学習する組織はどう作る? 参加することが学びになる「実践共同体」から考える

インストラクショナルデザイン, 人材育成, 学習支援, 学習環境


ざっくりのあらすじ
1. 自主的な勉強会や研修会などの学習コミュニティを「実践共同体」という (※会社主体のフォーマルな研修はこれに含まれない)
2. 実践共同体の要件は ①領域 ②コミュニティ ③実践の 3つの要素がそろっていること
3. 筆者の体験した「実践共同体」の超成功事例!をご紹介
4. 企業で実践共同体を構築することは、学習する組織、自走する組織への大きな一歩になる


あなたの組織に勉強会や研修会などはありますか?
リスキリングなども話題になっていますし、有志の勉強会、社内外のセミナーなど様々な学習コミュニティで研鑽を積まれている方も少なくないのではないでしょうか。

こうした学習のためのコミュニティは、「実践共同体(Community of Practice)」と呼ばれます。
実践共同体とは、共通の関心や目標を持つメンバーが、知識や経験を共有し、相互に学び合いながら、その共通の関心事に対する実践的なスキルと知識を発展させる社会的なグループで、1990年代初頭にエティエンヌ・ウェンガー(Etienne Wenger)によって提唱されました。

実践共同体には、専門家コミュニティ、趣味のグループ、オンラインフォーラムなどさまざまな形態があります。「社内や営業所で行われる若手社員勉強会」や「プロモーターと称するメンバーが旗振り役になるタスクフォース」などもこれにあたるかもしれません。対面での集まりや同期型のコミュニケーションに限らず、ネットの掲示板やチャットなどのテキストベースのコミュニティも含まれます。

< 実践共同体の特徴 >
・ メンバーが主体的に参加している

・ 非公式である
・ フォーマルな組織(課や部門など)を横断している
・ 属性や背景の異なる人々が参加している

実践共同体には上記のような特徴があり、重要なのは、共通の関心や目標を持ち、互いに支え合い、知識を共有することに焦点を当てている点です。「参加」することがそのまま「学び」になる、そんなコミュニティです。

従業員の学びを促進するために、こうした学習共同体を構築することを支援する企業も多いことと思います。
一方で、「最初は活気があったが継続しなかった」「企画したものの人が集まらなかった」など、実際に高い学びの成果を創出しうるようなコミュニティに成長させるのが難しい面もあります。

実践共同体の3つの要件

コミュニティが「実践共同体」足りうるには、①領域(domain)、②コミュニティ(community)、③実践(practice)の3つが必要だとされています。

①領域(domain)
メンバーが共通して関心を寄せるテーマや領域を指します。この領域を軸に、バックグラウンドや属性など多様なメンバーが集うのが実践共同体であるといえます。

②コミュニティ(Community)
領域を共有しながら、その領域について“ともに学び合うコミュニティ”が実践共同体です。共通の関心を持つメンバーが集まり、相互に交流し、経験や知識を共有する社会的、互恵的関係であること、その中で帰属意識や絆が築かれていくことが重要な特徴であるといえます。

③実践(Practice)
コミュニティの中で共有される一連の枠組みや取り組み、生み出される知識やアイディア、成果物など、学習のプロセスと成果が「実践」です。実践共同体は、知識を作り出し、共有し、実践することを重視します。実践は、個々の経験や知識を組織し、共同体全体のスキルや知識を高めるために行われます。

実践共同体は、個人の学習にとって有用であるのはもちろんですが、組織の学習としても非常に重要な役割を果たします。メンバーは共同体を通じて自分の専門知識を高め、新しいアイディアを発展させ、問題解決の能力を向上させ、そのことがさらに組織全体での知識共有とイノベーションの促進につながるのです。

ウェンガーらも、領域、コミュニティ、実践の3つの要素を満たした実践共同体が「理想的な知識の枠組み(knowledge structure)」として、企業内外に多層的に作り出されることを提言している(*1)ことからも、組織としてこうした共同体の構築に取り組むことの重要性がうかがえます。

