インストラクショナルデザイン ~教え方にはルールがある!?~
VUCA時代と言われて久しいですが、ビジネスを取り巻く環境が複雑化し将来の予測も難しい昨今、研修や人材育成に難しさを感じている方も多いのではないでしょうか?
「自分が過去に経験したことのある内容であれば研修ができるが、経験したことのない事についての研修はどうしたらよいのだろうか」
「新たに教育担当になったが、何から手をつけてよいのかわからない…」
「今の人材育成方法で、本当によいのだろうか?」
そんなお悩みや疑問を持っている研修・人材育成に携わる方にご紹介したいのが、「インストラクショナルデザイン(ID)」です。
インストラクショナルデザイン(ID)とは何なのか?どのように人材教育に役立てることができるのか?会社のビジネスを成長させるための人材育成の方法についてなど、受講者だけでなく組織にとって成果につながる人材育成の実践に役立つ内容をまとめています。ぜひ最後までご覧ください。
インストラクショナルデザインに関する書籍のご案内
インストラクショナルデザイン(ID)の基本と実例が掲載されているこちらの書籍もIDの理解を深めることができます。
ぜひお手に取ってご覧ください。
「インストラクショナルデザイン 成果から逆算する”評価中心”の研修設計」(荒木恵 著・プレジデント社)
インストラクショナルデザイン(ID)とは?
インストラクショナルデザインとは、教育を中心とした学習活動の効果・効率・魅力を高めることを目指したシステム的なアプローチに関する方法論の総称です。
例えば、あなたが研修プログラムを作成するときには、前述のように「何を(What)、どうやって(How)できるようにするのか」について考えるかと思います。そのような場面で活用できる方法論がインストラクショナルデザインです。
インストラクショナルデザインを担う人をインストラクショナルデザイナーといいます。
近年では、企業内にインストラクショナルデザイナーを置く企業もあります。
インストラクショナルデザインを人材育成に取り入れるメリット
人材育成にインストラクショナルデザインを取り入れることのメリットはたくさんありますが、代表的なメリットをいくつかご紹介します。
・インストラクショナルデザインを取り入れることにより、講師の経験値に頼らず、教育のゴールとして設定した「学習目標」を達成するための育成プランを立てることができるようになる。講師の経験に頼らない研修が可能になることで、講師の人材不足を解消できる
・インストラクショナルデザインの様々なモデルやフレームワークを用いると、時間や労力等のコストを抑え、効果・効率のよい人材育成が可能になる。また、画一的な一斉研修や年次研修だけではなく、個人や組織の傾向に応じた教育の実施が可能になり、教育の効果が向上し、成果につながりやすくなる ・インストラクショナルデザインを取り入れた教育は、受講者の教育への動機づけを高め、能動的な学習を促進するため、従業員の仕事への意欲や組織へのエンゲージメントが高まる。従業員の満足度や定着率の向上にもつながる |
インストラクショナルデザインを導入することは、教える側にとっても、教育を受ける側にとってもメリットがあります。
ぜひインストラクショナルデザインを用いて、効果・効率・魅力的な教育設計を実践してみて下さい。
インストラクショナルデザインを人材育成に取り入れるデメリット
インストラクショナルデザインを活用することのメリットはとても大きい一方で、躓きポイントやデメリットもいくつかあるのでご紹介します。
・インストラクショナルデザインの考え方を理解し実践できる人材が必要となる。社内にそのような人材がいない場合は、外部から専門のインストラクショナルデザイナーを活用する、あるいは社内の人材を育成する必要があるため、導入に費用や教育等のコストがかかる
・インストラクショナルデザインは、効率的な学習プロセスを設計することを目的としているが、インストラクショナルデザインの理解が中途半端なままに教育設計を行うと、過度に標準化された研修プログラムとなり、受講者が「つまらない」と感じてしまう可能性がある ・インストラクショナルデザインを用いて適切に教育プログラムを設計するためには、学習者のニーズ分析、教材の開発、プログラムのテストと評価などが必要となり、短期的に研修の設計や開発にかける工数が増える ・インストラクショナルデザインの考え方は従来型の研修とは異なるため、社内の理解や協力を得るのに時間がかかる場合がある。インストラクショナルデザインの理論を組織に実装するためには、研修部門のみならず営業部門等の社内の各ステークホルダーと組織を横断して理解を得る必要がある |
このように、インストラクショナルデザインの導入には、短期的にはコストがかかり、導入で躓くケースもあります。
ご紹介した躓きポイントを回避するためには、外部のインストラクショナルデザイナーと共に、その企業にあったインストラクショナルデザインの組織への実装方法や研修の全体設計を考えていくことも検討に入れるとよいでしょう。
インストラクショナルデザインを導入した企業の事例が知りたい、あるいは自社への導入でお悩みのことがあれば、こちらよりお気軽にお問い合わせください。
インストラクショナルデザインが注目を集める理由
インストラクショナルデザインは第二次世界大戦中にアメリカで生まれました。
アメリカ軍の兵士や科学技術者の効果的・効率的な訓練方法としてインストラクショナルデザインが考え出されたのです。その教育技法が企業内教育において活用されるようになったと言われています。
日本では2000年頃になって企業内教育を中心にeラーニングの導入が進んだ際に、インストラクショナルデザインが注目を集めました。多くの企業や専門家が「eラーニングでこれまでの教育の問題を解決できる!」と思っていたところ、期待外れの結果に終わってしまうことが多かったからです。
このような問題を解決するための手法としてインストラクショナルデザインが注目を集めるようになりました。
昨今では、これまで集合研修で行ってきた研修を遠隔で実施する場面も増えてきました。対面の集合研修で実施してきた内容をそのままZoomやTeamsなどのWEB会議室システムを使ってバーチャルクラスルーム形式で実施しても、かなりの確率でうまくいきません。
このように研修を提供する制約条件が変わり、どのように研修プログラムを組みなおすべきか考えなければいけないときにも、インストラクショナルデザインは役に立ちます。
インストラクショナルデザインが目指す「効果・効率・魅力」的な教育とは?
