典型的「積み上げ思考」タイプの私が、どうやって「逆算思考」を身に付けたか

インストラクショナルデザイン, コーチング, パフォーマンス評価・設計, 人材育成


ざっくりのあらすじ
1. ゴールを見失う新人の悩み……業務において、特に新人や若手は業務の全体像を把握しにくく「タスクをただこなす」ことに重点を置きがちになってしまう
2. 業務のゴールや目的からブレイクダウンして考える思考性を身に付けるには?筆者が実際に経験した2つのポイントを紹介
3. インストラクショナルデザインのモデル「メーガーの3つの質問」が逆算思考化に最適!


業務を遂行する上で、ゴールを明確に捉えて、そこからブレイクダウンしながらタスクに取り組んでいく……これは理想的なアプローチですが、つい目の前のタスクに追われてゴールを見失ったり、手段が目的になってしまったりすることがありますよね。

特に新人や若手の方は、業務の全体像を把握しにくく、「タスクをこなすこと」が目的になりがちです。こうした思考性はゴールから考える逆算思考に対して、積み上げ思考などと呼ばれたりしますが、かくいう私自身が典型的な積み上げ思考タイプでした。目の前のタスクを「とりあえず終わらせる」ことにとらわれて、例えば作った資料などに対して上司から「今回の目的からずれている」とフィードバックを受けたことも数えきれません……。
そんなこんなで、最初は目の前の業務に追われ、ゴールを見失ってしまうことが多かった私ですが、しかしながらだんだんと「ゴールから考える」という視点が身についてきました。
思考のクセを変えるのは簡単ではありませんが、なぜ私は思考の仕方を変えることができたのか、自分なりに振り返って気づいたポイントをご紹介したいと思います。

筆者を「逆算思考」へ導いた2つのポイント

1.常に“出口“から考える「インストラクショナルデザイン」
まず、私の逆算思考化に大きく寄与したもの、それはインストラクショナルデザインです。
インストラクショナルデザイン(以下、ID)は、教育を中心とした学習活動の効果・効率・魅力を高めることを目指したシステム的なアプローチに関する方法論の総称ですが、学習者に「何をできるようにさせるのか」という学習のゴールからすべてが始まります。
IDを学んだおかげで、かなり「ゴールから」思考が身についたように思います。
【 ご参考 】インストラクショナルデザインをガチで学んでみた~社会人大学院で学ぶID~

2.“あるべき姿”を軸とした「コーチング」での振り返り
もう一つ私に大きな影響を与えたのは、上司の指導スタイルではないかと考えています。
上司は、私が作成した資料を報告した際や、お客様とのミーティングが終わった際には必ず「問いかける」スタイルでフィードバックをしてくれました。

・ 今日のゴールは何だったっけ?
・ この資料の目的は何かな?
・ その目的は達成できた?
・ ゴールに対して今回の方法は良かったと思う?

日々の上司との振り返りでは常に「ゴールは何か?」「そのゴールを達成できたか/できそうか?」「このやり方が本当に適切か/適切だったか?」といった観点が含まれています。
こうした問いを繰り返されるうちに、いつからか上司から問われる前に「ゴールは何か?」「ゴールを達成できそうか?」「このやり方が本当に適切か?」と考えられるようになりました。
【 ご参考 】部下のスキルとパフォーマンス向上を促進!GROWモデル

IDの考え方と上司のコーチングスタイルの指導によって、手段にとらわれたりタスクを積み上げで考えたりするのではなく、なぜそのタスクが必要なのか、何を達成したいのかといった大局的、逆算的な視点を持つことができるようになったのだと思います。

そんな私の思考の変化の経験から、「どうしても積み上げ式に考えてしまう……!」「部下を見ていると手段が目的化してしまっていることが多い」そんなご自身/部下に対するお悩みのお持ちの方向けに、逆算思考を身に付けるのに役立つアイディアを一つご紹介したいと思います。

戦略思考を超シンプルにチェックする「メーガーの3つの質問」

積み上げ思考や手段の目的化にお悩みの方には、「メーガーの3つの質問」がおすすめです。

「メーガーの3つの質問」とは、米国の教育工学研究者のロバート・メーガー(Robert F. Mager)によって提唱された、教育設計が明確かつ要件を満たしているかを確認するための、次の3つの質問のことです。

1. Where am I going? (どこへ行くのか?)
2. How do I know when I get there? (たどりついたかどうかをどうやって知るのか?)
3. How do I get there? (どうやってそこへ行くのか?)

1つ目の質問は、「どこへ行くのか?」で、「研修や指導の目標・ゴールを正しく示しているか」を確認するものです。2つ目は、「たどりついたかどうかをどうやって知るのか?」で、「目標・ゴール達成をどうやって評価するのか(適切な評価方法)を示し、実行しているか」を確認する質問です。そして、3つ目は、「どうやってそこに行くのか?」で、「目標・ゴールを達成するための適切な研修や指導の方法を考え、設計しているか」を確認する質問となっています。
【 ご参考 】
・教育設計の本質を突く!メーガーの3つの質問
・「メーガーの3つの質問」で人材育成戦略を考える

この「3つの質問」はシンプルで当たり前ともいえる問いですが、「戦略思考」を非常に端的に示したものとも言えます。
教育設計の文脈で提唱されたものではありますが、「目標・ゴール」「評価」「方法」の3点を確認する問いは、ビジネスの文脈に置き換えても重要であることは言わずもがなではないでしょうか。つまり、この3つの質問は業務の戦略立案や振り返りにも大いに活用できます!

メーガーの3つの質問さえ覚えておけば、業務に行き詰った時の思考の整理、行動・行為や成果物に対する振り返りのポイントとして、部下とのコーチングのアジェンダとして、などなど、様々な場面でお役に立つと思います。

「メーガーの3つの質問」は、思考のフレームワークとしてもコーチングの“あんちょこ”としても使える!

今回は、業務においてゴール志向の思考を身につけるための1つのアイディアとして「メーガーの3つの質問」をご紹介しました。
もし、ご自身や部下が「どうしても積み上げ式に考えてしまう……!」と感じていらっしゃるようでしたら、ぜひ「メーガーの3つの質問」を取り入れてみてください。
とてもシンプルでありながら戦略的な思考を促す本当に優れたツールであり、「どこへ行くのか?」「たどりついたかどうかをどうやって知るのか?」「どうやってそこへ行くのか?」という質問で、業務における目標やその道筋を明確にすることができると思います!

 

執筆者プロフィール

月足 由香 リープ株式会社 アシスタントマネージャー・インストラクショナルデザイナー

ラーニングデザイナー(eLC認定 e-Learning Professional)、コンテンツクリエイター(eLC認定 e-Learning Professional)、
SCORM技術者(eLC認定 e-Learning Professional)、CompTIA CTT+ Classroom Trainer、CompTIA Project+、修士(教授システム学)
社内では月ちゃんと呼ばれています。みなさまにもお気軽にお声がけいただけたら嬉しいです!

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