お互いがお互いの先生になり合う、実践共同体としての「自主ゼミ」

ここまで理論的なお話ばかりになってしまいましたので、少し実践共同体の具体的な事例を考えてみたいと思います。
私はこの間まで社会人大学院インストラクショナルデザイン(以下、ID)を学んでいました。その在学時、同期同士でお互いの研究内容をレビューし合う“自主ゼミ”を定期的に行っていました。
このゼミは、IDを“領域”として、職業、年齢、性別、住んでいるところなど多様なメンバーが集う“コミュニティ”であり、お互いの問題解決のために知識と知恵を絞りながらそれぞれの研究を“実践”していく、そんな場でした。
修了後も解散することなく長期的に開催され、現在(2023年8月時点)も継続しています。修了後は各々職場の課題について相談し合ったり、その時々で興味関心のある学びのトピックを語り合ったり……と、会だけでなく学びのテーマも途切れることなく続いているのが特長的だと感じています。

①領域、②コミュニティ、③実践の3つの要素を満たしていることは、先の説明からなんとなくお感じいただけているのではないかと思いますが、振り返ってみるとこのゼミって実は実践共同体としてのかなりの成功事例なのでは!?といえるような複数の要素を持っていることに気が付きました。というわけで、成功要因をもう少し深掘りしてみようと思います。

◆成功要因①メンバーが自発的に、安心して参加できる環境が整っている
ゼミは週1~隔週くらいの頻度で毎週決まった曜日と時間に開催されていて、完全に自由参加です。数か月参加していなかったけど久々に参加してみた、というメンバーもたくさんいます。
参加の仕方に自由さがあっただけでなく、参加中の雰囲気もまた自由なものです。何を聞いても真剣に受け止め、「それは○○じゃない?」「△△のように考えてみるといいかも!」とディスカッションやアドバイスにつなげていってもらえます。安心して相談できるし失敗できる、心理的安全性の高い、まさに肯定的な学習環境が成立しているコミュニティであるように思います。
参考:リープの実例を公開!学習環境を整えて、社員のやる気を引き出すコツ

◆成功要因②リーダーシップを発揮できる人物が継続的にいる
ゼミは定期開催ですが、これは言わずもがな、毎回主催してくださる方がいるということです。その方、仮にAさんとしましょう、Aさんはこのゼミの発足を呼びかけ長きにわたって開催してくださっているだけでなく、在学時には度々、みんながつまずきやすいポイントを先んじて共有して相談しやすい環境を作ってくれたり、行き詰っているメンバーにメッセージをくれたり(もちろん、私もその一人です)とまさにリーダー的存在でした。
『企業内人材育成入門』(中原淳編 2017)にも、「実践共同体は放っておいても活性化しない。実践共同体のメンバーから活動やコミュニケーションを引き出し、調整する『世話人』が必要なのである。」(*2)とあり、そんな「世話人」たるAさんの存在の重要性とありがたみをあらためて痛感いたします。

◆成功要因③学びへの興味関心が高いメンバーである
3つ目の成功要因は、メンバーの学びへの感度の高さです。社会人大学院に入るようなメンバーだけあって、学びに対する意欲が高い面々が集まっていたと思います。これは実践共同体として(とくに発足かつ継続するため)の前提条件として関連が深いのではないかと思います。
自主勉協会に参加する人はキャリア確率が進みやすく(荒木 2007)、また、「成果志向でメンバーの多様性の小さい実践共同体」と「非成果志向でメンバーの多様性の大きい実践共同体」では後者の方がキャリア確立に寄与する(荒木 2009)という研究結果もあるそうです。(*3)
たしかに私自身「楽しいから」参加していて、結果的にそこで得たことを仕事にも活かせている面は大いにあると感じています。

