研修をいくら積み重ねても、なぜ成果につながらないのか?
― 戦略・研修・現場の乖離を解消する人材育成の考え方 ―

HPI, インストラクショナルデザイン, ギャップ分析, パフォーマンス評価・設計, 人材育成, 学習支援, 教育設計

ざっくりのあらすじ
1.「研修を増やしても成果が出ない」問題の本質は、研修量ではなく、戦略・研修・現場の乖離にある
2. HPIの視点では、パフォーマンスのギャップは必ずしも「知識・スキル不足」が原因ではなく、マネジメントや環境・ツール側の問題である場合も多い

3. 人材育成の最初の一歩は、ビジネスゴールから逆算した「行動の言語化」である
4. 成果につながる人材育成には、現状のギャップを可視化し、育成施策の優先順位をデータで明確にすることが不可欠である

現代の急速な時代の変化に伴い、ビジネス活動で求められるスキルが大きく変化しています。
時代の変化に対応するためには、社員の育成システムそのものを見直す必要があります。

しかし、「あれもした方がいい」「これも必要」と多くの研修プログラムの提供をしているにも関わらず、実際の業務で効果が上がらないというという声も多く伺います。そこで本コラムでは、積み上げ式研修から抜け出し、成果につながる人材育成の6つの要素をご紹介します。

積み上げ式研修から抜け出せない、その構造的な理由

積み上げ式でたくさんの研修を提供しているのに成果が出ない…この問題の本質は、研修の量や質ではありません。
戦略・研修・現場の三つが連動していないことにあります。

戦略・研修・現場の乖離が起こるのは、ビジネスゴールと研修設計をつなぐ仕組みが整っていないことが、根本的な原因です。企業の目指す事業目標を達成するためには、この課題を解決し、教育設計と事業戦略が緊密に連携させていくことが不可欠です。

「スキル不足」の解決だけで、企業の課題は解決できるのか?

成果につながる人材育成の6つの要素をご紹介する前に、ぜひ知っておいていただきたい理論があります。
それは、HPI(Human Performance Improvement)インストラクショナルデザイン(ID)です。

HPIとID

例えば「成果が出ない営業担当者」がいる場合、多くの企業ではその原因を「本人のスキルが足りないから」と結論づけてしまうことが少なくないと考えられます。しかし、HPIでは、パフォーマンスの問題を「個人のスキルや知識の問題」に帰着させる前に、組織・環境・プロセスの側面から原因を多角的に分析することを求めます。

HPI理論に基づく生産性向上プロセス

たとえば、「顧客のニーズを的確に引き出せていない」という問題があったとします。その原因として考えられるのは、以下のようなことが考えられます。

  • スキル・知識の問題:ヒアリングの技術が身についていない
  • 環境・ツールの問題:商談時間が短く、情報を引き出す余裕がない。あるいは、顧客情報を整理するためのツールが不足している
  • マネジメントの問題:マネジャーが「量をこなせ」という行動指針しか与えておらず、「質の高い対話」を評価する仕組みがない
  • 動機づけの問題:顧客ニーズを引き出す行動が、評価や報酬と結びついていない

これらのうち、研修で解決できるのは「スキル・知識の問題」のみです。この課題を解決する方法として、IDを取り入れることで、学習プログラムはより具体的で効果的な物となります。残りの問題は環境やツールの整備、マネジメント方法や評価制度の改革などによってしか解決できません。

それにもかかわらず、短絡的に「スキル研修をすれば解決する」という前提で施策が設計されると、研修はいくら実施しても問題が残り続けることになります。これが「研修をいくら積み重ねても成果が変わらない」という状況のもう一つの原因だと言えるでしょう。

成果につながる人材育成に必要な6つの要素

現場の実態とビジネス目標に即し、成果につなげるための人材育成を実現するためには、単に研修の量や内容を増やすだけではなく、実際の業務成果に結びつく”システム”として人材育成を捉える必要があります。
HPIとIDの観点から、「成果が出る人材育成システム」を構築するために必要な6つの要素を整理すると、以下のようになります。

成果につながる人材育成の6つの要素

要素1:組織が目指すビジネスゴールからパフォーマンスゴールを定める

最初に問うべきは「どんな研修をするか」ではなく「何を達成したいのか」です。
売上目標、顧客満足度、新規開拓件数など、企業として目指す具体的なゴールを起点に、そこから逆算して「どんな行動が現場で必要か」というパフォーマンスゴールを明確にします。

要素2:社員に求める成果と行動の現状分析、そしてギャップの明確化

パフォーマンスゴールが明確になれば、次は「現在の担当者はどのレベルにいるか」を評価します。
理想の姿と現状の差分(ギャップ)を可視化することで、育成施策の優先順位が見えてきます。

要素3:ギャップの原因分析と教育以外の施策の検討

前述のHPIの観点から、ギャップの原因が「スキル・知識」なのか、それとも「環境・マネジメント・動機づけ」なのかを丁寧に分析します。
研修で解決できる部分と、それ以外のアプローチが必要な部分を切り分けることが、施策の無駄を省く鍵です。

要素4:教育で解決するスコープの特定と研修設計

「研修で解決できる」と特定した範囲に絞って、研修を設計します。スコープを広げすぎると学びが分散し、現場での活用が難しくなります。
「短時間で顧客の課題を引き出すスキル」「デジタルチャネルを活用した提案手法」など、具体的で現場に直結するスキルに焦点を当てることが重要です。ロールプレイやケーススタディなど、実践に近い学習方法を取り入れると、学びの転移が促進されます。

