研修の効果測定「レベル2学習」と「レベル3行動」 赤壁の戦い
ざっくりのあらすじ
1.研修の効果測定「レベル3 行動」や、やりたくてもなかなか取り組めていない研修担当者は多い
2.「レベル3」がなぜ難しいかというと、受講者が現場に戻ってからの調査になるため、現場の協力が得られなかったり、研修部のリソース不足がある
3.研修企画段階でレベル3を捉えておくことが、研修で取り扱うべきテーマの解像度も上がり、レベル3の実行も後押しする
4.研修担当者が「レベル3 行動」を捉える最大の恩恵は研修の企画段階にある!「レベル2があってレベル3がある」という積み上げ式の思考に要注意!
研修の効果測定はどのようにされていますか?
「受講者アンケートはいつもとっています!」
「研修後のテストやロールプレイはいろいろ工夫してやっています!」
こんな声は良く聞こえてきます。
研修の後、現場に戻ってからの効果測定はいかがでしょうか?
「現場での行動変容を測りたいのはやまやまだけど、現場がなかなか協力してくれない…」
「そこまでのリソースが研修部になくて手が出せてない…」
あなたの組織ではいかがでしょうか?
研修担当者にとっては、やりたいけど、少し腰が引けがちな(!!)研修の効果測定「行動変容」について考えてみましょう!
研修の効果測定「レベル3行動」は、研修を実施する目的そのもの!
インストラクショナルデザインでは研修の効果測定を「カークパトリックの4段階評価モデル」に沿って捉えます。
上記の受講者アンケートは「レベル1反応」、テスト・ロールプレイは「レベル2学習」の効果測定方法です。
ここまでは研修中の効果測定ですが、レベル3以降は現場に戻ってからの効果測定になることから、実施する難易度が大きく上がります。
でも研修は何のために実施しているのか(Why)を考えると、研修の目的にあたるレベル3以降の効果測定を実施しないのは、かなり片手落ちな印象です。
「研修は組織の目標にどのような効果をもたらしたのか?(レベル4結果)」は市場環境や戦略などの要因があるため、効果検証が複雑になる分野になりますが、少なくとも研修担当者として「研修で目標としていた知識・スキルが身についたか?(レベル2学習)」「研修で習得した知識・スキルを現場に戻って業務に活かしたか?(レベル3行動)」については、企画段階から視野に入れておく必要があります。
<ご参考リンク>
カークパトリックの4段階評価モデル:研修はテストとアンケートの両方でしっかり効果測定しよう!
インストラクショナルデザインとは:教え方にはルールがある!?「インストラクショナルデザイン」
「行動変容」の効果検証を阻む壁
「そんなことは言われなくてもわかってるよ…やりたいけどできないんだよ…」
そんな心の声が聞こえてきそうです。
組織においてレベル3を阻む障壁には大きく2パターンあります。
その1.現場が協力してくれない
レベル3を実行するためには、営業部長、支店長、所長など現場に関わるステークホルダーの協力が必要になります。この前の研修だって稼働時間を削って参加させてやったのに、これ以上現場の稼働を邪魔するようなことはしないで欲しい…こんな空気を滲み出させているステークホルダーに対して「研修で学んだことを使っているかどうか、インタビューさせてもらえませんか?」と申し出るには、腰が引けてしまうのです。
その2.研修部にリソースがない
年間で決まっている研修のオペレーションをまわすことで精一杯で、現場に出向いて調査するリソースがない…こんな声もお聞きします。研修部門への人員配置の考え方は組織によって方針が異なる部分は大きいと思いますが、いずれにしても研修の中で完結できるレベル1-2とは異なり、レベル3は受講者が現場に戻ってからの行動を掴む必要があることから多くのリソースが必要になり、二の足を踏んでしまいます。
研修担当者が「レベル3 行動」を捉える最大の恩恵は研修の企画段階にある!
その1.「現場が協力してくれない」問題を考える
そもそも論に立ち返る話になりますが、現場はなぜ行動変容の検証に協力してくれないのでしょうか?
現場で起きている困り事を解決するための研修であれば、研修で学んだ事を現場で実行しているかは、ステークホルダーである営業部長、支店長、所長などのマネジメントの皆さんにとっては大いなる関心事になるはずです。
その研修は現場の問題を解決する研修になっていますか?ステークホルダーである営業部長、支店長、所長とこの問題が解決する研修であるのか、事前にすり合わせができていますか?
