支店長の迷いを紐解く Vol.2
支店長が育てるべきは、営業所長 ー「対話」から始まる、強い組織の育み方ー


今回お話を伺ったのは・・
永田 寿夫
リープ株式会社 顧問(フェロー)
認定プロフェッショナル コーチ。
外資系製薬企業3社で営業本部長を歴任し、現在は、リープ株式会社にてフェロー(顧問)として、顧客企業のリーダーシップ、コーチングスキル等の育成に取り組んでいる。
前回は、永田さんが40年以上のキャリアの中で直面した経験と、体系的なコーチングを学ぶ重要性について語っていただきました。そして第1回の最後に投げかけられた問いが、今回のテーマです。
所長を育成する立場にある支店長に求められるスキルとは、一体どのようなものなのでしょうか?
今回も、長年外資系製薬会社の最前線で活躍し、現在はリープ株式会社でエグゼクティブ・コーチとして活動する永田さんに、お話を伺いました。

*この連載では、ファーストラインマネジャーを「所長」、セカンドラインマネジャーを「支店長」と表現しています。ぜひ、皆様の組織体制に置き換えてお読みいただければ幸いです。
支店が消えた 支店長を取り巻く環境の変化
私が初めて支店長になった20年以上前は、札幌・東京・名古屋・大阪・福岡など、全国各地に「支店」という物理的な拠点(建屋)がありました。 ところがここ10年ほどで、多くの製薬メーカーで支店という「場」そのものが消滅しつつあります。特に外資系製薬メーカーではその傾向が顕著で、大手メーカーでさえ、支店を持たない体制に移行してきています。これが大きな変化だと思います。
支店長が日常のなかで自然に所長やMRと顔を合わせる機会がすくなくなった、ということです。支店という建屋があった頃は、複数の所長や内勤スタッフがおり、所長やMRが帰社した際に支店長と気軽に言葉を交わす環境がありました。(もちろん、中には顔を合わせたくない「怖い支店長」もいたかもしれませんが 笑)
現在でも、支店長と所長が共に時間を過ごす「三者同行(支店長・所長・MR)」という形は存在します。しかし、日常的に同じ場を共有する土台がなくなった分、支店長が「所長の育成」にじっくり向き合う時間や機会は、以前よりも持ちにくくなっていると感じます。
理想は分かっていても実践できない「ジレンマ」
ええ。誰に聞いても「支店長が育てるべき対象は所長である」と答えるはずです。しかし、それを実際に体現できている会社は、実は少ないのではないでしょうか。
例えば支店に50人のMRがいる場合、支店長が全員に同じ密度で関わることは物理的に不可能です。だからこそ、現場でしっかりとMRを育成するためのキーパーソンとして「所長」が存在するわけです。
三者同行を例に挙げましょう。本来、所長の育成を目的とした同行であるにもかかわらず、支店長と所長の双方の目線が「MR」や「顧客」に向いてしまっているケースが散見されます。
支店長の役割は「所長がMRにどう指導しているかを観察し、所長に対して客観的なフィードバックを行うこと」であるはずです。しかし現実には、支店長自らが直接MRの指導や顧客対応にのめり込んでしまう。これが、大きなジレンマの一つとなっています。
そのようなこともあるかもしれません。会社組織の中で、支店長はやや特殊なポジションとして捉えられている側面があるのではないでしょうか。 実際、弊社(リープ)では多くの製薬メーカー様から営業所長に対するコーチング評価のご依頼をいただきますが、「支店長に対するコーチング評価」のご依頼をいただくことはほぼありません。つまり、支店長は常に「育てる側」に置かれ、ご自身が「育てられる機会」や「客観的なフィードバックを受ける機会」をほとんど持てていないのです。これが、このジレンマの根本にある構造的な問題なのだと思います。

支店長に求められる「引き出し」の多さ
大前提として、コーチングはあくまで「育成のためのコミュニケーション手法の一つ」に過ぎません。真に重要なのは、状況に応じてコーチング、ティーチング、コンサルティング、メンタリングなどを柔軟に使い分ける力です。
例えば、コーチングは「緊急性は低いが重要な課題」の解決に向いていますが、短期的に解決すべき課題に対しては、ティーチングやコンサルティングの方が適しています。 スキルの「引き出し」が多い支店長は、こうした手法の使い分けが非常に巧みです。
何でもかんでもコーチングで解決しようとするのではなく、まずは「今回の対話の目的は何か」を明確にする。その一手間をかけるだけで、コミュニケーションの質は劇的に変わるはずです。
それは単なる経験年数の差ではなく、「自らのやり方を疑い、自ら学ぶ姿勢」というマインドセットの有無にあると思います。
確かに支店長は多岐にわたる業務を抱え、多忙を極めるポジションです。しかし、会社が用意する研修機会を受け身で待っているだけでは、自身の引き出しは一向に増えません。
事実、コーチングをはじめとする外部の研修プログラムに、個人として参加されている製薬企業のマネジメント層は決して少なくありません。忙しい環境下でも「今の自分に何が必要か」を思考し、自発的に動く。そうしたマインドを持つ支店長こそが、結果的に組織を力強く変革していけるのだと思います。
信頼関係は「対話の前提」ではなく「対話の結果」
実はこれ、認識が逆かもしれません。「信頼関係ができてから対話を始める」のではなく、「質の高い対話を重ねることで、結果として信頼が育っていく」ものなのです。
ここで言う信頼とは、「仲が良い」といった感情的なものではなく、「仕事のパートナーとしてこの人は信頼できる」という確信を指します。それは、継続的に関わり続けることによってのみ生まれます。 だからこそ、コーチングのコミュニケーションスキルが活きるのです。コーチングの手法を身につけ、対話の質を上げる。その積み重ねが強固な信頼関係へと繋がります。コーチングの基本原則のひとつである「切れ目のない継続性(オンゴーイング)」も、まさにそうした文脈で非常に重要な考え方です。
「会社から指示されたからやる」といった一時的な取り組みでは、信頼を築くことも、人を育てることも困難です。1on1の場で、双方が「今日はどんな話ができるだろう」と前向きに楽しめる関係性になったとき、初めて対話は真の機能を果たします。まずは、コーチングを意識した対話を実践するところからスタートしてみていただきたいですね。
支店長自身が「学び続ける人」であれ
一番お伝えしたいのは、「「自分が得意だと思っている部分こそ、疑ってかかってほしい」ということです。
私自身、長年「自分はコミュニケーションが得意だ」と自負していましたが、いざ体系的に学んでみると、自身のやり方がいかに自己流で雑だったかを痛感しました。ご自身が得意だと感じているスキルほど、一度客観的に見つめ直すことをおすすめします。
謙虚さと好奇心を持ち続けることこそが、支店長の「引き出し」を豊かにしていきます。そして原点に立ち返れば、支店長の最重要ミッションは「所長にMRの育成を託すこと」です。
支店長が所長を育て、所長がMRを育てる。この育成のカスケード(連鎖)を構築することこそが、支店長の本来の役割であることを、今一度考えてみていただければと思います。
次回は「緊急ではないが重要なこと」をテーマにお届けする予定です!どうぞお楽しみに!