研修で終わらせない!学びが続く職場をつくる『PLE30』の考え方

パフォーマンス評価・設計

ざっくりのあらすじ
1. 70:20:10の法則があるが、企業教育では研修の学びの10%を、残りの90%の「現場での学び」にどうやって影響を与えるかという視点を持つことが大切
2. 個人の能力不足を疑う前に、失敗や試行錯誤が日常的に歓迎される「現場で学びが起きる仕組み」を整えるべきである

3. 職場の現状は30の指標(PLE30)で客観視でき、失敗への寛容さや上司の伴走、組織を越えた連携などの観点から改善点を特定できる
4. 環境は教育設計の土台であり、指導者が過去の育成法を捨てて小さなPLEの実践を積み重ねることが、チームの自走を促す鍵となる

「がんばって研修を実施したのに、現場に戻ると誰も実践していない……」

教育担当者のみならず、人材育成をする人が直面するこの悩み。
実は、この問題の本質は研修の質そのものではなく、「学びを阻む職場の環境」にあるかもしれません。

現場こそが最強の学び場——「70:20:10の法則」

米国ロミンガー社が示した「70:20:10の法則」によれば、ビジネスパーソンの成長の源泉は以下のような割合で構成されています。

  • 70%:職場での実務経験からの学び (Experience)
    日々の業務における挑戦、失敗、成功体験を通じた学習
  • 20%:他者との関わりからの学び (Social Learning)
    上司・同僚・メンターからのフィードバックや観察による学習
  • 10%:フォーマルな学習(Formal Learning)
    研修・書籍などの体系的に構成された知識・スキルの習得

学習のモデル

企業教育では「教育=研修」と考えがちですが、成長に役立つ割合はわずか10%に過ぎません。

「研修での学び10%を、残り90%の現場での学びにどう影響させるか?」
この視点を持つことが、マネージャー自身の負担を減らし、チームを自走させる鍵となります。

肯定的学習環境(PLE)

教育学者 P.J. Tobin(2000)は、現場で学びが自然に起きる状態を「肯定的学習環境(PLE:Positive Learning Environment)」と呼びました。
肯定的学習環境とは、全従業員が組織のビジネス目標達成のために、継続的な学習モードにあり、常により良い方法を模索している状態を指します。
これは、経営層から現場までが「学び続ける姿勢」を共有し、新しいアイディアや試行錯誤が日常的に行われている環境のことです。

また、社員のパフォーマンスにギャップがあって成果が上がらないときに「個人の能力不足」を疑う前に、組織要因(制度・文化・支援など)がパフォーマンスを阻害する原因になっていないかを分析する「HPI(Human Performance Improvement)」の視点も重要です。

たとえば、営業担当者が研修で新しい提案手法を学び、現場でチャレンジしてみても、上司からなんのフィードバックもなく、「なんでそのやり方なの?」と反応されたらどうでしょうか?
どれほど良い研修を実施しても、PLEが整っていない職場では研修の効果を発揮できません。

PLE30であなたの職場をチェック!

自分の職場が「学びを促進する環境」かどうかを客観的に測る指標が「PLE30」です。

【職場が肯定的学習環境(PLE)かどうか見極めるための30の指標】

  1. アイディアに対し公式、非公式な反応がある。
  2. 提言が歓迎される。
  3. 失敗が教育とみなされる。
  4. 会社が業務関連の購読費・参加費等を払う。
  5. 検閲・派閥などがない。
  6. 社員が経営部のアイディアに反対できる。
  7. フォーカスグループのような集まりが奨励される。
  8. ブレインストーミングが一般的である。
  9. OJTが使われている。
  10. 適切な場面で研修が奨励される。
  11. 上司も部下が学習している内容を学習する。
  12. コーチングが一般的である。
  13. 学習はイベントではなくプロセスである。
  14. 360度の調査(上司部下同僚を含むすべての関係者からの聴取)が行なわれる。
  15. 能力の評価が恐れられず、社員の学習や成長に関連づけられている。
  16. 部局をこえたチームワークが一般的である。
  17. タスクフォースが様々な地位・場所・部局の社員からなる。
  18. すべての社員が会社の概要をプレゼンテーションできる。
  19. 社員が仕事を拡大し、顧客や取引業者の業務について学ぶことが奨励される。
  20. キャリアパスが部局・事業単位・地理の枠を越えて開かれている。
  21. 社員がお互いに話し合い問題を解決することが奨励されている。
  22. すべての部局・レベルで会社が学習ガイドを発行している。
  23. 会社が図書館やインターネット設備を備えている。
  24. job shadowing(上司の影となり終日同行・観察すること)が奨励される。
  25. 飲食持ち込み可のセミナーが定期的に開催される。
  26. 重役が社員と話すために時間を割いている。
  27. すべての職位レベルでメンターのプログラムがある。
  28. 自分の専門に関して社外で活動することが奨励され報酬が出される。
  29. 社員が常によりよい実践を求めている。
  30. 社員がミーティングを楽しみにしている。

※ PlanSoft社(会議・イベント用ソリューション提案会社)のMike Kunkleが作成した15の指標に、Tobinが15項目を付け足したもの(Tobin,2000)の西渕・鈴木による訳出
※ 出典:鈴木克明(2015)『研修設計マニュアル―人材育成のためのインストラクショナルデザイン―』p.211, 北大路書房.

