組織の活性化にもつながる リフレクション(内省)

パフォーマンス評価・設計, フレームワーク, マネジメント, 人材育成

ざっくりのあらすじ
1. リフレクションの重要性
リフレクションは仕事や自身の活動から、知識やスキルを広げる、つまり学びを促進するためのプロセスである。VUCAの時代において特に重要であり、様々な意思決定の質を向上させる。
2. 反省とリフレクションの違い
反省は「過ちを認識し改善すること」に焦点を当てるが、リフレクションは過ちのみならず、活動全体を客観的に捉え、未来志向で建設的な学びを導き出すものである。
3. リフレクションの学びへの活用
「コルブの経験学習モデル」や「ギブスのリフレクティブ サイクル」などが、リフレクションによる学びの体系化である。

リフレクションは、コミュニケーションの質の向上にも寄与し、より良い組織の形成にも貢献するものである。

仕事や私生活で忙しくしていると、「日々反省、反省」という方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。
学びという観点では反省も大事ですが、内省すること、振り返りが大切だと言われています。
皆さんは、振り返りをどのように進められていますか? そもそも一人で、効果的に振り返りができていますでしょうか?

学ぶこととは、自分との対話である

学ぶことで、自分の価値観を醸成し、新しくできることが増え、社会に還元できる能力やアウトプットが生み出される経験を、皆さんもお持ちのことと思います。
これらの学びの中に起こる体験に気づくことは、まさに「自分との対話」という表現が適しているかと思います。
今日、ご紹介する「リフレクション」という言葉について定義を改めてご紹介していきますが、「リフレクションとは“自分との対話”という大事な活動だ」と最初にお伝えできればと思います。

リフレクション(reflection)とは、内省と自己評価のプロセスです

自分の仕事やタスクから一歩離れて、自分のアプローチ、考え方、行動を客観的に見直すことをリフレクション(内省)と言います。
リフレクションは、仕事をより深く理解し、将来同様の状況に陥った時、対処する方法に関する知識を広げることを目的としています。これには、失敗と成功の両方を調査し、洞察を得て、それらを将来のアクションの推進に活用することが含まれます。

リフレクションの重要性を提唱しているのは、マサチューセッツ工科大学(MIT)の組織学習の研究者であるドナルド・シェーン氏です。彼は研究の中で、大リーグの投手や銀行家や建築家、経営者やデザイン、自然科学などの多岐にわたる分野の専門家の会話を観察しました。
シェーン氏は、彼らが彼ら自身の行動を振り返り、「変化する状況に対処しながらどのように進むべきか」を考えるプロセスに取り組んでいることに気づき、このプロセスを「行為の中の省察」と呼びました。これは、状況に積極的に取り組みながら継続的に状況を検討することを意味します。実際の現場で、課題に対してその解決を目指そうというのではなく、不確実で不安定な現代社会の中から「課題を設定」する能力を持つこと、そして「わざ」「暗黙知」を用いながら状況に対応していく「行為の中の省察」を専門職自身が明らかにし、実践と省察のサイクルを積み重ねていくことを意味しています。

人材育成に最も効果的な方法の1つは、実務経験を提供することです。しかし、ただ仕事を体験するだけでは効果的な教育は行えません。個人が自ら考え、気づきを得ることが重要なのです。

リーダーこそ、リフレクション力を高めよう

特にリーダーとしての役割を持つ人々が率先してリフレクションを行い、振り返りを学びの機会として、部下にその姿勢を示すことは大きな意味があります。
リーダーがリフレクションを行うことにより、リーダー自身の管理スキルやリーダーシップ能力が向上し、作業プロセスの効率が向上するのみならず、部下や後輩やチームメンバーに対して良いモデルを示すことができます。その為、部下の自発的なリフレクションを促すこともでき、チーム全体の行動規範の改善に貢献ができるのです。
また、リーダーが率先して行うことで、リーダーの思考や意図、評価基準を他のメンバーと共有することができます。他者との対話を大切にし、共有のビジョンや目標を確立することは、組織の内部知見と協力を促進することにもつながります。そうすることで、部下もリーダーの判断や指示についてさらに理解を深めることができ、共通の目標に向けて一体感を持つことができます。

VUCAの時代では、リフレクションによる学びが適しています。

■ 不確実性に対処する
リフレクションは、不確実性の高い状況での意思決定や行動に向けた洞察を深めることができ、過去の経験や成功、失敗からの学び、将来の選択についてより冷静な判断をすることができます。
特に、複雑な状況や問題に取り組む際には、リフレクションにより洞察力と洞察の質が向上し、より良く理解することができます。
■ 意思決定の質の向上
リフレクションは、複雑性や不安が優先する状況において、意思決定の質を向上させる助けとなります。過去の判断や選択について振り返り、成功や失敗から学ぶことで、将来の判断においてより良い選択を行うことができます。
■ 変化の速度に適応する
変化の速度が速い環境では、リフレクションにより、起こった事象に対して即座に適応すること、また学習そのものの速度を上げることを可能にします。

総じて、VUCAの時代では、リフレクションは変化に対応し、洞察を得て、柔軟に行動するための重要な手段となります。
上司が率先してリフレクションをする文化を醸成することで、部下が自発的に動き、組織全体のレベルが自然と向上していくのです。

