2026.04.16
コーチング / マネジメント / 人材育成 / 対話の構造
支店長の迷いを紐解く Vol.2 支店長が育てるべきは、営業所長 「対話」から始まる、強い組織の育み方

今回お話を伺ったのは・・
永田 寿夫
リープ株式会社 顧問(フェロー)
認定プロフェッショナル コーチ。
外資系製薬企業3社で営業本部長を歴任し、現在は、リープ株式会社にてフェロー(顧問)として、顧客企業のリーダーシップ、コーチングスキル等の育成に取り組んでいる。
前回は、永田さんが40年以上のキャリアの中で直面した経験と、体系的なコーチングを学ぶ重要性について語っていただきました。そして第1回の最後に投げかけられた問いが、今回のテーマです。
所長を育成する立場にある支店長に求められるスキルとは、一体どのようなものなのでしょうか?
今回も、長年外資系製薬会社の最前線で活躍し、現在はリープ株式会社でエグゼクティブ・コーチとして活動する永田さんに、お話を伺いました。

支店が消えた 支店長を取り巻く環境の変化
私が初めて支店長になった20年以上前は、全国各地に支店という物理的な拠点があり、札幌・東京・名古屋・大阪・福岡など各地に支店建屋がありました。
ところがここ10年ほどで、多くのメーカーで支店という「場」そのものが消滅しました。特に外資系製薬メーカーではその傾向が顕著で、大手メーカーでさえ、支店を持たない体制に移行してきています。これが大きな変化だと思います。
支店長が自然にMRや所長と会う機会が減った、ということです。支店があった頃は、所長も何名かいて、スタッフもいる。所長やMRも支店に帰った時は支店長に声をかける、またその逆もありました。(昔は怖くて顔を合わせたくない支店長もいましたが)
もちろん、支店長と所長が共に時間を過ごすことができる「三者同行」という形は昔からあります。しかし、日常的に同じ場を共有する土台がなくなった分、支店長が所長の育成に向き合う時間と機会は取りにくくなっているのではないでしょうか。
理想はわかっていても、できないジレンマ
誰に聞いても「支店長が育てるべきは所長だ」と答えるでしょう。でも、それが実際にできている会社は、実は少ないのではないでしょうか。支店に50人のMRがいれば、支店長が全員に同じ密度で関わることは物理的に不可能ですよね。だからこそ、しっかりとMRを育成するために「所長」がいるわけです。
三者同行の場を例にお話しすると、所長育成を目的にした同行でも、両者の目線がMRや顧客に向いてしまっているケースがとても多いような気がします。本来、支店長の役割は「所長のMR同行時の様子を観察しながら、所長に対しコーチングをすること」のはずが、支店長自らMR育成や顧客対応に入り込んでしまっている。これがジレンマの一つです。
そのようなこともあるかもしれません。会社組織の中で、支店長はやや特殊なポジションとして捉えられている側面があるのではないでしょうか。 実際、弊社(リープ)では多くの製薬メーカー様から営業所長に対するコーチング評価のご依頼をいただきますが、「支店長に対するコーチング評価」のご依頼をいただくことはほぼありません。つまり、支店長は常に「育てる側」に置かれ、ご自身が「育てられる機会」や「客観的なフィードバックを受ける機会」をほとんど持てていないのです。これが、このジレンマの根本にある構造的な問題なのだと思います。

支店長には「引き出し」の多さが必要
前提として、コーチングはあくまで育成のためのコミュニケーション手法の一つに過ぎません。大切なのは、状況に応じてティーチング、コンサルティング、メンタリング等を使い分けることです。
例えば、コーチングは「緊急性は低いが重要な課題」に向いていますが、短期的に解決すべき課題に対しては、ティーチングやコンサルティングの方が適しています。
引き出しの多い支店長は、こうした使い分けが非常に上手です。
何でもかんでもコーチングで解決しようとするのではなく、まずは「今回の対話の目的は何か」を明確にする。その一手間が、コミュニケーションの質をぐっと変えてくれるはずです。
それは単なる経験の差ではなく、「自ら疑い、自ら学ぶ姿勢」というマインドセットを持っているかどうかの違いだと思います。
確かに、支店長は多岐にわたる業務を抱えており、多忙を極めます。しかし、会社から用意される研修機会を待っているだけでは、引き出しはなかなか増えません。
実際、コーチングをはじめとする外部研修に、個人として参加されている製薬企業のマネジメント層は決して少なくありません。忙しい中でも「今の自分に何が必要か」を考え、自ら動く。そうした姿勢を持つ支店長こそが、結果として組織を大きく変えていくのだと思います。
信頼関係は「対話の前提」ではなく「対話の結果」
実はこれ、逆かもしれません。「信頼関係ができてから対話を始める」のではなく、「対話を重ねることで信頼が育っていく」ものなのです。
信頼とは「仲が良い」という感情的なものではなく、「仕事の関係においてこの人は信頼できる」という確信です。それは継続的に関わり続けることによってしか生まれない。だからこそ、コーチングで学ぶコミュニケーションスキルが活きてくるんです。コーチングの手法を身につけることで、対話の質が上がり、それが積み重なって信頼関係になっていく。コーチングの基本原則のひとつである「切れ目のない継続性(オンゴーイング)」も、そういう意味で大切な考え方です。
「会社からやれと言われたからやった」という一時的な取り組みでは、信頼も育成も育んでいくことは難しいでしょう。1on1で「今日はどんな話をしてくれるだろう!」とお互いが楽しみに感じられる関係性になった時、はじめて対話が機能し始めると思います。まずはコーチングを意識した対話をしてみることからスタートしてみてください。
支店長自身が「学び続ける人」であれ
そうですね、一番お伝えしたいのは、「自分が得意だと思っているところから疑ってかかる」ということです。私自身、コミュニケーションが得意だと長年思っていましたが、体系的に学んでみると、自分のやり方がいかに雑だったかに気づきました。得意だと感じているスキルほど、一度疑ってみることをおすすめします。
謙虚さと好奇心を持つことこそが、支店長の『引き出し』をつくっていくのだと思います。そして、原点に戻ると、支店長の仕事は、所長にMRの育成を託すことです。その結果としてMRが育っていく。支店長が所長を育て、所長がMRを育てる。このカスケードをつくることが、支店長の本来の役割だということを、改めて考えていただきたいと思います。
次回は、「緊急ではないけれど、大切なこと」についてお話をお伺いする予定です!どうぞお楽しみに!