「部下に自分で“気づかせる”」教え方とは? 上司の負荷を増やさずにできる3つの工夫

インストラクショナルデザイン, コーチング, パフォーマンス評価・設計, マネジメント, 人材育成, 教育設計

ざっくりのあらすじ
1.「気づかせる」には気づくに足る緻密な設計が必要だけど実践するのが難しい
2. なるべく上司の負荷を増やさず部下に「気づかせる」ための教え方の工夫 3 選
3. 学びを継続させるためには、負荷を減らして効率化を図ることが大切

「手取り足取り教えるのではなく、部下に自分で考えさせたいし、気づかせたい」
というのは世の中の多くの上司の皆さまが思っていることではないかと思います。

では、部下が自分で気づけるようになるために、指導者はどのような支援を行うべきなのでしょうか?

部下の状況に合わせた指導育成には、SLII®モデル(*)といったリーダーシップモデルが有名ですが、今回はこうしたモデルとは少し違ったアプローチから、部下の気づきを支援しつつ上司の負荷を減らすための工夫を考えてみたいと思います。
*参考(外部サイト):The Ken Blanchard Companies | Training the World’s Best Managers (blanchardjapan.jp)

本当に「気づかせる」には、手をかける必要がある

多くの部下、とくに若手の従業員にとっては「自分で気づく」というのは結構難しいものではないかと思います。
なぜなら、気づく力というのは(たとえば判断力や応用力、自己解決力などを指すかと思いますが)インストラクショナルデザインにおける学習成果の分類でみると“知的技能”やその上位の“認知的方略”に該当し、比較的難易度の高い技能にあてはまります。
「人は経験から学ぶ」などとも言いますが、具体的には経験だけしていれば勝手に学ぶのではなく、質を伴う内省や教訓化のプロセスを経ることが学びにつながるため、部下の内省や教訓化を、コーチングなどを通して上司が支援することが部下の気づきや学びの効果を高めるポイントとなります。
参考:部下指導に必要な4つのステップ

インストラクショナルデザインの日本の第一人者である鈴木克明先生は、学習者に気づかせることについて弊社の荒木との対談で次のように語ってくださっています。

学習課題に自分自身で気が付ける人は、研修を受けずとも日々の仕事の中でどんどん気付いて成長していくことができて、それがある意味、今までの日本の質の高い労働力を支えてきている大原則だといえるのですが、それでは時間がかかり過ぎます。現場に行って意識的に「自分で気付くこと」を心がければ誰しも自身の課題に気付けるなんて、そんなわけはないですよね。
(中略)
「言わないで、やらせて、失敗させて、考えさせて、何がまずかったか自分で気付かせる」ということをポリシーにするのであれば、それはそれでよいと思います。ただし、研修の中で学習者が自身の課題に気が付けるようにするための場面をどのようにして濃密に仕込んでいくかは、研修を作る側がしっかりと設計していかなくてはいけないところです。

出典:【企業の研修設計における学習目標の明確化】第3回 研修はアウトプットを中心に – リープ株式会社|研修設計・教育プログラム構築 (leapkk.com)

この対談では研修という文脈で語られていますが、現場での育成も同じであると考えます。つまり部下に自分で気づいてほしいのであれば、気づくに足る工夫や設計がより一層緻密に必要であるといえます。

そう言われても、現場で部下一人ひとりに緻密な対応をもとめられては、上司の方の負担が増える一方ですし、現実的に難しい部分もあるかと思います。
そこで今回はインストラクショナルデザインの観点から、上司の手をかけすぎずに部下に気づかせやすくする工夫を3つご紹介したいと思います。

「教えない」けど「気づかせる」ための3つの工夫

1. 目標を共有する
部下が自分で気づくのが難しい原因のひとつに、あるべき姿があいまいであることが挙げられます。
自分の課題や業務の改善点に自分で気がつきたくても、そもそも正解のイメージが持てていなければ相違点にも気がつけません。
また、上司が思うあるべき姿と部下が思うあるべき姿が異なっていると、上司としては「なんでできないんだ」と思ってしまう状況につながる要因となりますので、上司と部下の認識齟齬をすり合わせる意味でも目標を明確化し共有しておくことがポイントになります。
参考:育成や学習がうまくいかないのは「目標に問題アリ」かも!?

2. 自己評価できる仕組みを作る
部下がセルフチェックできる仕組みがあれば、上司に直接アドバイスをもらうことができなくても代替手段となります。
また、評価指標やチェックリストは“あるべき姿が明文化されたもの”といえますので、前項の「目標の共有」も兼ねる解決策といえます。上司と部下であるべき姿を共有しつつ、部下が自分で気づくための一助となる方法ではないでしょうか。
参考:パフォーマンスの状態を可視化できる評価指標「ルーブリック」

3. チームメンバー同士で相互的・協調的に気づける環境を作る
経験学習の促進にはリーダーによる支援のほか、チームとしての内省の効果も示されています。上司が十分に支援する時間を確保できない環境であっても、同僚や身近な先輩後輩同士で相互にチェックしあったり、フィードバックしあったりすることが上司の指導時間不足を補完できる可能性があります。

参考(外部サイト):【学びの大事典!】「協調学習」 – Ylab 東京大学 山内研究室 (u-tokyo.ac.jp)
参考:たった数日でスキルが向上した!経験学習モデルで最短の人材育成を!!

その際には心理的安全性や肯定的な学習環境が担保されるようにできる限り注意しましょう!同僚同士であっても上司と部下の関係と同様に、ただ指摘すればいいというものではなく、相互的なコミュニケーションにより気づき(内省)が支援されることがポイントです。

参考:リープの実例を公開!学習環境を整えて、社員のやる気を引き出すコツ

学びには継続が必要で、継続には効率が必要

上司からの適切なコーチングやフィードバックを受けられて、チームの雰囲気も学習に肯定的かつ相互にいい影響をもたらすような環境で部下を育成できたら、これ以上ない理想の育成のあり方かと思います。
しかしながら現実的には多忙な業務の中、様々な制約条件のもとで部下の育成をしていかなくてはなりません。
インストラクショナルデザインは教育の効果・効率・魅力を高める方法論です。リープでは企業様のさまざまなご状況にあわせて、可能な限り現場の負荷(上司・部下ともに)のない効果的な育成の仕組みを作れるようご提案、ご支援をしております。
育成に関するどんな些細なお悩み、愚痴(!?)でもかまいませんので、気になることがあればぜひリープまでお問い合わせいただけますと幸いです。

執筆者プロフィール

月足 由香 リープ株式会社 ビジネスディベロップメント事業部・インストラクショナルデザイナー

CompTIA CTT+ Classroom Trainer、 CompTIA Project+、応用情報技術者 、情報セキュリティマネジメント
社内では月ちゃんと呼ばれています。みなさまにもお気軽にお声がけいただけたら嬉しいです!

執筆者に質問する

関連記事一覧