反省や自己批判との違いを理解する

同じ「振り返り」でも、リフレクション(=内省)と反省は異なります。反省は自分のした言動を振り返り、良くなかった点を認識して同じ過ちを犯さないよう改めて考えることです。反省の主な目的は「間違いを正すこと」です。これには、自分自身の間違いを思い出し、その背後にある原因と理由を深く探ることが含まれます。「間違い」や「誤り」の具体的な点に焦点が当てられています。

一方のリフレクションは、仕事などの特定の状況における自分の行動を客観的に振り返ることです。自分で自分の状態を観察し、感情に左右されず見つめ直すことがリフレクションの意味するところです。主観を入れず、自分を責めることなく、虚心に振り返ります。リフレクションは未来志向であり、洞察を導き出し、効率を向上させることを目的としています。

リフレクションによる学習サイクル

リフレクションにおける学習は、4 段階のプロセスで行われています。

コルブの経験学習モデル(Kolb’s Experience Learning Cycle)
コルブのサイクルは、経験を通じた学習を促進するためのフレームワークです。以下はそのステップです。

① Concrete Experience(具体的経験): 実際の経験や面白い学びがあります。
② Reflective Observation(内省的観察): 経験を振り返り、感じたことや学んだことについて考えます。
③ Abstract Conceptualization(抽象的概念化): 経験や反省を基に新しいアイデアや概念を考え出します。
④ Active Experimentation(積極的実験): 新しいアイデアや概念を実際に試してみます。

もう少し平易な言葉で、経験学習モデルの中で行われているリフレクションによる学習プロセスを示すと以下のようになります。

1.関連する経験や事例を特定して選択します。
2.経験を個々のステップに分解し、各ステップを客観的に振り返ります。
3.各ステップで何がうまくいったのか、何が改善できたのかを振り返ります。
4.うまくいったことと改善できる点について共通のパターンや原則を特定し、次回の最適なアプローチを検討します。

リフレクションで重要なのは、いいことも悪いことも含めて客観的に振り返ることです。前述した「反省」と混同してしまったり、出来事の環境や関係者など外的環境だけを振り返ってしまわないよう注意しなくてはなりません。
外部環境への振り返りに集中してしまうと、外部に対する感情を引き起こしやすくなり、次回の行動改善に繋がりにくくなります。つまり、人のせいや環境のせいにしてしまうのです。そして同じような状況が起きた場合に、自身が責任を負わずに済む対策ばかりを考えてしまう恐れがあります。
リフレクションにおいては、誰が間違いを犯したかは問題ではありません。
経験から学び、それを次に活かして理想に近づくことを目的とします。
これまでの考え方や行動をどのように変えていくと良いのか、建設的に考えることが大切です。

振り返りの際に避けるべき 4 つの注意点は次のとおりです。

間違いや失敗がどこでどのように起こったかだけに焦点を当てる。
どの個人の行動が望ましくない結果をもたらしたかを、過度に強調する。
間違いの責任者に自己批判や言い訳をさせてしまう。
学習面を見落とす。

この4つのポイントに気をつけることで、前向きなリフレクションを行うことができます。

リフレクションを進めるためのフレームワーク・手順

リフレクションのフレームワークはさまざまありますが、以下に代表的なものをご紹介しましょう。

ギブスのリフレクティブ サイクル(Gibbs’ Reflective Cycle)
ギブスのリフレクティブ サイクルは、経験を振り返るための一連のステップを提供します。以下はそのステップです。

① Description(説明): 何が起こったのか、どのような状況だったのかを記述します。
② Feelings(感情): その経験に対してどのような感情を抱いたのかを考えます。
③ Evaluation(評価):うまくいったのか、うまくいかなかったのかを評価します。
④ Analysis(分析): なぜうまくいったのか、なぜうまくいかなかったのかを分析します。
⑤ Conclusion(結論): この経験から得られる結論や学びをまとめます。
⑥ Action plan(行動計画):同じ状況が再び発生した場合や、改善点を実践するための行動計画を立てます。

まとめ

リフレクションは、これからますます重要性を高めます。急速に変化する社会やテクノロジーにおいて、リフレクションは個人や組織が成長し続けるための貴重なツールです。自己理解や自己認識で、過去の経験から学び、未来の行動をより意識的かつ効果的に計画することができます。また、リフレクションは個人間のコミュニケーションや対話の質を向上させ、より良い組織の形成にも貢献します。
総じて、リフレクションがこれからの変化の時代において、持続的な成長や進化を促進するために必要なスキルであることは間違いなく、リーダーのみならずビジネスパーソンが意識すべき学びのベース、そして部下や周りの仲間に働きかけていくべき学習のアプローチなので、ぜひマスターしてほしいと思っております。

執筆者プロフィール

堀 貴史 リープ株式会社代表取締役・パフォーマンスアナリスト
一般財団法人生涯学習開発財団 認定コーチ、認定アクションラーニングコーチ、
CompTIA CTT+ Classroom Trainer、CompTIA Project+、創造技術修士(専門職)
パンダやクマ、甘いものが大好きです。みんなに健康を心配されていますが、、、元気です!

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