2026.05.20
ビジネススキル / フレームワーク / マネジメント / 人材育成 / 支店長 / 研修効果
支店長の迷いを紐解く Vol.3 緊急ではないけれど、大切なこと~コンセプチュアルスキルが、組織の未来をつくる~

今回お話を伺ったのは・・
永田 寿夫
リープ株式会社 顧問(フェロー)
認定プロフェッショナル コーチ。
外資系製薬企業3社で営業本部長を歴任し、現在は、リープ株式会社にてフェロー(顧問)として、顧客企業のリーダーシップ、コーチングスキル等の育成に取り組んでいる。
▶ 第1回の記事はこちら ▶ 第2回の記事はこちら
今回は、前回の記事の続きとして、支店長に必要なスキルをどのように育てていくことができるのか、今回も、長年外資系製薬会社の最前線で活躍し、現在はリープ株式会社でエグゼクティブ・コーチとして活動する永田さんに、お話を伺いました。

*この連載では、ファーストラインマネジャーを「所長」、セカンドラインマネジャーを「支店長」と表現しています。ぜひ、皆様の組織体制に置き換えてお読みいただければ幸いです。
「育てる側」に置かれ続けてきた支店長
そうですね、私が支店長だった当時、教育研修部から現場の営業組織育成について意見を求められることが多くあり、たくさん話をしてきました。しかし自分自身の学びや成長については、完全に棚に上げている状態でした。
支店長という、部下を育てる役割を担うことになれば、常に彼らの成長を考え続けることになります。しかし、翻って支店長自身はどうでしょうか?
育てられる機会も、自分で考える余裕もなく、会社からのフィードバックもないことが多く、支店長の育成にはいくつもの死角があると言えます。

コンセプチュアルスキルという「羅針盤」
それでは、そんな支店長が意識的に身につけていくべきスキルとは、どのようなものがあるのでしょうか。引き続き永田さんにお話を伺いました。
そうですね、「カッツモデル(理論)」はぜひ学んでみてほしいですね。
テクニカル・ヒューマン・コンセプチュアルの3つに分類するモデルですが、職位が上がるほどコンセプチュアルスキル——物事を俯瞰し、複雑な状況を構造化して捉える力——の比重が高まるとされています。支店長という立場を考えると、このコンセプチュアルスキル(概念化能力)が特に大事だなと思うんです。
いいえ、私もそうでしたが正直に言えば「カッツモデル」なんて、ほとんどの人が知らないと思います(笑)。私自身、「カッツモデル」についてはリープに来てから学び、あらためて腑に落ちたという感じです。
支店長という役割を果たすために「コンセプチュアルスキル」が重要であることは頭でわかっていても、どうしても目に見えやすいリーダーシップや、人を動かすスキルといった、ヒューマンスキルに力を入れてしまうことが多いのではないかと思います。ぜひここで「コンセプチュアルスキル」の習得にも意識を向けていただくとよいのではないかと思います。
正直に言うと、ビジネス書などから学んだことはほとんどないんです。では、どうやって学んだのかというと、周りの人を観察しながらだったように思います。
もちろん、どんな人も一長一短があり、完璧なロールモデルはいません。だから「この人のこの部分がいいな」と思ったら、その部分を意識して自分に取り込んでいくようにして、身につけていったように思います。コンセプチュアルスキルは会社が教えてくれるものではありませんから、意識的に自分を点検して、学び続けるしかないんです。
「緊急ではないけれど、大切なこと」に時間を使えるか
所長が受けている研修を例に考えてみましょう。例えば、所長がコーチングの研修を受けたとします。
研修が終わり、教育研修部の担当者から「あなたのコーチングはこんなところが良く、改善点は〇〇です」と評価結果を伝えられるのと、人事評価権を持っている直属の上司(支店長)から言われるのとでは、所長への響き方、納得感が全く違うものになることは理解できるのではないかと思います。
また、せっかく所長が研修でコーチングを学んでも、現場の上司がそれを理解していなければ、——つまり上司自身が研修の全体像を把握できていなければ——研修で学んだコーチングの用語などの「共通言語」を用いて対話することもできません。
現に、私が思い浮かべる支店長と所長の1on1やコーチングの多くは、今考えれば「インタビュー」なんです。「あの教授その後どうなった?」「あの病院はどうだ?」——こうした現場の状況確認で終わってしまっているケースが多いと思います。
でもそこで、例えば「今リープのコーチングのサービスを受けているよね。あの所長のMRへの課題解決の提示、どう変わった?」という会話ができたら、所長にとっても大きな気づきになるはずなんです。
……実際にその立場になると難しいのはわかっています。でも、それが理想の姿だと思います。
研修の企画段階では多くの支店長が意見を出すことがあると思うのですが、実際の研修の場に立ち会ったり、その後の所長の変化を継続的に見ていったりということは、ほとんどしていないのではないでしょうか。これでは研修内容が定着しないわけです。
人材育成は「緊急ではないけれど重要なこと」に該当します。私たちは、意識しなければどうしても緊急性のあることに引っ張られてしまうものです。
緊急性のあることは、インパクトが大きくて「やった感」があります。緊急性のある仕事が終わったときには、何かをやり遂げたという達成感のような感覚がありませんか?
一方で、育成の成果はすぐには見えません。半年後、一年後にじわじわと効いてくるもので、すぐに結果が見えにくいため、どうしても後回しにしやすくなってしまいます。

ここはまさに、「コンセプチュアルスキルの有無」の違いだと言えると思います。
今この瞬間の緊急性のある物事だけでなく、もう一段高いところから物事を見て、「半年後、一年後にこの組織がどうなっていてほしいか」を考えられる人が、「緊急ではないけれど重要なこと」にしっかりと時間を使える支店長なのだと思います。
マネジメント層が関わることで、研修は「現場任せ」から脱却できる
研修というのは、本来、会社全体の人材育成戦略の中に位置づけられるべきものだと思います。
たとえば、社長や営業本部長の号令で始まるような研修は、マネジメント層が最初から関わっているので、組織全体として動きやすい。ところが、そうでは無い研修はどうしても「現場でやっておいて」という扱いになりがちなんですね。
リープのサービスもそうした位置づけに置かれてしまうことがあるのですが、実はより詳しく、一人ひとりの課題が見えてくるものなんです。もし支店長がそのデータをちゃんと見ていたら、管内全体でもっとスキルが底上げされていた可能性がある。もったいないことをしました。
承認の段階ではマネジメント層も関わっていると思うんですが、そこで終わってしまっている。もっと入り込んで、研修の内容に興味を持ち、自分から情報を拾いに行く姿勢が必要だと思います。
支店長の小さな一歩が、組織を変えていく
今日お話ししたことは、すべて「緊急ではないけれど、大切なこと」に集約されると思います。自分自身が学び続けること。長期的な視点で組織を見ること。どれも今日明日で成果が出るものではありません。だからこそ意識的に時間を取らないと、必ず後回しになってしまいます。
緊急性に流されてしまうのは、人間として自然なことです。だからこそ、意識的に「緊急ではないけれど大切なこと」に時間を使う。その積み重ねが、半年後、一年後の組織を変えていくのだと思います。
例えば、所長が受けている研修内容を一度見てみる。
1on1で「最近の研修、どう活かせている?」と聞いてみる。本当にそのくらいの一歩で構わないんです。
そして、その姿勢が所長にも伝わって、所長がMRに同じ姿勢で向き合うようになって、前回お話しした「カスケード」が、できていくのだと思います。
次回は、「キャリア」に関するお話をお伺いする予定です!どうぞお楽しみに!
