『リスキリング』について考えてみませんか?

リスキリング, 人材育成, 学習支援

リスキリングに向き合う私たちの環境について

リスキリングとは、私たちが変化する社会に合わせ、これからの仕事に必要なスキルや知識を再習得することを指します。
これらが話題になる背景にはVUCAの時代と言われる先行きが予測しづらい時代となった事があり、全ての人にとって大事な取り組みなのです。

ではここで、改めて「リスキリング」を解説します。
技術習得という“skilling”に「再度」を意味する“Re”が付いているので「技術の再習得」を指します。

経済産業省では、リスキリング(Re-skilling)を以下のように意味づけし推進しています。

新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する/させること
出典:『リスキリングとは -DX時代の人材戦略と世界の潮流-2021年2月26日リクルートワークス研究所』

近年では、言うまでもなくITの技術進化や業務のDX化が進んでおり、それに適合するための新たなスキルの習得が求められています。さらに、そのようなITツールを使いこなすというスキルのみならず、そもそもの仕事の進め方やビジネスモデルの変化に伴う顧客からの期待値や生産性向上のためのタスクの変化、業務における作業や責任範囲なども、10年前とはガラリと変わってきており、新しいスキル習得の必要性を実感されているかと思います。

この数年で、その変化は加速していますが、その背景を挙げてみたいと思います。

1. コロナウイルスの影響
2. テクノロジーの発展
3. 教育制度の変化
4. リスキリングの投資
5. 多様性と包摂

1. コロナウイルスの影響
コロナウイルスのパンデミックが起こり、多くの企業においてサービスの提供プロセスを変更せざるを得なくなり、リスキリングの重要性が高まりました。
また雇用が不安定になる中、新天地を求める形で、新しいスキルを身につけて働く必要がありました。

2. テクノロジーの発展
テクノロジーの発展により、多くの職種が変化し、従業員に新しいスキルが必要になっています。例えば、人工知能や自動化の進歩により、サービスや製品の仕組みを作るようなクリエイティブな仕事であってもコンピューターサイエンスやデータ分析のスキルなどが求められるようになり、もちろん接客や営業に関わる仕事でも、ITや人工知能が業務プロセスに組み込まれるなど、その知識や操作が必須になってきています。

3. 教育研修制度の変化
教育研修制度も変化しており、リスキリングに取り組むためのオンライン教育やコースがますます普及しています。これらのオンライン教育プログラムなどが企業内でも提供されることで必要なスキルを自分のペースで学ぶことができるようになり、仕事をする上で自律的にまたは必須で学習を求められたりするなど、リスキリングのための支援が充実してきています。

4. リスキリングの投資
経営側も「人的資本」という意識が高まり、グローバル化・生産性向上に向けた人材育成の強化を掲げ、リスキリングに投資し、従業員に必要なスキルや知識を提供しています。これは、社員全体のスキルを向上させることで、ビジネスの成長や競争力を高めることができるという認識が高まったためです。

5. 多様性と包摂
リスキリングは何もITやDXに対応するためのスキルとは限りません。組織やチームでの役割分担、職場内でのメンバーの関わり方など、過去の職場での行動様式から大きな変化が起きています。特に、多様性(ダイバーシティ)と包摂(インクルージョン)という考え方は、ビジネスにとって重要であり、この考えに合わせた価値観、行動やコミュニケーションなどを理解、学習する必要があります。新しいスキルを習得することによって、これからの組織やチーム作りとその力を最大化することにつながります。

身の回りにある事例を考えてみると


例えば、リスキリングの事例は多岐にわたりますが、少しイメージしやすくするために、以下にいくつかの例を挙げてみます。
みなさんが関心のある分野や身を置かれているビジネス環境においても、製品・サービスの技術革新、組織・チーム間の役割分担とその関係性や業務プロセスなどが大きく変化しているので、リスキリングが必要となっています。

◎人材育成分野の場合

オンライン研修の導入や動画などデジタルコンテンツ提供の簡便化、スマートフォンやタブレットを活用した学習方法の提案などが進んでいます。ビジネス環境に応じての教える内容の高度化、複雑化はもちろん、指導者と学習者・上司と部下の関係性についても、オンライン環境を介した物理的な距離の変化や人材同士の関わり方、指導やコーチングのやり方が今まで経験したことがないものとなっています。雇用の流動化や社員のモチベーションへの対応も一筋縄ではいかず、リスキリングを推進しつつも、教える・学ばせる側にも新しいスキルを習得する必要があります。

◎医療分野の場合

新しい治療法は言うまでもなく、医療機器の操作方法、電子カルテの使用方法から、オンライン診療などのITツールは多様になり、新しい知識や技術が必要になっています。さらに、医師や医療スタッフと患者さん、製薬企業のMRと医師とのコミュニケーションの場面を想定しても、それぞれに期待されるサービスやソリューションも変化しており、仕事としてのあるべき姿も再定義されています。理念や倫理観として守るべきものと、新しい時代に向けて変わるべきものが、明確になってきています。

これらの例からも分かるように、リスキリングはあらゆる業界や職種で必要になってくるものであり、時代に即した新しいスキルを習得することが重要です。現代では、技術進展が非常に早くなっています。
とはいえ、これまでも長い人生の中で、仕事に取り組む中、私たちは、何度となく新しいスキルを追加で習得しています。
「リスキリング」と言うキーワードが流行りではあるものの、このスキル再習得に向き合う中、どんな意識を持つことで、効果的・効率的に学習できるものなのでしょうか?

