あなたの話は本当に伝わっていますか? ~対話のルール編~

パフォーマンス評価・設計, ビジネススキル, 人材育成, 商談力, 営業力強化, 対話の構造

「この前も言ったでしょ!何度言わせるの!!」
「言ったじゃないか!何度同じことを言わせるんだ!!」

このような言葉を口に出すことは難しくなった昨今ですが、心の中ではこのような言葉を叫びながら
「一生懸命伝えているのに…なぜわかってくれないんだろうか? なぜ伝わらないのだろうか?」
と悩んでいらっしゃる方も少なくないのではないでしょうか?

実は、私たちが何気なく使う対話にも、“ルール” が存在するのです。
ルールを知れば、あなたの言葉はきっと相手に伝わります!

対話にもルールがある

まずは、どんな対話のルールがあるかを事例を通じて感じていただければと思います。
例えば、2022年の冬季五輪 男子ハーフパイプ、「平野歩選手が金メダルを取った!」 この時の実況から考えてみましょう。

日本選手を応援する気持ちがあふれ、興奮するこの場面、
理屈抜きに「これは金メダルの演技だ!凄い!」と叫びたいところですよね。

しかし、実況担当のアナウンサーは、平野選手がどんなテクニックを繰り出したのか、それがどのぐらい凄いことなのか
これまでの試合や、競技に関するあらゆる知識を整理して、このような解説をしていました。

「これは、オリンピック初のフロントサイドトリプルコーク1440(斜め軸に縦3回転、横4回転するワザ)」
「人類史上最高難度のルーティーン」、「今、現状で考えうる、人類ができる最高難度のトリック、ルーティーンです!」

なぜアナウンサーは、人類史上最高難度の演技であることを日本中の視聴者に向けて“堂々と”言葉にでき、
なぜ視聴者であった皆さんはその言葉を“正論”であると認識し、“合意”することができたのでしょうか?

その答えは、ルールの存在です。

五輪の競技はあらかじめルールが定められており、その競技に参加するすべてのプレイヤーはそれを承認し、そのルールに則ってプレイをしています。
アナウンサーは、ルールに沿って繰り広げられた技が有効で高難易度で、他の選手を上回るルーティーンで、得点もどの選手よりも高い可能性があることを判断したからです。

つまり平野選手がフロントサイドトリプルコーク1440という大技を成功させた事実、その大技は五輪で初めて成功し、他の選手を上回るルーティンであるという理由がそろったため、「オリンピック競技として栄誉ある金メダルが相応しい」という結論に至り、視聴者も「金メダルに相応しい演技」だと理解、納得することができたのです。

 

 

対話のルール:「事実」「主張」「理由・妥当性」

人は自分の意見を言ったり、主張したりする場合には、その発言の裏付けとなる “理由・妥当性” を示し説明します。なぜなら、根拠となる理由を示さないまま主張だけを繰り返しても、その主張の妥当性は高まらないからです。

つまり、対話において“「事実」「理由・妥当性」「主張」の整合性をとること”が、主張の妥当性を担保するためのルールなのです。

対話のルールを認識するために、よくある対話を2つの事例から考えてみましょう。

事例 A)
部長:「彼はなぜ今日のミーティングに出ていなかったんだ?」
課長:「風邪だそうですよ」

このような対話は、一般的に頻繁に起きています。この対話は、間違っているわけではないのですが、対話のルールという点で見てみると、少し妙な点があります。

部長の言葉は、「彼がなぜ会議に出席していなかったのか?」という“理由”を確認しています。ところがどうでしょう。課長は、何を説明したでしょうか?

先ほどの事例をもう少し考えてみましょう。

事例 A’
部長:「彼はなぜ今日のミーティングに出ていなかったんだ?」
課長:「風邪だそうですよ」
部長:「大切なミーティングなのだから薬を飲んで、出社させるべきでなかったのか?」
課長:「高熱らしいです」
部長:「熱があったって出社できるだろう?」
課長:「彼は、病気ですよ!」
部長:「そんなことはわかっている、私が知りたいのは、出社できない理由だ」
課長:「わけのわからないことを言わないでください」

この対話は、“事実”と“理由・妥当性”の関係を誇張して表現しています。
「風邪をひいたので休む」というのは日常的な対話ですので、成立しないことに違和感があるかもしれません。
しかし、ビジネスの場面においてこのような、“理由になっていない「理由」”(「事実」の羅列)や、“ちぐはぐな「事実」「主張・結論」「理由」”が原因で対話が成立しないことは、実は頻繁に起きています。

皆さんもお気づきのように、後半の対話例では “事実”と“理由・妥当性”の関係性だけではなく、前提である「事実・事実情報」として部長と課長の“ミーティングにこの社員が出席することの価値感” にも考え方の違いがありそうです。特にビジネスコミュニケーションでは、この点にも注意が必要ですね。

主張を繰り返しても伝わらない

対話の構造を理解して、“事実” に対する “理由・妥当性” を、両者の共有のものとして合意できたときに、あなたの“主張”は相手にも納得できるものになります。

「この前も言ったでしょ!何度言わせるの!!」
「言ったじゃないか!何度同じことを言わせるんだ!!」

感情的になる前に、今一度、あなたの対話の論証構造を振り返ってみると、家庭・職場・お客様と商談など、いろいろな場所で良い事があるかもしれませんね!

本記事でご紹介した「対話のルール」は、相手に伝える・意思疎通をするためのスキルを鍛えるために重要な考え方の一つです。

このような対話スキルは「ルールや原理、概念を理解して新しい問題に適用する」性質のスキルですので、インストラクショナルデザインの『学習成果の5分類』の考え方における “知的技能”にあたります。

「自身の対話スキルを鍛えたい」、「部下の対話スキルを向上させたい」という方は、ぜひ知的技能の性質についての記事も参考にしてみてください。

参考記事実務スキルってどうやったら最速で鍛えられますか?

ビジネスに役立つ対話の構造をもっと詳しく学んでみたい!という方は、弊社の提供するトレーニング「論証構造(トゥールミンロジック)」を覗いてみてくださいね。

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