学ぶ組織の合言葉「誰が何を知っているかを、知っている」 〜トランザクティブメモリー〜

ビジネススキル, 人材育成, 可視化・体系化


ざっくりのあらすじ
1. トランザクティブメモリーとは、「誰が何を知っているかを、認識すること」である
2. トランザクティブメモリーのスキルレベルが向上すると、組織の生産性、問題解決力などポジティブな影響を与え、組織の持続可能な成功の実現につながる
3. 各個人の役割と専門知識を理解して、得意分野や、どのような情報を持っているのかを把握することが重要である
4. 個々人の知識や情報の把握のためには、ダイバーシティ&インクルージョンを尊重し、オープンなコミュニケーションを実践することが第一歩である


 

トランザクティブメモリーという言葉をご存知ですか?

トランザクティブメモリー(Transactive Memory)とは、個々が持つ「知識」や「情報」を組織で有効活用するための、組織内で働くメカニズムの概念です。
このトランザクティブメモリーという概念は、ハーバード大学の社会心理学者のダニエル・ウェグナー(Daniel Wegner)によって提唱されました。彼は1990年代初頭にトランザクティブメモリー理論を発表し、その後の研究でさらに発展しました。端的に言うと、「誰が何を知っているかを、認識すること」と言うことです。

組織やチームに所属していると、情報共有、知識の習得やさらなるインプットという取り組みが常に意識されているものと思います。そのために組織は、勉強会を開催したり、ミーティングへの参加者を増やしたり、積極的な情報共有に取り組んだりします。
しかし、ちょっとした疑問が生じます。それは、会議や膨大な資料の共有によって、メンバーの多くの時間が奪われてしまい、むしろ生産性が下がっているのではないか、ということです。全体の情報共有を重視するがゆえに、そこで議論されない情報は埋もれてしまったり(暗黙知として公開されない、顕在化された情報以外が重要視されない など)、人によってはとても重要な情報なのに存在が忘れられたりして、情報の価値が下がっていくということが起きていないでしょうか。
情報を積極的に共有したつもりで、実は本当に必要な情報は埋もれているなんてことはありませんか?

そもそも「知識」や「情報」などの多くは暗黙知として、個々人の経験から集積され、そして育まれ、個々人の中で活用されています。仮にその個々人の「知識」や「情報」を集積し総量として捉えると、それは膨大なものと考えられます。一方で、その個々人の持つ「知識」や「情報」は、組織として共有されているかというと、その所在やカテゴリーなどは整理されておらず散在しているものでもあります。つまり、「誰が何を知っているかを、認識できない」というカオスな状況が多く認められるということです。

トランザクティブメモリー理論が体系化されたのは、情報技術の急速な発展とインターネットの普及が始まった時期でした。情報の利用可能性が急増し、個人や組織は膨大な情報を処理し、共有する必要がありました。この情報過多の状況に対処するために、情報の効率的な管理と共有が重要な課題となります。また、組織やチームの成功を考えるにあたり、メンバー間の協力や効果的なコミュニケーションと共に組織やグループが持つ知識を最大限に活用することが競争力に直結するということがあります。

実践知が活用される組織の特徴「トランザクティブメモリー」の要素とは

トランザクティブメモリーは、集団の一員としての知識やリソースを最大限に活用するための方法を提供します。これは、個人間の信頼やコミュニケーションに基づいて構築され、以下の要素から成り立っています。

専門知識の分担
グループ内の異なるメンバーが、それぞれの得意分野や専門知識を共有し、役割分担を行います。これにより、効率的なタスク遂行と問題解決が可能になります。

信頼とコミュニケーション
トランザクティブメモリーは、メンバー間の信頼と効果的なコミュニケーションに基づいて成り立っています。情報の共有が円滑で透明であれば、チームのパフォーマンスが向上します。

外部リソースへのアクセス
トランザクティブメモリーは、外部リソースにアクセスする能力も含みます。これは、インターネットや専門家への問い合わせを通じて、必要な情報を取得することを意味します。

情報の更新と適用
古い情報が新しい情報に置き換えられ、常に最新の知識が利用可能であることが重要です。また、これらの知識を実際のタスクや問題解決に適用することもトランザクティブメモリーの一部です。