◆成功要因④IDを中心につながりながら、二次的意義が発生している
ゼミのメンバーは、職業も年齢も経歴も大学院に来た動機も様々でした。IDを中心に、Aさんの職場ではこんな特徴がある、Bさんの職場ではこの部分に取り入れているなど、自分だけでは知りえない具体事例を知ることができるのはとても学びになりました。そして、ときには仕事以外の趣味や興味関心の話から、今まで全然知らなかったことを新たに知る=学びにつながることも本当にたくさんありました。実践共同体を研究されている松本雄一教授は、こうした学習テーマの広がりや変化を「二次的意義」と呼び、「実践共同体には、往々にして『二次的意義』が生まれます。(中略)最初に設定した学びのトピックは、最初に集まるきっかけで全然かまわないのです。この二次的意義が、メンバーの学びをさらに深め、組織に還元されます。」(*4)と述べています。

私が感じた現象はこの二次的意義であり、ゼミの成功要因の一つとなっているといえるでしょう。

◆成功要因⑤お互いに、専門領域の先生になり合っている
ゼミのメンバーはみな同じ時期に大学院に入学した同期でしたが、在学期間はバラバラで、少し先に進んでいるメンバーが後進のメンバーにアドバイスをしたり、先輩的な立場で協力したりする場面が多々ありました。また、④とも関連しますが、学習テーマに広がりが出てくると、そのテーマに詳しいメンバーが他のメンバーに教え、また違うテーマでは違うメンバーが先生になり……とお互いがお互いの先生になって学び合う環境が生まれました。これについても松本教授が、うまくいっている実践共同体の特徴のひとつとして「『学習対象のスキルや経験値に即した序列』ができていること」(*5)を挙げていらっしゃいます。
組織においては、先輩や上司、たとえ社長であってもそのコミュニティにおいては職位や年齢の序列ではなく、「学習対象のスキルや経験値に即した序列」の中で、「全員で成長していこう」というマインドやスタンスのもとコミュニティが作られることが、実践共同体の成功因子といえそうです。
参考:インストラクショナルデザインをガチで学んでみた~社会人大学院で学ぶID~
参考:インストラクショナルデザインとは?

企業の人材育成としての「実践共同体」を考える

自主ゼミの事例は大学院のメンバーによるコミュニティですので、企業の中に実践共同体を作るのとは当然条件が異なる部分も多いかと思います。
とはいえ、エッセンスとして取り入れていただける部分もあるのではないかと思いますので、「せっかく企画した勉強会が、何だかうまくいっていないかも……?」というときにはこのコラムを思い出していただけたら嬉しいです。
とくに、成功要因③のリーダーがいるという点は実践共同体として成り立つために非常に大きな要素であると私は考えています。声をかける、かけ続ける、というのは一見地味な要素かもしれません。ですが、コミュニティが継続し、本当の居場所として作られていくためにとても大切なことだと思います。

実践共同体は、ナレッジ・マネジメントを成功させる鍵としても着目されています。参加することがそのまま学びになる実践共同体は、まさに学習する組織、自走する組織が体現したものといえるでしょう。
そうした学びのコミュニティの構築の一つのヒントとして、少しでもこのコラムが参考になれば幸いです。

 

【 参考文献 】
*1)中原淳編(2017)『企業内人材育成入門』p.202-203, ダイヤモンド社
*2)中原淳編(2017)『企業内人材育成入門』p.204, ダイヤモンド社
*3)中原淳(2021)『職場学習論 新装版 仕事の学びを科学する』p160-161, 東京大学出版会
*4,*5)米川青馬(2017)「実践共同体はメンバーに心理的安全性をもたらす | 人材・組織開発の最新記事(コラム・調査など) | リクルートマネジメントソリューションズ」, <https://www.recruit-ms.co.jp/issue/interview/0000000625/?theme=workplace> 2023年8月2日アクセス

執筆者プロフィール

月足 由香 リープ株式会社 ビジネスディベロップメント事業部・インストラクショナルデザイナー

CompTIA CTT+ Classroom Trainer、 CompTIA Project+、応用情報技術者 、情報セキュリティマネジメント
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