【イベントレポート】
次世代リーダーのための「人が育つ組織」デザイン論~ 自律的に学び合う文化のつくりかた~
2026年1月20日開催 次世代リーダーカンファレンス

HPI, セミナーレポート, パフォーマンス評価・設計, 人材育成, 教育設計

Conference Report  ·  HRビジョン 次世代リーダーカンファレンス 2026.01.20

次世代リーダーのための
人が育つ組織」デザイン論
自律的に学び合う文化のつくりかた

「研修をやっても行動が変わらない」「自律的に学ぶ文化が根付かない」——多くの企業が抱えるこの難題に対し、「人事の実践知」と「インストラクショナルデザイン」を融合させた解決策が提示されました。

「人的資本経営」が経営の必須科目となって久しい現在。多くの企業が研修や学習プラットフォームに投資していますが、現場では「研修をやっても行動が変わらない」「自律的に学ぶ文化が根付かない」という悩みが尽きません。

2026年1月20日に開催された次世代リーダーカンファレンス(主催:HRビジョン)にて、リープ株式会社が登壇した『次世代リーダーのための「人が育つ組織」デザイン論~自律的に学び合う文化のつくりかた~』では、この難題に対し、「人事の実践知」と「インストラクショナルデザイン」を融合させた解決策が提示されました。

樋口 知比呂 氏

Guest Speaker
樋口 知比呂 氏

FWD生命保険株式会社 執行役員 兼 CHRO/博士(人間科学)

人事専門家×博士×キャリコン。組織と人に関する実務経験を積み、経営理論を実践した人事のプロフェッショナル。大手銀行で人事部長を歴任後、現在はFWD生命執行役員兼CHRO。早稲田大学政治経済学部卒、カリフォルニア州立大学MBA、UCLA HR Certificate取得、博士(人間科学)。グロービス経営大学院准教授。

📘 著書:『仕事ができる人が習慣にしていること』(日本能率協会マネジメントセンター)

荒木 恵

リープ株式会社 取締役
荒木 恵

リープ株式会社 取締役/修士(教授システム学)

ヘルスケア関連企業などを経て人材開発コンサルティング企業に従事。営業、MR、フィールドトレーナー、事業開発などを経験。熊本大学大学院教授システム学でインストラクショナルデザインを学び、教育評価を研究。修士(教授システム学)、RCiS連携研究員、認定アクションラーニングコーチ、日本評価学会認定評価士。

📘 著書:『インストラクショナルデザイン 成果から逆算する”評価中心”の研修設計』(プレジデント社)

本レポートでは、樋口氏による「組織文化と動機づけ」のパートを掘り下げつつ、後半の荒木による「科学的理論の実装方法」と合わせて、当日の熱気をそのままにお届けします。

なぜ「組織文化」が最強の経営戦略なのか?

セッションの前半は、人事としての実務家歴30年とアカデミックな知見を併せ持つ樋口氏による、圧倒的な説得力を持ったプレゼンテーションから始まりました。

FWD生命_樋口氏

「文化」と「風土」の違いを言語化できているか?

「組織文化」という言葉は頻繁に使われますが、その定義は曖昧になりがちです。樋口氏はまず、「組織文化」と「組織風土」を明確に区別することから始めました。

A組織文化
Culture

価値観・理念・行動規範など、共有される「考え方」。長期的・安定的で変わりにくいもの。

B組織風土
Climate

職場の雰囲気や人間関係、働きやすさなど、日々の業務で感じる「空気感」。短期的で変動しやすいもの。

樋口氏は「風土は変わりやすいが、文化は根付くもの。両者は相互依存関係にある」と指摘します。そして、経営にとってこれらが単なるソフトな概念ではないことを、コーン・フェリー社の調査データを使って示しました。

「組織風土と業績の間には約30%程度の相関があり、さらに組織風土とリーダーシップスタイルには50〜70%の高い相関があり、業績の20%程度はリーダーシップと相関する」

