HPIとID(インストラクショナルデザイン)理論に基づき、ブランドプランのKPI設計・実行度測定・スキル開発を一気通貫で支援します。
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執筆者プロフィール

荒木 恵 リープ株式会社 取締役・インストラクショナルデザイナー
ラーニングデザイナー(eLC認定 e-Learning Professional)、e-Learning マネージャー(eLC認定 e-Learning Professional)、e-Learning エキスパート (eLC認定 e-Learning Professional)、CompTIA CTT+ Classroom Trainer、認定アクションラーニングコーチ、日本評価学会認定評価士、修士(教授システム学)、RCiS連携研究員
著書に「インストラクショナルデザイン 成果から逆算する“評価中心”の研修設計」がある
趣味は温泉・秘湯・マッサージ巡り。(どこかおススメがあれば”こっそり”教えてください!)
教育に関わるデータの活用方法から、データに基づいた教育プランの設計まで、皆さんのお悩みをサポートしますので、お気軽にメッセージください。