新しい知識のINPUTの“はじめ”にできる!「先行オーガナイザー」活用法

インストラクショナルデザイン, パフォーマンス評価・設計, ビジネススキル, 人材育成, 学習支援, 研修効果

ざっくりのあらすじ
1.「先行オーガナイザー」は、学習者が新情報を理解し、既存の知識に組み込むための教授法である
2.「説明オーガナイザー」は学習の流れと目的を明示し、「比較オーガナイザー」は対比的な示し方で理解を促進する(製薬企業の事例もご紹介!)
3. 先行オーガナイザーは“有意味受容学習”の場面で効果を発揮する
4. 変化の激しい事業環境での学習活動に活用すると業務効率が改善され、パフォーマンスが向上する

最近はリスキリングやアンラーニングなどの言葉を日常的に耳にするようになりましたが、これだけ社会情勢が変化したり、技術革新の激しい世の中では、研修の企画をされている皆さんはもちろん、研修部門でなくても新しいシステムやツールの導入、期初の戦略のカスケードなど社内に新しい知識やスキルをインストラクションしなければいけない方も多いと思います。
そんな時、あなたはインストラクションの冒頭をどんな風にスタートさせますか?

「はじめはやっぱり本日の目的とゴールだよね」
「研修の冒頭と言えばチェックインでしょ?」

こんな声が聞こえてきます。
それでは目的とゴールを伝えて、チェックインが終了して、いよいよ本題に入る時、どんな話題から入りますか?

「研修や会議時間短縮で、余分なことあまり話せないんだよな…」
「期初のキックオフで今期の戦略を説明しなきゃいけないけど、各部門からのアジェンダが目白押しで、短時間しかもらえず、どんな風に説明したらよいか悩ましい…」

こんな風に思われた方もいらっしゃるかもしれません。
たしかに研修にしても、会議にしても、キックオフにしても、限られた時間の中で、わかりやすく相手にインストラクションし、効率良く理解をしてもらわなければいけない環境は日常茶飯事です。

そんなあなたが、インストラクションの冒頭で活用できる「先行オーガナイザー」という教育手法についてご紹介します。

「先行オーガナイザー」とは

先行オーガナイザーとは、心理学者デイビッド・オーズベルが提唱した、学習者が新たな情報を理解し、それを既存の知識構造に組み込むための「枠組み」の役割を果たす教授法です。大きく分けて「説明オーガナイザー」と「比較オーガナイザー」の2種類が存在します。「説明オーガナイザー」は新しい学習内容の全体的な要約や概念構造を先に示すことで、学習者が見通しをもって学ぶことができるとされています。一方、「比較オーガナイザー」は既に知っている知識や概念を改めて示し、新しい学習内容と比較することで類似点や相違点を明確にし、深い理解を促します。

製薬会社のMR教育における「先行オーガナイザー」の活用方法について、具体的な事例を2つ紹介します。

1.セリングスキル研修で「説明オーガナイザー」としてルーブリックを取り入れた事例

製薬会社C社では、MR向けのセリングスキル教育に「説明オーガナイザー」を活用しました。
3日間にわたる集中的なセリングスキル教育を開始する前に、まずセリングスキルのルーブリックを示しました。このルーブリックでは、これから学ぶセリングスキルの全体像と構造が明示され、MRはどのようなスキルを学び、それがどのように結びついているのかを理解することができました。
これにより、MRは教育の全体的な流れと目的を把握し、各セッションに取り組む準備が整いました。

2.適応症追加の戦略カスケードに「比較オーガナイザー」を取り入れた事例

製薬会社D社では、製品Aに適応症が追加になった際の戦略カスケードに「比較オーガナイザー」を利用しました。
具体的には適応症が追加になることで、新たなターゲット診療科が増えることになったため、ターゲットごとの戦略の違いを比較した資料を作成し、ターゲットごとの共通点と異なる点を明確に示しました。この比較表はMRがターゲットごとの戦略を理解し、それぞれに適したプロモーションを理解するためのガイドとなりました。
これにより、MRはターゲットごとに適切なプロモーションを行うことができ、既存・新規ターゲットへの販売促進について効果的に対応することが可能となりました。

先行オーガナイザーは「正解を提示」する教育場面で効果を発揮する

これらの事例からもわかるように、先行オーガナイザーは「有意味受容学習(Meaningful Reception Learning)」と言われる種類の学習で効果を発揮するとされています。
「有意味受容学習」とは以下の2つの要件を満たす学習を指します。

✓ 学習者にとって親しみがもてる内容(有意味)を取り扱う(⇔「無意味」なことを機械的に覚える学習)
✓ 正解を整理した形で学習者が「受容していく学習」(⇔様々な事例を提示されて、学習者自身で枠組みを創り出していく「発見学習」)

企業内教育において、絶対的な正解がないことに対して、社員自身が考える力を身につけなければいけない場面は多くありますが、そのために下支えする知識・スキルを効率よくINPUTしなければいけない場面も数えきれないほどあるということが実情です。
そんな場面で「先行オーガナイザー」を活用することで、社員は新たな知識・スキルを効率的に理解し、具体的な業務に活用することができます。

まとめ

昨今の変化の激しい事業環境において、社員が効率良く新たな知識・スキルを習得することは、業務効率を大きく改善し、パフォーマンスを引き上げることにつながります。
研修を企画する担当者はもちろん、部下育成でお悩みのマネジャーの皆様にとっても、新しい知識・スキル習得の効率を高める工夫を取り入れていただくことは大きなベネフィットがあります!
新しい知識・スキルのインストラクションの冒頭では、新しい学習内容の全体的な要約や概念構造を先に示す「説明オーガナイザー」、もしくは既に知っている知識や概念を改めて示し、新しい学習内容と比較することで類似点や相違点を明確にする「比較オーガナイザー」を活用することで、効率よく新しい知識・スキルをINPUTし、深い理解を促す仕掛けをしてみてはいかがでしょうか?

 

執筆者プロフィール

荒木 恵 リープ株式会社 取締役・インストラクショナルデザイナー 
ラーニングデザイナー (eLC認定 e-Learning Professional)、e-Learning マネージャー(eLC認定 e-Learning Professional)、e-Learning エキスパート (eLC認定 e-Learning Professional)、CompTIA CTT+ Classroom Trainer、認定アクションラーニングコーチ、日本評価学会認定評価士、修士(教授システム学)、RCiS連携研究員
趣味は温泉・秘湯・マッサージ巡り。(どこかおススメがあれば”こっそり”教えてください!)
教育に関わるデータの活用方法から、データに基づいた教育プランの設計まで、皆さんのお悩みをサポートしますので、お気軽にメッセージください。

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