組織風土と業績の相関

つまり、リーダーがどのようなリーダーシップを発揮し、どのような風土を作るかは、企業の売上などの業績に直接跳ね返る経営課題なのです。樋口氏は、研修に懐疑的な現場リーダーに対し、「リーダーシップ研修をやると業績が上がる」と数字で語ることの重要性を説きました。

組織文化を「測定」し、自社の現在地を知る

では、自社の文化はどのような特性を持っているのでしょうか? 樋口氏は「競合価値モデル」を用いて、組織文化を4つの象限(クラン、アドホクラシー、マーケット、ヒエラルキー)に分類するフレームワークを紹介しました。

組織文化の競合価値モデル

樋口氏がCHROを務めるFWD生命保険株式会社の場合、保険会社という特性上「安定性」がベースにありつつも、デジタル変革を推進するため「柔軟性」や「外的適応(マーケット)」への志向も強いといいます。このように、自社の文化を感覚ではなくフレームワークで客観視することが、戦略人事の第一歩となります。

「外発的動機」を「内発的動機」へ変える仕掛け

多くの人事担当者が頭を抱えるのが、「社員が自律的に学ばない」という問題です。樋口氏は、動機づけ理論、自己決定理論、目標設定理論、期待理論などを引用しながら、FWD生命で実際に成果を上げた「学びの文化醸成」のプロセスを紹介しました。

FWD生命の学び放題プラットフォーム導入時の工夫とは

同社では、eラーニングの学び放題プラットフォームを導入しました。学習プラットフォームの導入から3年が経過した現在累計3万コースが受講されています。1人あたり年間10コースを継続して学んでいることになります。

なぜこれほどまでに学習が定着したのでしょうか? 樋口氏が明かした「仕掛け」は、意外にも「外発的動機づけ(インセンティブ)」からのスタートでした。

3万

累計受講コース数
(導入から3年)
10コース

1人あたり
年間受講数
76

現在のエンゲージメント
スコア(就任時:19)

「お金」は会社の本気度を示すメッセージ

導入初年度、同社は「学びにインセンティブを支給する」というキャンペーンを行いました。一般的に、教育の世界で外発的動機づけは、報酬がなくなれば行動も止まると考えられるため推奨されにくい側面があります。

しかし、樋口氏の狙いは明確でした。「最初は『会社の本気度』を示すためにお金をかけました。そこにお金を払ってでも学ぶ習慣をつけてほしいという、会社からの強いメッセージです」。同社の下したその大胆な施策の結果はというと、インセンティブがなくなった後も、受講数は右肩上がりで増え続けているといいます。

受講数推移

「最初は報酬目当てだったかもしれません。しかし、やり続けることで『学ぶこと自体が楽しい』『仕事の役に立つ』という実感を得られ、徐々に『内発的動機づけ』へと質が変化していきました」

と樋口氏は語ります。

さらに、単にお金を配るだけでなく、以下のような緻密な設計が行われていました。

  • 1
    ハイパフォーマーの可視化
    学んでいる社員を表彰し、その学習スタイル(「隙間時間に音声で聴いている」等)を共有することで、フォロワーを生み出す。
  • 2
    上司の巻き込み
    目標設定(Development Goal)に学習計画を組み込ませ、上司との対話をする。
  • 3
    デジタル・データの活用
    AIによるレコメンド機能で、Amazonのように興味関心のある学習コースが次々と提案される環境を作る。

徹底した「測定」と「ピープルアナリティクス」

樋口氏は、これらの施策をすべてデータで検証しています。同社のエンゲージメントスコアは、樋口氏の就任当初は「19」だったものが最新のスコアは「76*」と飛躍的な向上を見せています。制度変更の影響で数値が停滞する局面もありましたが、ピープルアナリティクスを用いた精緻な分析と、現場への適切な介入を繰り返すことで、着実な改善を実現しました。徹底して測るからこそ、次の手が打てるのです。

*サーベイ会社が変わったため換算値

樋口氏まとめスライド

樋口氏の実践は、人事が感覚論から脱却し、経営に資する科学的アプローチが可能であることを証明していました。

「学習転移」のメカニズム

後半は、弊社の荒木にバトンタッチ。前半のパートで樋口氏からあった経営・人事の立場からの強い意志がある戦略であったとしても、現場の行動が変わらなければ、それは「絵に描いた餅」に終わりかねません。では、経営の想いをどうやって現場の具体的なアクションに落とし込むのでしょうか?