要素5:研修プログラムの実施と学習支援の提供

研修は「実施して終わり」ではありません。
学んだことを現場で試し、フィードバックを受けて改善するサイクルを回すための支援体制が、学びの定着に不可欠です。
マネジャーが研修内容を理解した上で、日常のコーチングの中で強化していく仕組みがあると、学びの効果は格段に高まります。

要素6:研修ゴールの到達度評価と職場での行動変容の検証

最終的には、「何を学んだか」ではなく「何ができるようになって」「行動が変わったか」「成果につながったか」を検証します。
カークパトリックの4段階評価モデルに代表されるように、研修の効果測定は「受講者満足度(レベル1)」で終わらせず、「職場での行動変容(レベル3)」「業績への影響(レベル4)」まで追跡することが、教育投資の価値を証明し、次の施策改善につなげる礎になります。

(参考)カークパトリックの4段階評価モデルについては以下をご覧ください。
研修はテストとアンケートの両方でしっかり効果測定しよう!

事例:E社(システム開発・コンサルティング業)における営業変革

上記で紹介した6つの要素が実際の現場でどう機能するか、リープがご支援したE社の事例をもとにご紹介します。
case study

E社の背景と課題

E社は2030年に向けた新規事業拡大を計画しており、特にDX関連ソリューションの提供を新たな事業領域として検討していました。
しかし、従来の「御用聞き営業」スタイルのままでは限界があり、「課題解決型営業」への転換が急務でした。コンサルティング型営業ができる人材は両手で足りる程度しか存在せず、新規事業領域の案件は一部の社員に集中している状態でした。

ハイパフォーマー分析とギャップの可視化(要素1・2)

まず、新規事業領域で成果を上げているハイパフォーマーを徹底分析しました。
商談の観察とインタビューを通じて他の担当者との違いを解析し、「課題解決型の商談ができているか」を定量的に測定できる商談スキル評価指標(ルーブリック)を開発。全営業担当者のスキルレベルの分布を可視化し、目指すべきレベルと現状のギャップを明確にしました。

原因分析と介入策の設計(要素3・4)

ギャップの原因はスキル不足だけではありませんでした。
「上司が部下を育成する文化がなく、マネジャーが部下育成に関わっていない」というマネジメント側の課題も浮き彫りになりました。
そこで研修設計のスコープを「実際の商材・事業領域を使ったコンサルティング型商談スキル」に絞り、架空の事例ではなくリアルなビジネス場面での実践トレーニングを設計しました。

マネジャーを巻き込んだ学習支援(要素5)

研修にはマネジャーも参加し、研修後も部下と共に実際の商談を振り返るセッションを継続実施しました。
経験学習モデルに基づく継続的な改善サイクルを回すことで、それまで存在しなかった「マネジャーが部下を育てる文化」を組織に根づかせていきました。

成果の検証(要素6)

受講者の満足度にとどまらず、商談スキルの行動変容と業績への影響をデータで追跡した結果、E社は初年度売上30%増加、その後も年間20%の継続的な成長を実現しました。

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E社の成功ポイント

E社が劇的な成果を上げた最大の要因は「ビジネスゴールから逆算した行動の言語化」を徹底した点にあると言えます。

多くの現場では、「顧客ニーズを捉えた提案力の強化」といった抽象的な目標が掲げられます。
しかし、これでは人によって解釈が分かれ、現場で何をすべきか迷いが生じます。

E社ではこれを、「顧客が認識している困り事を引き出し、その解決につながる製品・サービスの提案を行う」といった、誰が見てもイメージできるレベルまで具体化しました 。

この「行動の言語化」が曖昧なままだと、本社と現場で異なる解釈が生まれ、研修内容と現場指導がズレていくという典型的な「戦略・研修・現場の乖離」が起きます。
行動レベルまで言語化されれば、研修も、マネジャーのコーチングも、評価指標も、すべてが同じ方向を向くようになります。

まとめ

「戦略・研修・現場の乖離」を解消し、一つにつなぐためには、まず「現状を正確に把握すること」が不可欠です。

✓ビジネスゴールは明確になっているか?
✓現場の担当者は本社の戦略をどこまで理解しているか?
✓求められる行動とのギャップはどこにあり、その原因はスキルなのか環境・マネジメントなのか?

——こうした問いに根拠を持って答えられる組織は、残念ながら多くありません。
しかし、この「現在地」が見えないままでは、どんなに立派な研修を積み上げても、成果への道筋を描くことは困難です。

リープは、独自のパフォーマンス評価サービスや戦略理解度調査を通じて、組織の現在地を可視化し、戦略的な人材育成システムの構築するご支援を行っています。教育を一過性のイベントで終わらせるのではなく、事業目標を達成するための強力な「システム」へと進化させたいとお考えであれば、ぜひ一度お気軽にご相談ください 。

監修者プロフィール

荒木 恵 リープ株式会社 取締役・インストラクショナルデザイナー 
ラーニングデザイナー(eLC認定 e-Learning Professional)、e-Learning マネージャー(eLC認定 e-Learning Professional)、e-Learning エキスパート (eLC認定 e-Learning Professional)、CompTIA CTT+ Classroom Trainer、認定アクションラーニングコーチ、日本評価学会認定評価士、修士(教授システム学)、RCiS連携研究員
著書に「インストラクショナルデザイン 成果から逆算する“評価中心”の研修設計」がある
趣味は温泉・秘湯・マッサージ巡り。(どこかおススメがあれば”こっそり”教えてください!)
教育に関わるデータの活用方法から、データに基づいた教育プランの設計まで、皆さんのお悩みをサポートしますので、お気軽にメッセージください。

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