2026.08.27

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【HR EXPO 2026 講演レポート】スキル可視化だけで終わらせない!ビジネスゴール逆算×データドリブンの人材育成戦略

HR EXPOセミナーレポート

多くの企業が社内教育を実施していますが、「人材育成が事業の儲けにつながっている」という手応えを持てている企業は、決して多くはありません。会社のビジネスゴールから必要な人材像を描いて育てたいのに、成果に結びついていると実感できない。

2026年6月に開催されたHR EXPOでの講演で、リープ株式会社 代表取締役の荒木は、その解決の糸口を示しました。

このレポートでは、本講演内で示された調査データや、成果から逆算する2つの理論(HPI・インストラクショナルデザイン)、そしてビジネスゴールから逆算して人材育成を設計し、継続した業績アップを実現したシステム会社の事例をご紹介します。

荒木 恵

スピーカー

荒木 恵|リープ株式会社 代表取締役

内資医療機器・外資ヘルスケア企業、人材育成・教育関連企業において、医療機器営業、MR、フィールドトレーナー、研修・事業開発責任者を経験。企業教育におけるパフォーマンス・スキルの教育評価と教育デザインを大学院等で研究。専門は教育工学/教育評価、修士(教授システム学)。著書に『インストラクショナルデザイン 成果から逆算する”評価中心”の研修設計』(プレジデント社)がある。

人材育成施策は事業の「利益」につながっているのか?~調査結果から見えること~

講演は、荒木から参加者への問いかけで始まりました。

「みなさんの組織では、人材育成が事業の”儲け”に直結している手応えはありますか?」

『日本の人事部 人事白書2023』によると、自社の育成施策によって従業員を育成できていると「強く感じる」「感じる」と回答した企業は、合わせて3割強でした。一方、「あまり感じない」「全く感じない」と答えた企業は6割を超えています。

研修やOJTを実施していても、その施策が社員の成長や事業成果につながっているという確信を持てない企業が多い現状が浮かび上がっています。

その背景にあるのが、育成施策の効果を十分に測れていないことです。

「教育効果の測定方法」が認知されていない現実

教育効果を評価する方法としてよく知られているのが、カークパトリックの4段階評価モデルです。

カークパトリックの4段階評価モデル

しかし、リープが独自調査を行ったところ、カークパトリックの4段階評価モデルを用いた教育評価を実施しているのは28%ほどであることが分かりました。

評価を実施している層をさらに詳しくみたところ、レベル1(受講者アンケート)16.3%、レベル2(テスト・ロールプレイ)17.3%に対し、レベル3(現場での行動変容)は12.5%、レベル4(業績インパクト)まで行っているのは6.7%にとどまります。

研修直後の満足度や理解度を測るだけでは、仕事の進め方が変わったのか、その変化が事業成果につながったのかは分かりません。人材育成を事業成果につなげるには、研修回数や受講者満足度ではなく、現場の行動がどう変化したかを測る必要があります。

教育・研修の効果検証のための評価実施の有無(調査データ)

▼カークパトリックの4段階評価モデルについて、より理解を深めたい方は、こちらのコラムも併せてご一読ください。
カークパトリックの4段階評価モデルとは?

ビジネスゴールと研修の間で見落とされる「社員に求める職務行動の定義」

企業内教育では、「どのような研修を行うか」という施策から検討を始めがちです。しかし荒木が出発点に置くのは、常にビジネスゴールです。

データに基づいた企業内教育のグランドデザイン(全体設計)

企業内教育は、事業目標を達成するために、①社員にどのような行動が求められるのか、②現状との間にどのようなギャップがあるのか、③その原因は知識・スキルなのかそれ以外なのか、④どのような施策で解決するのか、⑤行動と成果の変化をどう測るのか──という順番で考える必要があります。

ところが多くの組織では、ビジネスゴール(事業目標)と研修の間にある「パフォーマンスゴール(社員に求める職務行動)」が十分に定義されていません。

この「社員に求める職務行動」を明確にし、その達成度をKPIとして測れるようにすることは重要なポイントでありながら、人材育成で見落とされやすいポイントです。求める職務行動が定義されていなければ、何を育成すべきかも、研修が成功したかも判断できません。

逆に、求める職務行動をKPIとして設定できれば、スキル育成をビジネス成果に結びつけることが可能になります。

【理論解説】成果から逆算するHPIとインストラクショナルデザイン

事業目標から逆算し、成果につながるスキル育成を実現するためにリープがコンサルティングの場で用いているのが、HPI(Human Performance Improvement)と、インストラクショナルデザイン(ID)という2つの理論です。

HPI・インストラクショナルデザインの図

HPI:課題の原因を分析する

HPI(Human Performance Improvement)は、経営課題を人材のパフォーマンスという視点から解決する手法です。ビジネスゴールから必要な職務行動を定義し、現状とのギャップとその原因を分析します。

重要なのは、問題が見つかっても「すぐに研修をする」と判断しないことです。HPIでは課題の原因は業務プロセスやツール、フィードバック、インセンティブなど6領域に整理され、知識・スキル不足以外に原因がある場合、研修だけでは解決できないからです。

▼HPIについて、より理解を深めたい方は、こちらのコラムも併せてご一読ください。
それって本当に「研修」で解決すべき問題ですか?