カテゴリー別に見る具体的な指標

PLE30の項目を、いくつかのカテゴリーに分けて見てみましょう。

失敗と、成長をガイドする評価

例えば、以下の項目では、失敗を責めるべきものではなく「ポジティブな学習の機会」と捉えます。
評価も、将来の成長をガイドするためのものとして活用することで、効果的に機能し、学びの促進につながります。

  • 失敗が教育とみなされる。(項目3)
  • 360度の調査(上司部下同僚を含むすべての関係者からの聴取)が行なわれる。(項目14)
  • 能力の評価が恐れられず、社員の学習や成長に関連づけられている。(項目15)

上司の伴走と、学びを支えるプロセス

以下の項目では、学習を単発の「イベント」で終わらせず、上司が共に学び、コーチングやメンタリングを通じて日常の「プロセス」として定着させることを示しています。

  • 上司も部下が学習している内容を学習する。(項目11)
  • コーチングが一般的である。(項目12)
  • 学習はイベントではなくプロセス(短期的なものではなく継続的なプロセス)である。(項目13)

知識共有とリソースの提供

以下の項目では、知識や学びにアクセスしやすい環境が示されています。例えば、業務に必要な書籍や学び、インターネットやAIが使える状況があり、社内セミナーなど、学びたいときに必要な情報や道具にアクセスできる環境です。

  • 会社が業務関連の購読費・参加費等を払う。 (項目4)
  • 会社が図書館やインターネット設備を備えている。 (項目23)
  • 飲食持ち込み可のセミナーが定期的に開催される(項目25)
  • 自分の専門に関して社外で活動することが奨励され報酬がだされる(項目28)

組織を超えた横のつながり

以下の項目は、人のつながりの観点から学びの促進の要素を示しています。自部署の殻に閉じこもらず、他部署や多様な立場の社員と協力し、共に問題を解決していくような文化です。

  • 検閲・派閥などがない。(項目5)
  • フォーカスグループのような集まりが奨励される。(項目7)
  • 部局をこえたチームワークが一般的である。(項目16)
  • タスクフォースが様々な地位・場所・部局の社員からなる。(項目17)

社員で学んでいる様子

 

IDの「5つの視点」で捉える学習環境

インストラクショナルデザイン(ID)では、教育を設計する際の5つの視点が重視され、その中には「学習環境」の視点も含まれています。

  • 出口(学習目標):学習者が、何ができるようになったら研修は成功したといえるのか?その評価方法は妥当か?
  • 入口(学習者の現状):学習者はどんな特徴があり、学びのデザインはその特徴に沿ったものになっているか?
  • 学びの構造:入口から出口に到達する間に何(要素、順番)があるのか?
  • 学習方略:どのように学ばせれば、できるようになるのか?
  • 学習環境:適切なメディアが選択され学習のサポート体制がとられているか?

ID5つの視点
教育設計を考えるとき、つい①から④に注力してしまいがちですが、⑤の「学習環境」は、①から④すべてを包み込む土台です。
どれほど精巧に設計された教育プログラムも、それを支える環境という土台がぐらついていれば崩れてしまいます。

土台が整っていれば、たとえ研修でうまくいかない部分があっても、現場での実践を通じて補完され、成果につなげていくことができます。

「自分が教えられたようにしか教えられない」連鎖を断つ

「失敗が許されない」「先輩や上司の背中を見て盗め」といった環境で育った指導者は、無意識に同じ方法を部下に強いてしまいがちです。しかし、PLE30という客観的な指標を使うことで、その負の連鎖を断ち切ることができます。

そのためにはまず、PLE30を眺めてみて「明日からできそうな一歩」を見つけて実行することが大切です。

たとえば:

  • ミーティングの最後に「今日の学び」を共有する(PLEの項目:13, 30)
  • 失敗事例をナレッジ化して共有する(PLEの項目:3)
  • 上司が自分の最近の学びを共有する(PLEの項目:11)
  • 書籍購入の申請プロセスを簡略化する(PLEの項目:4)

こうした小さな実践が、やがて組織文化を変え、人が自然に学び・成長する環境をつくっていきます。

職場環境を「成果が出る学び場」へアップデートしませんか?

研修(10%)の効果を10倍にも100倍にも引き上げるのは、現場の環境(90%)です 。
しかし、日々の業務に追われる中で、自組織の「環境」を客観的に分析し、変えていくのは容易ではありません。

リープ株式会社は、インストラクショナルデザイン(ID)に基づき、貴社の「肯定的学習環境(PLE)」の診断や、現場に根付く育成スキームの構築までをトータルでサポートします。

「研修をやりっぱなしにしたくない」「現場の自走力を高めたい」とお考えの教育担当者・マネージャーの皆様。
まずは貴社の職場の「PLE」を一緒に可視化することから始めませんか?

具体的な事例もご紹介も可能です。ぜひお気軽にご相談ください。

執筆者プロフィール

荒木 恵 リープ株式会社 取締役・インストラクショナルデザイナー 
ラーニングデザイナー(eLC認定 e-Learning Professional)、e-Learning マネージャー(eLC認定 e-Learning Professional)、e-Learning エキスパート (eLC認定 e-Learning Professional)、CompTIA CTT+ Classroom Trainer、認定アクションラーニングコーチ、日本評価学会認定評価士、修士(教授システム学)、RCiS連携研究員
著書に「インストラクショナルデザイン 成果から逆算する“評価中心”の研修設計」がある
趣味は温泉・秘湯・マッサージ巡り。(どこかおススメがあれば”こっそり”教えてください!)
教育に関わるデータの活用方法から、データに基づいた教育プランの設計まで、皆さんのお悩みをサポートしますので、お気軽にメッセージください。

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