「研修」と「現場」の垣根をなくすワークプレイスラーニング

インストラクショナルデザイン, パフォーマンス評価・設計, 教育設計, 教育評価


突然ですが、質問です!
社会人は業務に必要なことをどこで「もっとも」学んでいるでしょうか??

A) 研修
B) 職場
C) それ以外(スタバ?)

あなたの所属する組織、あなたの部下、そして何よりあなた自身の社会人歴を振り返ってみて、いかがでしょうか?
今回は、人材育成の主戦場はどこか!? その主戦場に切り込んだ人材育成ができているのか? というお話です。
参考:人材育成に役に立つ「インストラクショナルデザイン」

社会人はどこで学ぶのか?研修?それとも…?


昨今は人の学びについて、研修(Off-JT)をフォーマルな学習、それ以外をインフォーマルな学習として対比的に捉え、後者に対する注目が集まっています。

✔ フォーマルラーニング:研修など計画的で意図的な学び(例:集合研修、オンライン研修、eラーニング など)
✔ インフォーマルラーニング:仲間との情報交換などで偶発的に成立する学び(例:職場での先輩との他愛もないおしゃべり、同期LINEグループにおけるメッセージのやりとり、業務中にわからないことがあった時にスマホで調べて仲間に共有するなど)

冒頭の「社会人はどこでもっとも学ぶのか?」という問いについて、様々な先行研究があるので少しご紹介したいと思います。
McCall(2000)らによると、「人間の能力開発の70%は、インフォーマルラーニングによって説明がつく」としています。つまり、研修(フォーマルラーニング)での学びは30%程度で、残りの大半は職場(インフォーマルラーニング)で学んでいるというのです。
効果がなかった研修プログラムの原因分析をおこなったBrinkerhoff(2008)によると、研修の失敗要因は、次のような割合で3つの要素に分けられます。

1)研修前の職場での準備が4割

失敗の例
● 現場のマネジャーは、部下を研修に参加させる前に部下(受講者)の学習への準備を高めず、とりあえず研修に送り込んでいる
● 適切な人物が研修に送られてきておらず、研修の内容やレベル感が受講者に合致していない

2)研修のデザインそのものが2割

失敗の例
● 研修で教えている内容やアジェンダ、ワークがイマイチ
● 講師の説明や進め方が悪い

3)研修後の職場実践とサポートが4割

失敗の例
● 研修の後に職場に戻った後、上司が学んだことを実践する機会や場がない
● 上司・同僚から学んだことを実践するためのサポートがない

つまり、研修成否の8割を研修以外の要因が占めていることになり、このことから「職場」での準備・実践・サポートが、研修受講者の学びに非常に大きな影響を与えているということがわかります。

もしあなたが研修を担当されていたら、少々がっかりしたかもしれません。
でも一方で、自分自身の経験を振り返ってみると「納得!」と思われる部分も多いのではないでしょうか?

繰り返しになりますが、大人は業務の大半を「職場」で学んでいるのです。

これほどにインパクトの大きい「職場」での学びですが、これまで企業においては
「職場での育成(OJT)は、現場ライン長の管轄!」
「研修(Off-JT)は、人事部・人材開発部門の管轄!」
というように、異なる主体者によって管理・運営されてきたことで「職場」の学びは現場まかせ、ともすれば「放置プレイ」になっていました。

職場での学びに着目するワークプレイスラーニングとは


このような背景から、人材育成活動を捉える上で『ワークプレイスラーニング』という考え方が活発になっています。
ワークプレイスラーニングの定義は複数ありますが、一般的には「個人や組織のパフォーマンスを改善する目的で実施される学習その他の介入の統合的な方法」(Rothwell & Sredl 2000)とされています。
少々小難しい表現になっていますが、『ワークプレイスラーニング = 研修の学び × 現場の学び』と捉えることで、研修の学び(フォーマルラーニング)を活かしつつ、現場の学び(インフォーマルラーニング)のインパクトも考慮して、シナジーを目指していこうという考え方です。
参考:効果的・効率的・魅力的な教育「インストラクショナルデザイン」

「カタチだけ」アクションプランから抜け出して、現場に広げられるか!?

あなたが研修に参加したときに、研修の最後にアクションプランを書いた経験がある人は多いのではないかと思います。
「書いたことがある!」という人は、そのアクションプランをちゃんと実行しましたか?
研修の最後に書くアクションプランは、研修で学んだことを現場で使ってもらいたいためのはずですが、とりあえず書いて発表している「カタチだけ」アクションプランはほぼ実行されません。

「研修しても、結局何も変わらないなぁ」と感じている人は、研修の中だけでなく、現場での学びにも目を向け、研修と現場の学びをつなげる方法を模索してみてください。
手間はかかりますが、絶対にそれ以上のリターンがあります!!

 

執筆者プロフィール

荒木 恵 リープ株式会社 取締役・インストラクショナルデザイナー 
ラーニングデザイナー (eLC認定 e-Learning Professional)、e-Learning マネージャー(eLC認定 e-Learning Professional)、e-Learning エキスパート (eLC認定 e-Learning Professional)、CompTIA CTT+ Classroom Trainer、認定アクションラーニングコーチ、日本評価学会認定評価士、修士(教授システム学)、RCiS連携研究員
趣味は温泉・秘湯・マッサージ巡り。(どこかおススメがあれば”こっそり”教えてください!)
教育に関わるデータの活用方法から、データに基づいた教育プランの設計まで、皆さんのお悩みをサポートしますので、お気軽にメッセージください。

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