リスキリングに合わせて、知っておきたい「アンラーニング」とは?

学ぶ“learning”に否定を意味する“un”が付いているので「学ぶの逆」と言えます。
「アンラーニング(unlearning)」とは、これまでの価値観や知識を見直しながら取捨選択し、その代わりに新しいものを取り込むことを指します。現状に合わせて学びを修正するため、「学びほぐし」と言い換えられます。
現代では技術や価値観の進歩がすさまじく、そのサイクルは年々早くなっています。
そのような変化に対応するためには、従来の価値観で受け止めている「知識」「技術」では、基礎が不十分であったり、解釈に齟齬が起きることがあるので、従来の価値観から、新しい時代の価値観で整理したり、統合したり、価値観のリセットとバージョンアップが必要になります。例えて言うなら、PCのOSを古いものから新しいものにバージョンアップして、新しいソフトウェアや改善されたシステムを快適に動かすような取り組みのようなイメージです。
なお、「アンラーニング」は「学ばない」「学びの全否定」ではなく、「学びほぐし」です。既存の学びをすべて捨て去る、忘れ去るのではなく、その後の再構築のプロセスがあることにもご留意ください。

リスキリングを活性化させる組織に必要なこと
「でも、どうやって社内で推進していったら良いんだろう……」
そういうお声が聞こえてきますので、必要な3つのステップについてお話します。

リスキリングを推進する3つのステップ


STEP1
パフォーマンスゴールと課題を再定義する

パフォーマンスゴールとは、ビジネスゴールを達成するために、その職種や役割で発揮してもらいたい行動の「あるべき姿」です。そして、このあるべき姿は、スキルアップの目標となるものなので、学習目標とも置き換えることができます。
ですので、このパフォーマンスゴールは学習目標として明示できるように、まず学習課題として整理され構造化されていることが重要です。
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STEP2評価による学習効果のエビデンスを示す
パフォーマンスゴールが明確化の次に推進するべきことは、その達成度合いを測るための評価指標の策定です。ビジネスゴールや成果のKPIではなく、その職種や役割で発揮してもらいたい行動の「あるべき姿」の質やレベル感を判断する評価指標です。これも、スキルアップの学習目標に到達しているかを評価するための学習評価と連動していることがポイントです。言うまでもなく、この学習評価のレベル感と成果の関係性が示せるものであることが重要になってきます。関係性に納得感があれば、学習の動機付けにつながりやすく、さらに、この学習評価がそのまま組織や個人のスキル課題、優先して取り組むべき学習課題の分析に相当するため、エビデンスに基づく戦略的な人材育成を可能にします。
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STEP3学び方、学ばせ方を変える
そして、ステップの3番目は、効果・効率・魅力的な学習、人材育成の仕組みで整えられた学び方や、学ばせ方を設計することです。ステップ1、ステップ2が行われていれば、すでにHPI(ヒューマンパフォーマンスインプルーブメント)やインストラクショナルデザインに基づくスキルアップのための戦略性が整っています。ここからやるべきことは、学習の課題分析つまり構造的な学習内容を、その学ぶべき順番に取り組んでいくということになります。最近では、対面の研修ばかりでなく、オンラインによる研修、そしてe-Learningなどのデジタルコンテンツも手軽に活用できるようになりました。学習課題が整理されていれば、組織や個人のスキルアップに必要な箇所を、効率的に学べるようになります。
また、重要なことは、学ばせるときに、いかに動機づけするか、学習を支援する環境を作るかです。
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学習する組織やチームを作る!
これらのステップは、組織としてのパフォーマンスゴールを策定するプロセスがあり、その実現をパフォーマンスの評価や学習評価という観点でチェックし、それらのデータをもとに必要なスキルとそれを身につけるための最適なプログラムを明確にして効果的な学習プランを作る、というシンプルかつ戦略的な思考を実現するということです。さらに社員一人一人が、新しいスキルを習得できるように、個別に学習の進捗を確認し、組織のリーダーや上長のコーチング的な支援により学習を促進することがとても重要なポイントとなります。
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まとめ. 全ての社員にリスキリングが必要な世界に

デジタル化が急速に進む現代において、変化の激しい時代への適応力が求められています。AIが担う業務も増える中、新しく生まれる業務もあります。多くの企業が人材不足という課題を前にして、既存の従業員の活躍の幅をリスキリングによってどう広げ、新しいものをいかに積極的に取り入れていくかで新たな価値創造の方法を模索していく必要があります。海外と比べると日本企業ではリスキリングの認知も推進もまだ進んでいませんが、リスキリングをいかに精度高く実行していくかが、今後の企業・社員双方にとっての生き残り戦略と言えるでしょう。

リスキリングやパフォーマンス向上のためのスキル育成などにお困りでしたら、ぜひ弊社までご相談ください!

執筆者プロフィール

堀 貴史 リープ株式会社代表取締役・パフォーマンスアナリスト
一般財団法人生涯学習開発財団 認定コーチ、認定アクションラーニングコーチ、
CompTIA CTT+ Classroom Trainer、CompTIA Project+、創造技術修士(専門職)
パンダやクマ、甘いものが大好きです。みんなに健康を心配されていますが、、、元気です!

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