指示や命令でマインドを変えるのは不可能!? 実現可能なアプローチとは?
「こういうふうにやって」と教えても、なかなかその通りにやってくれない、やり方は教えたのに……。
部下や後輩を指導されたことがあれば、一度はこんな経験があるのではないでしょうか。
部下に対して何らかの行動変容を求める際、言葉だけですぐに部下が動いてくれればそれに越したことはありませんが、実際にはなかなか行動が変わらないことも多いのではないかと思います。
“やるべきことを実際に行動に移すか否か” は、インストラクショナルデザイン(以下、ID)において「態度」と呼ばれる領域に該当します。
IDでは求める学習成果をその質によって分類しますが、その分類の代表的なモデルである『ガニェの学習成果の5分類』では、学習成果を知識、スキル、マインドの3つに大きく分類し、知識についてはさらに3種類に細分化しています。その中のマインドに関する学習成果を「態度」と呼び、“ある物事や状況を選ぼうとする、もしくは避けようとする気持ち(行動を選択するマインドの有無)” を指します。
やるべきだとわかっているはずなのに、いくら言っても行動が変わらない場合、この態度の部分に課題があるといえるでしょう。
一方で、態度はこの5つの分類の中でもっともアプローチが難しく、知識や技能の学習とは異なり指示や命令など説得的コミュニケーションのみで成果の獲得や行動変容につなげることは不可能であると言われています。つまり、態度にまつわる行動を求める場合、「○○をやって」と言うだけでは絶対に行動は変わらないということです。
「ある物事や状況を選ぼう/避けようとする気持ち」=態度へのアプローチ方法とは?
言っても変わらないならどうすれば!?と思われるかもしれません。
ここで少し見方を変えてみましょう。やらない理由がマインドではなく「知識」や「スキル」の問題であれば、アプローチしやすいということになります。
態度は、知的技能・言語情報・運動技能が複合された行動であるといえます。つまり、すべてがマインドの問題ではなく、知識やスキルの問題も含んでいる場合があります。そのためにまず、「やらない」の段階を整理して考えてみましょう。
👑GOAL:やるべきだと知っていて実際にやっている
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STEP 2:やるべきだと知っていて必要な知識・技能は習得済みでありやろうと思えばできるが、やらない(マインドの問題)
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STEP 1:やるべきだと知っているが必要な知識・技能が足りず、できない(知識・スキルの問題)
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STEP 0:やるべきだということをそもそも知らない(知識の問題)
表面上は「面倒だ」「不安がある」「やる気がない」からやらないのだなどと気持ちの問題に見えても、その裏側で知識・スキルの不足が原因として大きく起因していることも意外と多いです。とくに新人や若手の場合、STEP 1や、場合によってはSTEP 0でつまずいていて、「教えたつもりだったのに実は全然わかっていなかった」ということも十分ありえます。
「マインドを変えなきゃ」と思う前にまずは「そもそも必要な知識・スキルが身についているのか」を確認してみましょう!
STEP 0~2ごとの対応方法や介入策は?
例えば、営業活動や商談の場面において、顧客により良い提案をするために “質問をして顧客の情報を引き出す” という行動・行為を学習者に求めるとした場合のSTEP 0~2の対応方法をそれぞれ見てみましょう。
求める行動の例: 営業活動や商談において、“質問をして顧客の情報を引き出す” |
◆STEP 0でつまずいている場合、下記を確認する
◇知識面
顧客の問題を引き出す商談プロセスを知っているか
商談において、なぜ顧客への質問が重要か知っているか
◆STEP 1でつまずいている場合、下記を確認する
◇知識面
質問技法の種類(SPIN:状況質問、問題質問、示唆質問、解決質問)を知っているか
◇スキル面
顧客の困りごとの仮説を立てることができるか
顧客の状況を確認する質問ができるか
顧客の困りごとを確認する質問ができるか
知識面については、「商談プロセスについて答えてみて」とたずねるだけである程度の理解度を測ることができますし、スキル面についても社内ロールプレイや営業同行時などに観察可能です。
◆STEP 2への介入策
先述した通り、マインドを直接変える方法というのはありません。
間接的な方法としては、人間モデリングやコミュニティにおける価値体系の学習が研究されています。
◇人間モデリング
求めるふるまいを実践できている人物(歴史上の人物や漫画や小説の登場人物など、実在の人物でなくても可)を想起させたり、模倣させたりすることで、あるべき振る舞いを理解させる
出典:小笠原 豊道(2017)「インストラクショナルデザインによる企業での学習支援」,『支援対話研究』4巻, p.79-80.
◇コミュニティにおける価値体系の学習
たとえば学習の一場面として「徒弟制」というコミュニティを考えるとき、弟子入りした新入りがはじめは雑用しかさせてもらえないのは、「掃除のスキルを学習させるため」ではなく「師匠から奥義を伝授されるまでには長い道のりがあり、その初歩の仕事として掃除がある」という学習の文脈を理解するため、つまり価値体系を学ぶためである。この価値体系を学ぶプロセスが、態度の学習であるといえる。
出典: 向後千春(2012)「インストラクショナルデザイン― 教えることの科学と技術 ―」
方法がないわけではないことは伝わるかと思うのですが……難しいですね。
STEP 0~1に対するアプローチのように、日常の指導内容の延長では済まないハードルの高さや複雑さがあります。
気持ちの問題に見えても、その裏の“知識”や“スキル”にアプローチする
ここまでお示ししてきたとおり、マインドに直接的にアプローチするのは非常に難易度が高く労力を要します。
部下がやるべきことをしていない場合、一見気持ちの問題に見えても、実は知識やスキルの不足でつまずいていて、それさえ身に付けられればSTEP 2で停滞することなく実践に移せることも多くあります。
組織として知識やスキルが身に付けば、求める行動(例えば、顧客の課題を引き出す質問ができる)を実践できる人材も増え、それが結果的に態度に介入する人間モデリングや価値体系の学習環境の構築につながっていくのではないでしょうか。
部下がなかなか行動に移せない場面に遭遇した場合、まずは先述のSTEP 0~2のどこでつまずいているのかを確認し、できる限りマインドではなく知識やスキルにアプローチして行動変容を促すようにしていきましょう!
参考:“マインド”を変えるための5つのステップ
なお、リープでは難易度の高いSTEP 2に対するアプローチ(もちろん、STEP 0~1についても!)に関するご相談も承っております。ロールモデルの創出や価値体系の学習につながる組織、学習環境づくりについてもご提案させていただきますので、気になる方はぜひお問い合わせくださいませ。