【導入事例】組織の教育力を底上げする「共通言語」—三条市立大学のID活用事例
CASE STUDY / ID活用 導入事例インタビュー
組織の教育力を底上げする「共通言語」
三条市立大学のインストラクショナルデザイン(ID)活用事例
組織が多様になるほど、教育の質を揃えることは難しくなる。その課題に、いち早く向き合った組織があります。その組織とは大学です。そして、大学が導き出した解決策は、企業の人材育成担当者にとっても、明日から使えるヒントに満ちていました。今回は、世界的な産業集積地・燕三条地域に開学し、独自の産学連携実習で注目を集める三条市立大学が実施したFD(ファカルティ・ディベロップメント)から、企業教育にIDがどのように役立つのか、その実践からの学びをお届けします。

三条市立大学(三条市立大学提供)
📘 インストラクショナルデザイン(ID)とは?
教育を中心とした学習活動の効果・効率・魅力を高めることを目指したシステム的なアプローチに関する方法論の総称です。もともとは軍や企業の研修設計で発展した方法論であり、海外の高等教育機関や企業の人材育成においても広く用いられています。
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📘 ファカルティ・ディベロップメント(FD)とは?
大学教員が授業内容・方法を改善・向上させるための組織的な取り組みです。具体的には、相互授業参観、研修会、授業評価などの活動を通じて教育の質を高めるもので、日本の大学では義務化されています。
出典:文部科学省 大学教員のファカルティ・ディベロップメントについて
開学5年目の「転換点」―三条市立大学の多様な教育アプローチを組織の力へ
常に教育の質向上を目指す三条市立大学。同大学の大きな魅力は、企業等で実務経験を積んだ「実務家教員」による実践的な指導です。一方で、教員一人ひとりが持つ豊かな経験に基づく多様なアプローチが存在するがゆえに、大学全体としての「教え方の共通軸」を確立することが求められていました。
FD委員長を務める島田哲雄教授はこのように話します。
「本学には、現場で活躍してきた実務家教員が多く在籍しており、それぞれの豊富な経験が学生への指導の質を高めています。一方で、開学5年を経た今、その多様な強みをさらに組織としての教育力へと結集していくことが、次のフェーズに向けた重要なテーマだと考えていました」

インタビューに応じてくださった、左から三条市立大学事務局の山賀様、夏井様、FD・SD推進委員長の島田教授、武蔵野大学 鈴木教授
なぜインストラクショナルデザインだったのか?
実は企業の人材育成部門が直面する悩みと、大学が抱える課題には共通点があります。多様なバックグラウンドを持つ人材をどう束ね、個人の経験を組織の教育力へと昇華させるか——三条市立大学がその選択肢の一つとして着目したのがIDでした。
今回のFD研修は、「”インストラクショナルデザイン(ID)”に基づいて担当科目の授業設計を点検し、次年度の授業設計を改善できる」をゴールとし、リープ株式会社の荒木恵と、武蔵野大学響学開発センター教授・センター長の鈴木克明先生が担当する2日間のプログラムとして企画されました。

1日目の講義は、IDに初めて触れる教員の方が理解しやすいように、インストラクショナルデザインの基礎・原理原則を捉え、企業内教育ID活用事例から授業改善に応用できるヒントを持ち帰ることをゴールに2時間で開催されました(オンライン)。
そして2週間後に2日目の鈴木先生の講義を対面で4時間実施しました。2日目の講義の受講前には事前学習を実施いただき、その内容を基に参加者が自ら考え議論する徹底したグループワークが実施されました。事後課題には授業設計(シラバス)改善のレポート提出があります。

これまでのFDは外部講師の講義を聞く「講習会」のスタイルが多く、教員同士で授業の進め方について議論したり、悩みを共有したりする機会が不足しているという課題もありました。
しかし、2日目の研修では、インストラクショナルデザインの専門家であり、日々学生と対峙している鈴木先生がファシリテーターとして入ることで、教員たちは心理的安全性を保ちながら、素直に課題を打ち明け合える場が形成されました。それぞれの教員が日々どのような想いや悩みを持ちながら学生と対峙しているかという議論も活発に行われました。


島田教授は今回のFDを振り返ってこのように述べています。
「教員同士が授業について率直に意見を交わす機会を、意図的に設けることの大切さを感じていました。そこから建設的な議論へとつなげていくことが出来たことも、今回の大きな成果でした」