後半のパートでは、まずそのミッシングリンクを埋めるために活用できる理論である「HPI(Human Performance Improvement)」「ID(Instructional Design)」について解説しました。

リープ株式会社_荒木恵

ビジネス成果から逆算するHPIとID

荒木は、多くの企業が陥る「研修を実施して終わり(レベル2*:学習)」という壁を指摘しました。ビジネスゴール(売上など)を達成するためには、現場での行動変容(レベル3*)が不可欠です。

📖 参考記事|*教育の評価方法「カークパトリックの4段階評価モデル」
https://www.leapkk.co.jp/2024/05/09/3ways_assessment/

HPIとID

例えば営業組織における 「売上が上がらない」という課題に対し、いきなり「営業研修」という介入策を出すのではなく、まず「現場でどのような行動が不足しているのか(パフォーマンス分析)」、「それは知識不足なのか、環境のせいなのか(原因分析)」といった、求められているパフォーマンスゴールと現状のギャップを明確にします。

HPI理論に基づくプロセス

原因分析の結果、社員のパフォーマンスのギャップを生じさせている原因として「必要な知識・スキルの不足」というものが明確になったら、IDに基づいて研修デザインなどの人材育成の仕組みを逆算しながら設計していくことになります。

学びの実践・定着の鍵は「PLE(肯定的学習環境)」にある

社員が自律的に学び、学んだ知識・スキルを職場で実践・定着させる上で、荒木が特に強調したのが、「肯定的学習環境(PLE: Positive Learning Environment)*」です。

PLEとは、「社長から平社員までのすべての社員が、ビジネス目標達成のために常に学習の態勢にあること(Tobin,2000)」を指します。HPI・IDに基づき、逆算してトレーニングをデザインしても、職場が「失敗を許さない雰囲気」だったり「新しい挑戦を冷笑する空気」であれば、学びは実践されません。

セッションでは、参加者の皆様にもPLEチェックリスト(30項目)を実施いただき、その場で結果を共有。PLE30を8つのメタ概念に分けて、受講者の企業における学習環境の傾向を確認しました。

PLEチェック結果

「アイデアは歓迎されるか?」「失敗は教育とみなされるか?」といった問いに対し、会場の受講者からは「制度はあるが風土が追いついていない」「横の連携が弱い」といったリアルな課題感が共有されました。

この結果を受けて、ゲストの樋口氏は、次のようにコメントをしました。

樋口氏 コメント

樋口氏はまず、PLEのメタ概念「①アイデアと改善」や「②オープンな議論」「③組織を越えた協力」といった項目は、コーポレートバリューなどの価値観と連動させることで強化できる領域であろうと述べました。

一方で、「④学習支援プロセス」「⑤失敗と評価」「⑥知識共有とリソース」「⑦価値連鎖の理解」「⑧キャリア開発」の項目は、キャリアマップによる学習方法の明示や外部セミナー参加の推奨といった具体的な人事施策や仕組みによって、スコアの底上げが可能であろうと指摘しました。

これらを推進するにあたっては、粘り強い価値観の醸成と施策への投資を両立させる必要があり、施策の効果を正しく評価した上で、成果の出ないものは別の取り組みへ予算を切り替えるといった、柔軟な意思決定が強い組織を創る鍵になると締めくくりました。

PLE(肯定的学習環境)チェック

📖 参考記事|*肯定的学習環境(PLE)
https://www.leapkk.co.jp/2026/01/16/ple30-positive-learning-environment_2/

組織に「肯定的学習環境」を構築したB社の事例

実際にPLEの学習環境を組織に実装し、成果につながったケースとして荒木が紹介したのが、システム系事業会社B社です。

B社の事例

B社の背景と課題:戦略実行を阻む「多忙な現場」

B社では、市場環境の変化に伴い「反響営業」から、「コンサルティング型営業」への転換を経営上の課題としていました。しかし、現場は日々の業務に追われて多忙を極め、人材育成に時間を割けないという背景がありました。さらに、人事の育成担当者のリソースの限界もあり、人事が主導する研修に依存せず、マネージャーを巻き込んだ現場主体の育成の仕組みを作る必要もありました。