トランザクティブメモリーは、個人やグループの成長と成功に不可欠な要素です。適切な情報の管理と共有が行われると、タスクの効率性が向上し、課題に対処する能力が強化されます。また、チームの連帯感と協力関係も高まり、組織全体のパフォーマンスにプラスの影響を与えます。

要するに、トランザクティブメモリーは現代社会において重要な概念であり、個人とグループが共有の知識と情報を最大限に活用する手段として、積極的に取り入れるべきです。情報の管理と共有がうまくいけば、個人の成長と成功だけでなく、組織全体の成功にも貢献することでしょう。

トランザクティブメモリーのスキルレベル向上が組織にもたらす影響は大きく、情報の効果的な管理と共有は、組織の生産性、問題解決力、信頼性、連帯感、競争力に対するポジティブな影響を持ち、持続可能な成功を実現すると言われています。

トランザクティブメモリーを、組織のスキルとして実践するためには


トランザクティブメモリーを実践する最初の一歩は、情報の共有と管理に関する基本的なステップを理解し、次に進むことです。以下は、トランザクティブメモリーを実践するための最初のステップです。

役割と専門知識の明確化
チームや組織のメンバーは、自分の役割と専門知識を明確に理解しましょう。どの分野で得意なのか、どの情報を持っているのかを把握しましょう。これにより、チーム全体が各メンバーの得意分野を活用できるようになります。

コミュニケーションの改善
メンバー間のコミュニケーションを改善しましょう。オープンで効果的なコミュニケーションが、トランザクティブメモリーの基盤となります。さらに有機的なコミュニケーションのネットワークづくりにより、情報の共有や質問への回答が円滑に行われる環境を整えましょう。

共有するプラットフォームの構築
情報共有のためのプラットフォームを構築または選定しましょう。これには、共有ドキュメント、プロジェクト管理ツール、コラボレーションプラットフォームなどが含まれます。情報が効率的にアクセスできるようになります。

情報のカテゴリ化と整理
チーム内での情報のカテゴリ化と整理を行いましょう。組織全体で共有できるインデックスを持ち、情報をテーマ別に整理し、必要な情報を誰が持っているかを簡単に見つかるようにします。これにより、情報の効率的な利用が可能になります。

トレーニングと意識の向上
メンバーにトランザクティブメモリーの概念についてトレーニングを行い、意識を高めましょう。メンバーがトランザクティブメモリーの価値を理解し、実践に取り組む姿勢を持つことが重要です。

継続的な評価と改善
実践を開始したら、継続的な評価と改善を行いましょう。情報の共有や効率性に関するフィードバックを受け入れ、プロセスを改良し続ける文化を築きましょう。

トランザクティブメモリーを実践する最初の一歩は、基本的なスキルと意識の向上から始まります。メンバーが情報を効果的に共有し、利用できる環境を整えることが、組織やチームの成功に向けた重要なステップです。

まとめ

知識や情報の組織内での利活用が、高度な情報化社会では必須です。しかも現在では高い情報処理能力を持つAIも生まれており、知識や情報が、経験値をもつ人間だけのものではなくなってきています。私たち、一人一人が持つ脳内の処理には限界があることを考えると、会議や情報共有会をいくら増やしても知識の蓄積は間に合いません。「誰もが、なんでも知っている」という情報蓄積を個々人に課すのは、まもなく限界を迎えます。
そんな時に、トランザクティブメモリー、つまり組織をネットワークとして捉え、有機的に伝達が行われるための情報のインデックスづくりかつ組織全体、人間同士の情報圧縮とその転送技術が有用です。「誰が何を知っているかを、知っている」という組織の状態を作り、そのネットワークの中にAIも含めて、生産性向上を高めていく必要があるものと思います。
お互いの強みや専門性、そしてダイバーシティとインクルージョンが認知されたオープンなコミュニケーション、風通しの良いと感じる組織を目指すことで、成果につながる知識と情報の利活用がなされていくことでしょう。

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執筆者プロフィール

堀 貴史 リープ株式会社代表取締役・パフォーマンスアナリスト
一般財団法人生涯学習開発財団 認定コーチ、認定アクションラーニングコーチ、
CompTIA CTT+ Classroom Trainer、CompTIA Project+、創造技術修士(専門職)
パンダやクマ、甘いものが大好きです。みんなに健康を心配されていますが、、、元気です!

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