IDがもたらした「客観的な視点」と「共通言語」
今回の研修は、日頃は忙しい教員同士が、改めて他の教員の悩みを知り、共感し合える貴重な機会となりました。さらに、議論を前向きな教育改善へと導く強力な武器となったのが「インストラクショナルデザイン(ID)」の枠組みでした。
大学という組織において、教員それぞれの授業内容は専門性・自律性が尊重されるがゆえに、互いに踏み込みにくい面があります。しかし、IDの様々なモデル(例:ARCSモデル)を用いることで、他の教員からの意見を客観的な意見として受け止めやすくなります。
講師を務めた鈴木先生のコメント
「教えている中身は全く違っていても、IDのモデルを使うことで、他の教員の授業に対しても客観的な視点で分析できるようになります。IDが建設的な議論のための『共通言語』になるのです」
鈴木先生という「第3者としての視点」、そしてIDという「共通言語」を手に入れたことで、教員たちは個々の多様な指導方法を尊重しつつも、客観的な視点で互いにアドバイスをし合える建設的な関係性を築くことができました。
企業の人材育成を専門とするリープの荒木は、この研修に講師として関わる中で、大学と企業の教育課題が「同じ構造を持つ」ことを改めて実感したと言います。
リープ株式会社 荒木のコメント
「普段は若手社員の育成に悩む企業様からのご相談を多くいただきます。今回のFDに参加して気づいたのは、企業が抱える教育課題の前段には、大学の先生方がお持ちの『教えることの葛藤』があるということでした。大学と企業、共通して直面する『教育設計』の悩みに応える方法論として、IDは組織の境界を越えて使える、普遍的な武器になると改めて感じました。」
「どんな人材を育てたいか」——その問いから、すべてが始まる
研修を経て、教員たちの視点は「自分の授業をどう教えるか」から「この大学が社会に送り出す人材像」へと広がっていきました。
「大学教育では、『何を身につけた学生を社会に送り出すのか』という問いに、常に向き合い続けることが求められます。今回の研修は、大学全体としても、各科目単位でも、その出口を改めて問い直す、非常に意義深い機会となりました。この燕三条地域が持つ熟練の技を体系化された『技術』へと昇華させ、地域に還元し、次の発展へと繋げる。それが本学の使命です。」
と島田先生は力を込めておっしゃいます。
三条市立大学が今回実施したFDは、大学が設立されたゴールに立ち返り、「そのゴールに向けて、どういう人材を育てるために、どの科目を、どういう流れで教えるべきか」というIDの根本である「出口からの逆算」思考が浸透し始めるきっかけとなりました。

ID5つの視点について伝える鈴木先生。IDは「出口」を捉えることから始まります
変化の激しい時代をリードし、未来をその手で創る「イノベーティブテクノロジスト」を育成するため、多様な専門性や背景を有する教員同士が連携してカリキュラムを磨き上げていく三条市立大学の挑戦は、これからも続きます。
「どのような人を育てたいか?」——その問いから、教育はスタートする
人が育つ組織には、必ず「どのような人を育てたいか」という思いと、育成を実現する設計があります。その思いを、具体的な学びの仕組みへと変えるのがIDです。
「多様な教え方の共通軸づくり」「研修のゴール設定」「教育の効果測定」——これらの悩みは、大学でも企業でも共通しています。
変化の激しい時代をリードし、未来をその手で創る「イノベーティブテクノロジスト」を育成するため、多様な専門性や背景を有する教員同士が連携してカリキュラムを磨き上げていく三条市立大学の挑戦は、これからも続きます。大学から、企業の人材育成まで。IDは、組織の種類を問わず活用できる教育設計の方法論です。
IDを「共通言語」とし、成果を創出しませんか?
ここまで三条市立大学のIDを用いたFD研修についてご紹介してきました。
実は、あなたの組織でも、同じ課題を抱えてはいないでしょうか?
リープの「OSHIKATSU-ID」講座では、IDとHPIを軸とした研修設計を体系的に学ぶことができます。教え方のバラつき、研修のゴール設定、教育の効果測定などの課題があれば、ぜひOSHIKATSU-ID講座の受講をご検討ください。
また、「学び方」に課題を感じている若手社員には、MANAKATSU-ID講座がおすすめです。自分に合った学び方を知ることで、研修効果の向上が期待できます。
リープは、あなたの組織が描く「育てたい人材像」を、現場で機能する教育設計へと形にするお手伝いをしています。
まずはお気軽にご相談ください。
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