IDを使ってブラッシュアップ!熱い想いがあふれる人材育成プラン
1年を振り返るのはまだ早いかもしれませんが、リープの2023年は大きな飛躍につながった1年でした。とくに行動制限が解かれて以降、展示会で名刺を交換させていただく機会も増え、セミナーやウェビナーも大勢の方にご参加いただくことができました。コロナ禍を経て、労働環境や求められるスキルが大きく変化し、人材育成において新たなお悩みが浮かび上がってくる中で、最近はお問い合わせや新規契約の対応に追われております。
もちろん嬉しいことばかりではなく、それだけ多くの課題にも直面します。
担当タスクの分配、スケジューリング、双方にメリットのあるサービス設計、プラン導入後の対応、予測不能なトラブルの解決など。これら、1つ1つの課題に対して、逃げずに向き合うことが、成功にたどり着くための唯一の方法だと確信しています。こうした日々の積み重ねが、人材育成や教育研修プロジェクトをお客様と一緒に取り組ませていただけている理由なのではないかと思っております。
政治や政策に目を向けると、EBPM 根拠に基づく政策決定、もちろん医療の分野であれば、EBM 根拠にもとづく医療提供などなど、イマドキの日本では、さまざまな意思決定にしっかりしたデータや根拠に基づいた判断や戦略が求められてきています。
この流れは人材育成においても同様ではないでしょうか。リスキリングや人的資本経営など、どの分野でも同様であることは、皆さんも感じられていることかと思います。
そこで今回は、人材育成や研修プロジェクトを効果的に実施するために、絶対に押さえておきたい「アタリマエ」をご紹介します。特にインストラクショナルデザインを取り入れて人材育成や教育研修を実施している皆さんは同じことを感じていらっしゃると思いますので、改めてチェックしてみてはいかがでしょうか。
勘と経験と度胸(K K D)からの脱却
しかし、その戦略が、研修や学習カリキュラムだけでなく現場での上司から部下への指導に至るその人材育成の細部にまで、一気通貫して設計・実践されているか、妥協なく考え抜かれているかというと、なかなか難しい側面もあるのではないでしょうか。
人材育成には、それを実践する人の思いという“感情的な側面”が色濃く反映されることがあり、目指すべき方向性や実践する指導法にバラツキが出たり、人によって異なった解釈で推進されてしまうこともあります。
このような戦略を欠いた人材育成の事例が多いことから、「人材育成が “K K D(勘と経験と度胸)” になっている」と言われたりもしています。勘や経験を蔑ろにしていいわけではありませんが、経験を活かせるのは本人だけですし、勘は経験が頼りになりますので、経験のない事例はうまく対処できません。
人材育成戦略を捉えるにあたっては事業戦略やマーケティング戦略と同様に、データや科学的な根拠に基づく設計がなされ、その実践について入念に考え抜かれていることが望ましいでしょう。
人材育成戦略の最重要要素「出口」を考える
人材育成の学術分野、教育工学の中核的な概念に“インストラクショナルデザイン(ID)”があります。そのIDにおいて、最初のステップであり、なおかつ最も重要な要素は、「学ぶべき(教える)ゴールを設定すること」、つまり、「『人材育成戦略の出口』を考えること」であると位置付けられています。
IDの第一人者で武蔵野大学/熊本大学の鈴木克明教授によると、人材育成・研修においては目標を掲げることよりも「テストを行うなどの行動に落とし込むこと」と「身につけるべきスキルの言語化」が重要とのこと。目標(=漠然とした言葉)は、人によって解釈が異なり、「△△△が理解できる」「〇〇が分かる」と示しても、到達度を測りにくいという側面があるからです。
ですから学習目標を定めることよりも、スキルの到達度を測ること、すなわち「出口でここまで出来たら合格」と言える明確な評価・テストが必要となるのです。
また、『人材育成戦略の出口』を明確にするのになぜ「言語化」が重要なのかというと、スキルがある人とない人の違い、良い時だけでなく失敗パターンにおいても、具体的な場面や行動を言語化し整理しておけば、研修後のフォローがよりスムーズになるからです。
そもそも研修を受けるレベルに達していない人、逆に研修が不要なほど高いスキルを持っている人もいるので、受講の対象者も精査も必要です。対象や出口(ゴール)を明確にしながら研修の設計を進めることがポイントです。
詳しくは、鈴木教授と弊社・荒木の対談動画をご覧ください(収録:2020年)。
参考コラム:肝はゴール設定にあり!?「学習目標の立て方」
細部を意識する ~神は細部に宿る~
建築家のミース・ファン・デル・ローエとも、美術家のヴァールブルクとも言われているデザインにおける名言に「神は細部に宿る」という言葉があります。
その意味は様々な解釈に分かれるところですが、一般的に“微細な点まで疎かにせずにこだわり抜くことで、全体としてすぐれた出来栄えとなる”という意味で用いられています。
私たちが成果物を仕上げる際にも、教訓として常に意識している考え方です。全体や総論のみならず、データの一つ一つ、資料のフォントや余白のバランス、ともすれば自分たちの振る舞いの指先の動きにまで、意味と意図を持って取り組むことを忘れないようにしています。
そしてこの名言が、建築や芸術のみならず“戦略”をデザインする上でも当てはまるのは、言うまでもありません。
0→1でプロジェクトを立ち上げる時、エビデンスを重んじた戦略が立てられること、遂行するためのロードマップが精緻に描けること、そして細かく確認を入れながら軌道修正をしていくことが肝要です。細部にまで目を向け、気を配ることができる人が多ければ多いほど、プロジェクトの成功確率は高くなります。
まとめ
研修は、教える側と学ぶ側やキャリアによっても捉え方やモチベーションが変わってきます。どれだけ丁寧に学習目標を共有しても、教える側が「できている」と判断するレベルと、学ぶ側が「できている」と感じるレベルに隔たりが生まれるのは至極当たり前のことなのかもしれません。
ですから、学習目標に正確性を求めるよりも、一定のレベルに達しているかのテスト(評価の方法やツール)を作る方が重要です。また、ハイスコアの特徴を分析するだけでなく、「できていない人」「失敗するパターン」も掘り下げて言語化した方が、学ぶ側は改善するための突破口を見つけることができるでしょう。
研修は目標を設定することや実施すること自体が「出口(ゴール)」ではありません。新人やスキルの足りない人をいかに組織で活躍できるようにするか、むしろ研修後のケアに注力をすることが大切です。
細部まで行き届いた研修や育成を考えていらっしゃる皆さんは、是非インストラクショナルデザインを活用してみてください。
執筆者プロフィール
荒木 恵 リープ株式会社 取締役・インストラクショナルデザイナー
ラーニングデザイナー (eLC認定 e-Learning Professional)、e-Learning マネージャー(eLC認定 e-Learning Professional)、e-Learning エキスパート (eLC認定 e-Learning Professional)、CompTIA CTT+ Classroom Trainer、認定アクションラーニングコーチ、日本評価学会認定評価士、修士(教授システム学)、RCiS連携研究員
趣味は温泉・秘湯・マッサージ巡り。(どこかおススメがあれば”こっそり”教えてください!)
教育に関わるデータの活用方法から、データに基づいた教育プランの設計まで、皆さんのお悩みをサポートしますので、お気軽にメッセージください。