ここまでにインストラクショナルデザインが目指すものとして「効果・効率・魅力」というキーワードが何度もでてきましたが、それらは具体的に何を指しているのでしょうか?ここではそれぞれについて詳しく解説していきます。
「効果」研修が受講者、組織の成果につながる
せっかく研修をやったからには何か事態が好転することを期待すると思います(研修を提供した人だけでなく、受けた人も!)。
学びにおける期待とは、受講者が一定の成果を出してくれることです。
例えば、営業担当者に対して商談スキル研修を実施した場合、学んだ内容を受講者が理解し、実務において商談スキルを実践することが求められます。その上で、組織全体の成果である業績アップが研修と関係性があることを確認する必要があります。
「効率」研修を提供する人も受講者も”省エネ型”になる
インストラクショナルデザインは「なんだかやたらと手間がかかって取り入れ辛いな~」と思っている人がいらっしゃるかもしれませんが、実はインストラクショナルデザインでは研修を提供する人と受講者の両者が時間的・物理的にも手間をかけすぎずに成果を追求する”省エネ型”を目指しています。
「研修を提供する人」は研修の準備をする際に新しい教材をゼロからつくるのではなく、これまで用意した教材を再利用できないかを考えてみます(注意:同じ研修を実施する意味ではありません!)。
今あるリソースを有効活用するという意味では、市販の書籍を配布して活用する方法もあります。
「受講者」にとっては本当に必要な学習課題に絞られたものを短時間で学び、成果につなげることができればとても効率的です。
熱心な「研修を提供する人」である程、ついつい内容をたくさん盛り込みすぎてしまう(メガ盛り研修!)、オリジナリティを追求するあまりコンテンツすべてを手作りしたくなってしまうこともあると思いますが、本当に必要な内容に絞り、今あるリソースを活用して全体設計を工夫して、最大限の成果を狙ってみましょう。
「魅力」受講者が「もっともっと学びたい!」と思って学びを継続する
どんなに効果と効率を上げても、やらされ感が蔓延しているものは長続きしません。
受講者に「もっともっと学びたい!」という継続動機を与え、「できなかったことが、ここまではできるようになった!」と達成感を実感させることが学びにおける魅力です。
また「研修を提供する人」が楽しいと思わないものは、「研修を受ける人」も楽しいと思いません。
学び手と教え手の両者にとって魅力的な研修であることが、長続きする学びのためには重要なポイントですが、この点はなおざりにされがちなので、注意しましょう!
インストラクショナルデザインの基本形「3要素の整合性をとる!」
インストラクショナルデザインには、教育に携わるあなたが活用できる理論やモデルがたくさんあります。
そのすべてに共通している最重要ポイントをシンプルに表現すると、こちらの図にある3つの要素(学習目標、評価方法、教育内容)の整合性を揃えることと言えます。
「学習目標」 ここでは何を学んでほしいのか?
研修は、誰が何時間研修を受けたかではなく、その研修で「何を学んだか」で効果を確かめます(履修主義ではなく習得主義)。
その研修で学んでほしい内容が「学習目標」です。
この学習目標は後出しじゃんけんではなく、最初から受講者に提示されているのがインストラクショナルデザインでは良いとされています。「学習目標が大切であることは理解しているし、受講者にも研修のはじめにちゃんと提示しているよ」という方が多いのではないかと思います。
その学習目標は何回提示していますか?「研修の開始時に1回のみ」という方はいませんか?
学習目標を受講者に提示する理由は目指すところを共有することで、教え手はもちろん、受講者にも自分たちはどこに向かっていっているのかに神経を集中して欲しいと考えているからです。学習目標は、研修の最初と最後はもちろん、研修の途中でも提示し続けて、常に意識させるようにしましょう。
「評価方法」 学んだかどうかをどのように判断するのか?