ID:学びを設計するための、システム的アプローチ

原因が知識・スキル不足にあると判明した場合に用いるのが、インストラクショナルデザイン(ID)です。何ができるようになれば成功かという「出口」と評価方法を定め、学習者の現状「入口」との差を把握したうえで、学習内容や学び方、支援環境を設計します。

▼IDについて、より理解を深めたい方は、こちらのコラムも併せてご一読ください。
インストラクショナルデザイン ~教え方にはルールがある!?~

つまり、HPIで「何が問題か」を特定し、IDで「どう学ばせるか」を設計するという関係です。

システム会社B社の事例──反響営業からコンサルティング型営業へ

講演では、これらの考え方を導入したシステム会社B社の事例が紹介されました。

B社の事業目標達成に向けた組織課題

B社は新規事業の拡大を経営戦略に掲げ、顧客の問い合わせに見積・提案で応じる「反響営業」から、顧客の課題を引き出す「コンサルティング型営業」への転換が必要でした。経営層は将来の売上目標から逆算して人材育成の必要性を認識していた一方、現場は「目の前の仕事は回っている」「部下育成にかける時間がない」という状態で、経営層と現場の間に、課題認識のギャップが生じていました。

ステップ1:求める営業行動を定義する

組織として「コンサルティング型営業ができている状態」とはどんな状態かという共通認識を持っていなかったため、コンサルティング型営業を体現しているハイパフォーマーの商談を分析し、求める商談行動を具体化しました。

ハイパフォーマーの行動をもとにパフォーマンスの評価指標であるルーブリックを作成して全営業担当者を評価し、これまで曖昧だった「商談の質」を数値で測れるようにしました。

こうしてB社は、これまで規定されていなかった「求める営業行動」を、ルーブリックを作成・評価することでKPI化しました。

B社のパフォーマンスゴールの明確化とGAP分析

▼ルーブリックについて、より理解を深めたい方は、こちらのコラムも併せてご覧ください。
パフォーマンスの状態を可視化できる評価指標「ルーブリック」

ステップ2:現状に応じた育成を設計する

ルーブリックによる評価結果をもとに、営業担当者を習熟度別のコースに分けました。さらに研修だけで終わらせず、部下が商談を振り返り上司からフィードバックを受ける仕組みをつくり、学びを現場で実践・改善するサイクルを回しました。

さらに、この事例で重視されていたのが、指導する側であるマネージャーの巻き込みです。研修をどれだけ実施しても、現場の上司が推進しなければ組織には定着せず、行動も変わらないからです。

現場の上司を巻き込むことは、簡単ではないと思われるかもしれません。しかしB社では、上司も研修に参加し、部下と商談ルーブリックで目標を設定したうえで、日々の商談を一緒に振り返る役割を担いました。上司自身が評価の物差しを手にすることで、フィードバックは感覚論ではなく、求める行動に基づくものになります。こうして振り返りが習慣化されるにつれ、人材育成は一過性の施策から、組織文化へと変わっていきました。

ステップ3:上司が育成を回せる仕組みに変える

職務行動を評価する商談ルーブリックに加え、職場が学びを実践できる環境かを測る「PLE(Positive Learning Environment)30」という指標を導入しました。学習環境そのものを可視化し、改善につなげていきました。

▼PLE30について、より理解を深めたい方は、こちらのコラムも併せてご覧ください。
研修で終わらせない!学びが続く職場をつくる『PLE30』の考え方


本プログラムは「フェーズ1」と「フェーズ2」に大きく分かれて構成されていました。

フェーズ1 育成担当者が主導し、その結果PLE30は30項目中29項目で評価が上昇、商談ルーブリックのレベル3以上は58%から74%へ増加しました。
フェーズ2 上司自身が自部署のスコアを分析し、育成計画を立てる体制へ移行。ある支店では「部下が面談に不安を抱えているため、ヒアリングシートを作成し商談練習を行う」といった改善が上司から自発的に生まれました。

B社はこうして、現場が「データをもとに育成を回せる状態」へと変化していったのです。

施策の成果:人員を増やさず、受注金額が約30%増加

B社の受注金額は初年度に約30%増加し、その後も年平均約20%の成長が続きました。もちろん成果は複合的な要因によるものですが、営業人員を増やさずにこの伸びを実現できた背景には、求める行動を定義し育成に落とし込んだ取り組みがありました。

本施策による成果(受注金額の推移)

本事例のポイント──人的資本経営の3つの視点

B社の取り組みは、経済産業省が人的資本経営の指針として示す『人材版伊藤レポート2.0』の3つの視点とも一致します。荒木は最後に、本事例をこの3つの観点から整理しました。

本事例のポイント(人的資本経営の3つの視点)

B社の取り組みは、この3つの視点をいずれも満たしていました。

研修メニューからではなく経営戦略から人材像を定義し、商談ルーブリックとPLE30で行動と学習環境を数値で把握し、上司を巻き込むことで施策を一過性で終わらせず組織文化に根づかせた。つまりB社の成果は、個別の施策がたまたま当たったのではなく、「事業目標から逆算し、行動を測り、現場に定着させる」という一連の設計から生まれた必然だったと言えます。

本セミナーレポートのまとめ

研修を実施しても成果につながらないとき、その原因を研修の内容や現場の意識だけに求めても、問題は解決しません。

必要なのは、ビジネスゴールから逆算して、社員に求める職務行動を定義・評価し、評価結果に応じた施策を実施することです。さらにB社の事例のように上司を巻き込みながら、現場が自ら改善を続けられる仕組みへ移行していくことも大切です。

まずは初めの一歩として、事業目標を体現する社員、つまりハイパフォーマーが「何をしているのか」を言葉にすることから、人材育成を始めてみませんか?

リープ株式会社では、HPIやIDを用いた人材育成に関する各種サービスを提供しています。
どのように社員に求める行動を定義していくべきか、現場の上司を人材育成に巻き込むことに苦戦しているなど、人材育成に関するお困りごとがございましたら、お気軽にお問い合わせください。

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