その職場でおきている問題は、誰もがイメージできるくらい「解像度」が高くなっていますか?
「顧客ニーズがつかめない」のように、一般的で抽象的になっていませんでしょうか?
慣習的に行われている研修は要注意です。
「なくてもぶっちゃけ困らないけど、まぁ、あってもいいかな」程度の研修であれば、現場が後回しになるのはご想像通りです。
「これはめちゃ現場で困ってる!なんとかして解決したい!」と思ってもらい、「これを解決したら売上につながりそうだ…!」という期待感を感じてもらえていますか?
研修が終わってから現場に行こうとするから煙たがられるのであって、研修前にステークホルダーから現場ニーズをヒアリングしたり、課題感をすり合わせる機会をつくっておけば、研修自体に巻き込むこともできますし、レベル3で現場に行っても抵抗される…なんてことにはならないはずです。
加えてトレーニングゴールやワークで取り扱う事例の解像度も高めることができる、つまり研修自体の質を上げることができるのです。
「レベル3を捉えてからレベル2を設定する」という出口からのブレイクダウンで研修を企画しなくてはいけないのですが、ついつい「レベル2があってレベル3がある」という積み上げ式の思考になってはいないでしょうか。
その2.「研修部にリソースがない」問題を考える
レベル3を検証するためには「現場にインタビューにいかねば…」「同行して観察しなくては…」とレベル3を厳密にしようとして、結果的に全く手を付けられていない…ということになっていませんか。
もちろん受講者と同行して観察したり、インタビューをするに越したことはないのですが、上司である所長や受講者本人にアンケートを行って、現場で活用できているか、できていないのであれば何に困っているのかについて抽出する方法もあります。
もう少しリソースをかけられるのであれば、アンケートでスクリーニングをかけて、その結果から気になる人にオンラインインタビューを組み合わせることもできます。自己申告のアンケートではどの程度の確からしさがあるのか不安という方も多いかもしれませんが、レベル3のハードルを上げて全く何もしないよりは、現場へのリマインド効果が期待できるアンケートはあった方が良いでしょう。
そもそもレベル3はリープのような外部調査期間にアウトソースする方法もあります。「毎回の研修にそこまで費用をかけられない」という方も多いかもしれませんが、研修は本来、連続性があるものです。ということは、ある研修のレベル3の調査は、次に予定している研修前に行うべき「ニーズ分析」になります。研修設計のすべて起点になるニーズ分析としてデータを活用できることを考えると、コスパは結構良いはずです!(宣伝です)
こんな風に考えると障壁を乗り越えてレベル3にトライするだけの価値は絶対にあると思いませんか?
「行動変容」を効果検証の壁=「研修」と「現場」の間の赤壁
ここまで読んでいただいたあなたはもうお気づきの通り、レベル3は研修が終わってからでなく、研修企画段階で考える必要がありますし、企画する時にこそレベル3を考える価値が最もあります!
研修担当者が企画段階でレベル3を捉えて現場の解像度を上げて研修に臨むことは、現場と研修の間にある垣根をなくし、研修自体の解像度を上げることにダイレクトにつながるからです。
つまり研修担当者がレベル3を行う障壁を感じるということは、そもそも「研修」と「現場」の間に障壁がある可能性が高いのではないかと思います。
レベル3に踏み込んで、「研修」と「現場」の間の障壁を崩しにいきませんか?
執筆者プロフィール
荒木 恵 リープ株式会社 取締役・インストラクショナルデザイナー
ラーニングデザイナー (eLC認定 e-Learning Professional)、e-Learning マネージャー(eLC認定 e-Learning Professional)、e-Learning エキスパート (eLC認定 e-Learning Professional)、CompTIA CTT+ Classroom Trainer、認定アクションラーニングコーチ、日本評価学会認定評価士、修士(教授システム学)、RCiS連携研究員
趣味は温泉・秘湯・マッサージ巡り。(どこかおススメがあれば”こっそり”教えてください!)
教育に関わるデータの活用方法から、データに基づいた教育プランの設計まで、皆さんのお悩みをサポートしますので、お気軽にメッセージください。