同じ学習目標でも習得するためにかかる時間は、人によって異なります。
同じことでも半日で身につけることができる人もいれば、3日間かかる人もいます(当たり前ですね!)。
受講者ごとに必要な時間をかけて学んでもらえるようにするためには、受講時間ではなく、研修の成果つまり学習目標への到達度で修了の可否を判断する必要があります。
そのために必要なのが「評価方法」です。ところが「評価方法」と「学習目標」が一致していないケースが多くあります。
評価は手間がかかるということで実施していないケースはもちろんですが、評価を実施していたとしても学習目標の一部しか評価していない(評価しているつもりになってしまう)ケースが意外と多くあります。評価が実践できないお悩みはあるかもしれませんが、せっかく受講者に意識してもらった学習目標が習得できたのかどうかは確認して、本人に「合格!」とフィードバックしたいところです。
「教育内容」 学びをどのように支援するのか?
学習目標と評価方法が決まったら、最後に何をどのように教えるか(教育内容・方法)を考えましょう。
もしかすると「営業部全員を集めてロールプレイ研修をしよう!」のように、初めから教育内容を打ち出し、研修の企画をスタートしていませんか?
ここまでに紹介した3つの要素の整合性を取るための一番のコツは、教育内容や方法の検討からはじめないことです。
学習目標と評価方法を決めてから、どの教育方法が最適かを決める必要があります。
山頂が「学習目標」だとしたら、山頂に登るためのルートは複数あります。どのルートが最適なのかは、山を登る受講者のレベル感や、学習環境の制約条件によっても変わります。先程の事例で言えば、「全員集めてロールプレイ!」以外の方法(ルート)もあるはずですし、そもそも受講者ニーズに合致する学習目標を考えれば、ロールプレイという方法では到達できないかもしれません。
このように書くと当たり前のことのように思えますが、教育方法から研修企画がスタートすることは、とても多くあるのが実情です。
実際には、営業部などのステークホルダーから、教育方法が指定されて研修のリクエストが来ることもあると思います。
しかしながら、教育内容や方法が目的として先行してしまうと、3つの整合性がとれず、成果がでない(成果が測れない)研修になってしまいます。
登る山頂(学習目標)が決まっていないのに、どのルートをとるべきか考えている状態と一緒ですから当然ですよね。
定期的に「今回の研修は何のための学びなのか?」という原点に立ち返りながら設計をしていきましょう。その上で教育方法を考える際に活用できるインストラクショナルデザインの理論はたくさんありますので、是非取り入れてみてください。
インストラクショナルデザインのモデルやフレームワーク
インストラクショナルデザインには、様々なモデルやフレームワークが存在します。
ぜひ、取り入れてみてください。以下に代表的なインストラクショナルデザインのモデルやフレームワークの当社のコラム記事のリンクを記載しますので、ぜひご覧ください。
- ADDIEモデル
インストラクショナルデザインことはじめ 『ADDIEモデル』
インストラクショナルデザイン講座「組織が好転し続けるADDIEモデル」 - ARCSモデル
相手の心を動かす4つのポイント「ARCS(アークス)」モデル
ARCSによる動機づけで誤解しやすいポイント3選 - メーガーの3つの質問
「メーガーの3つの質問」で人材育成戦略を考える - ガニェの9教授事象
効果的な学びの9つのプロセス - カークパトリックの4段階評価モデル
研修はテストとアンケートの両方でしっかり効果測定しよう!
成果につながるインストラクショナルデザインを、導入してみませんか?
ここまでインストラクショナルデザインについてお伝えしてきました。
3つの要素の整合性をとってもすぐにうまくいくものではありません。
評価した結果を踏まえて、改善しながらブラッシュアップしていきます。
このような「より良くするために繰り返すシステム的なアプローチ」をインストラクショナルデザインは大切にしています。
その際に活用できる理論やモデルはたくさんあります。
「インストラクショナルデザインは導入してみたいけど、自社の場合、どんな風に導入したら良いのかわからない…」という方はお気軽にリープまでご相談ください。あなたの組織に合った導入プランを弊社のコンサルタントチームが一緒に考えます!
執筆者プロフィール
荒木 恵 リープ株式会社 取締役・インストラクショナルデザイナー
ラーニングデザイナー (eLC認定 e-Learning Professional)、e-Learning マネージャー(eLC認定 e-Learning Professional)、e-Learning エキスパート (eLC認定 e-Learning Professional)、CompTIA CTT+ Classroom Trainer、認定アクションラーニングコーチ、日本評価学会認定評価士、修士(教授システム学)、RCiS連携研究員
著書に「インストラクショナルデザイン 成果から逆算する“評価中心”の研修設計」がある
趣味は温泉・秘湯・マッサージ巡り。(どこかおススメがあれば”こっそり”教えてください!)
教育に関わるデータの活用方法から、データに基づいた教育プランの設計まで、皆さんのお悩みをサポートしますので、お気軽にメッセージください。