職場の問題解決を通じてチームで学ぶ「アクションラーニング」

パフォーマンス評価・設計, ビジネススキル, フレームワーク, 人材育成, 営業力強化, 戦略立案, 教育設計

ざっくりのあらすじ
1. 企業は人材育成に力を入れているが、研修が実務で活かされない、やらされ感があるなどの問題が多数存在する。
2. 「アクションラーニング」は、実際の問題を小グループで解決しながら学ぶ手法で、これにより個人と組織の成長を目指す。
3. 成功のためには、具体的な課題の選定、多様なグループ構成、定期的な反省とフィードバック、ファシリテーターのサポートが重要。
4. アクションラーニングは、職場での実践的な学びを通じて、学習と仕事の境界性を越え、企業内教育の質を向上させる効果的な手法である。

人的資本経営も推進される昨今、より一層人材育成に対する取り組みを強化する企業も多くなっていると思います。
たくさんのリソースをかけて取り組む一方で、人材育成に関わる悩みはそうした組織でもつきないのではないでしょうか。

「研修でやったことが、まったく実務で活かされていない…」
「いろんな企画をしても、やらされ感が蔓延していて、自律的な学びになっていない」
「業務が忙しいのに、研修にそんな時間を割いていられない」
「次世代を担う若手リーダーを育てられていない」

皆さんの組織ではいかがでしょうか?
このような声が上がってくる背景には、様々な要因があると思いますが、その問題を解決する手法の1つが「アクションラーニング」です。

職場の問題解決をしながら学ぶ「アクションラーニング」

アクションラーニングとは、実際の業務やプロジェクトに直面している問題を、小グループで協働しながら解決していく学習プロセスです。この手法は、レグ・レヴァンスによって提唱され、個人の学習だけでなく組織全体の変革をも目指します。
アクションラーニングのセッションでは、参加者が実際の問題に取り組み、その過程で学びを深め、スキルを向上させることができます。参加者は自らの経験を共有し、互いに学び合うことで、単なる知識の習得を超えた深い学びを実現することができます。
【 ご参考 】※外部リンク アクションラーニングとは | NPO法人 日本アクションラーニング協会 (jial.or.jp)

◆アクションラーニング実践のポイント

アクションラーニングを成功させるためには、以下のポイントが重要です。

1. 実践的な課題の選定:参加者が関心を持ち、かつ組織にとっても意味のある実践的な課題を選ぶことが重要です。
2. 適切なグループ構成:多様なバックグラウンドを持つメンバーでグループを構成することで、異なる視点からのアイデアや解決策が生まれやすくなります。
3. 反省とフィードバックの機会の提供:アクションラーニングは実行と反省の繰り返しです。定期的にセッションを持ち、進捗の共有とフィードバックを行うことが成長につながります。
4. ファシリテーターの役割:ファシリテーターは、グループの学習プロセスを促進し、参加者が問題解決に向けて深く考えることを支援します。彼らは直接的な答えを提供するのではなく、適切な質問を通じて参加者自身が答えを見つけ出せるよう導きます。

<事例解説>クロス・ファンクショナル・チームによる希少疾病MR 営業スキルの体系化

クロス・ファンクショナル・チームで取り組むプロジェクトもアクションラーニングの手法を取り入れることで、個人・組織の学習の場として期待することができます。
ここでは製薬会社Xにおける希少疾病MR 営業スキルの体系化のプロジェクトの事例についてご紹介します。

希少疾病領域では、患者数がとても少ない事から、特定の疾病に関する知識や治療法が限られており、MRは医師に対して高度な知識と専門性を持って接する必要があります。そのような背景から営業手法が確立しておらず、MRのパフォーマンスに大きなバラつきがありました。
この問題を解決するためにX社では、クロス・ファンクショナル・チームが立ち上げられました。

アクションラーニング実践のポイント

1. 実践的な課題の選定
プロジェクトチームは、希少疾病領域におけるMRの営業スキルに関する具体的な課題を選定しました。具体的には、医師に対する効果的なコミュニケーション方法や、希少疾病に関する情報をどのように伝え、患者さんの診断・治療ができる仕組みをどのように構築するかという点が挙げられます。

2. 適切なグループ構成
チームは、マーケティング部門、メディカル部門、トレーニング部門、そして実際にフィールドで活動するMRとマネジャーから構成されました。異なる専門分野からのメンバーをチームに組み入れることで、多角的な視点からの解決策を導き出しました。特に、フィールドでの実際の経験を持つMRの意見は、セリングスキルの改善点を見つける上で貴重なものでした。

3. 反省とフィードバックの機会の提供
チームは定期的にミーティングを開催し、進捗状況を共有しました。また、実際に営業手法を試したMRからのフィードバックを収集し、プログラムの改善に役立てました。

4. ファシリテーターの役割
トレーニング部門が、外部コンサルタントの専門家のサポートのもとファシリテーターとして参加し、チームが目標に焦点を当てた議論を行うよう導きました。また、アクションラーニングプロセスにおける内省の重要性を強調し、チームが学びを深めるためのサポートを提供しました。

このアクションラーニングプロジェクトを通じて、X社は希少疾病担当MR向けの営業スキルを体系化したガイドブックを開発しました。プログラムは、医師とのコミュニケーションスキル、疾病・症例知識の深化、そして地域ごとで対象疾患の患者さんの診断・治療ができる仕組みづくりに焦点を当てています。本プロジェクトを通じて、現場での問題に対して部門を越えて素早く情報共有がされるようになり、問題解決のスピードが格段に上がりました。チームでプロジェクトを進行しながら成果物を作り出す中でリーダーシップも培われた点も注目すべき点です。
【 ご参考 】VUCA時代のマネージャーと部下の新しい関係性 シェアド・リーダーシップ

学習と仕事の境界性を越える取り組みの可能性は無限大!?

アクションラーニングは、現場で直面している実際の問題を解決する過程で学び、成長するための有効な手法です。研修が現場から分断されてしまう問題を解決し、参加者に主体性をもたらすことができます。

アクションラーニングを実践する上でのポイントを押さえ、適切な課題選定、多様なグループ構成、反省とフィードバックの機会の提供、そしてファシリテーターの役割を重視することが成功の鍵となっています。これらの要素を踏まえることで、アクションラーニングは個人のスキルアップだけでなく、組織全体の革新へとつなげることができます。

アクションラーニングは、学習の場を「研修」ではなく、「職場」に置くことで、企業内教育を次のレベルへと引き上げるための強力な手法となります。
あなたの組織でもアクションラーニングを取り入れてみませんか?
【 ご参考 】上手く行かないグループワーク。目的を盛り込み過ぎてませんか? |

執筆者プロフィール

荒木 恵 リープ株式会社 取締役・インストラクショナルデザイナー 
ラーニングデザイナー (eLC認定 e-Learning Professional)、e-Learning マネージャー(eLC認定 e-Learning Professional)、e-Learning エキスパート (eLC認定 e-Learning Professional)、CompTIA CTT+ Classroom Trainer、認定アクションラーニングコーチ、日本評価学会認定評価士、修士(教授システム学)、RCiS連携研究員
趣味は温泉・秘湯・マッサージ巡り。(どこかおススメがあれば”こっそり”教えてください!)
教育に関わるデータの活用方法から、データに基づいた教育プランの設計まで、皆さんのお悩みをサポートしますので、お気軽にメッセージください。

 

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