2つの評価指標の導入

B社は、HPIとIDに基づき2つの評価指標を羅針盤として活用しました。

  • A
    商談スキル・ルーブリック(スキルベースの評価)
    B社ハイパフォーマーの行動分析に基づき、社員に求める職務行動を言語化した「商談スキル・ルーブリック」を作成しました。全営業担当者の商談スキルアセスメントにより組織の現状を可視化し、スキルレベル別の教育プログラムを提供しました。
  • B
    PLE30(肯定的学習環境の評価)
    B社ではPLE30を導入し、肯定的学習環境が構築されているか、モニタリングを実施しました。職場が「学びをビジネス成果につなげられる環境になっているかどうか」をマネージャー自身が分析し、課題を特定することで、人材育成担当者が主体になるのではなく、現場が主体となって人材の育成をしていく組織の土壌を整えることが狙いです。

支援を段階的に外す教育の仕組みづくり

B社は自律的な人材育成の仕組み構築に向けて、この2つの評価指標で商談スキルと学習環境をモニタリングしながら、人材育成担当者の支援という足場かけを段階的に外していく2段階のアプローチを設計しました。

Phase 1

自立に向けた学習基盤づくり
人材育成担当者が主導

まずは人材育成担当者が主導し、商談スキル・ルーブリックを用いた目標設定や研修、部下のスキルへのフィードバックといった学習プロセスの実践サイクルを導入。マネージャーはこれに沿って、業務内での実践を支援する役割を担いました。

ルーブリック評価レベル3以上の社員が1.3倍に増加
Phase 2

自律的な学習環境づくり
マネージャーが主導

人材育成担当者は後方支援に回り、主導権をマネージャーへ委譲。ある支店ではPLEの結果から「部下がヒアリングに不安を抱えている」と分析し、上司主導で「顧客ヒアリングシート」を独自開発してスキル育成に活用するといった、自律的な環境改善を実現しました。

委譲後もPLE30・スキルスコアは維持・向上

このアプローチにより、人材育成のリソースに限界があるB社でも、現場が自律・自走して学ぶ環境づくりを実現しています。

B社の教育プロセス

B社の成功のポイント

商談スキル向上に対する取り組みだけでなく、PLE30を活用することで、段階的に足場かけを外しながら、現場主体の学習環境を構築できたことが、成功のポイントです。フェーズ2終了後の上司と部下それぞれのインタビュー結果からは、PLEが組織の文化として定着しつつあることをうかがわせる高い実施率が確認されています。また、ビジネス成果としての売上も数年間に亘って向上しました。

まとめスライド

ここで紹介しきれていないB社のさらに詳しい実践内容についてお知りになりたい方は、動画やオンラインによるご紹介が可能です。お気軽にお問い合わせください。

まとめ ─ 組織開発に「科学的な理論」の実装を

感覚的な育成から卒業し、
成果に直結する組織づくりへ。

今回の講演で樋口氏が伝えた「組織風土は業績の30%を決める」という事実。これを放置することは、経営にとって大きな機会損失です。しかし、文化や風土は一朝一夕には変わりません。だからこそ、感覚や精神論ではなく、データと理論に基づいたアプローチが必要なのです。

あなたの組織では、データや理論に基づくアプローチが出来ていますか?
「自律的」と言いながらも、ただの放置になっていませんか?

「自律的な組織を作りたいが方法がわからない」とお悩みであれば、ぜひ一度リープにご相談ください。今回ご紹介したHPI・IDを軸に、貴社の組織に「自律的に人が育つデザイン」を実装するご支援を行っています。

感覚的な育成から卒業し、成果に直結する組織づくりへ。次は貴社の組織で実現しませんか?
人材育成や学びのデザインに関するご相談や事例のご紹介などは、お気軽にお問い合わせください。

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