ブランドプラン浸透の鍵は「理解させる」ではなく「体得させる」
― 実行と成功体験から生まれる“深い戦略の理解” ―

HPI, インストラクショナルデザイン, コーチング, 人材育成, 戦略理解

ざっくりのあらすじ
1. 本社と現場の間にある“戦略のズレ”は、伝達不足ではなく、現場が戦略を行動レベルで体得できていないことに起因する
2. 戦略理解は直線的な「説明→理解→実行」という流れではなく、「実行→内省→理解→再実行」という経験学習サイクルの中で深まる

3. マネジャーによるプレ・ポスト両面のフィールドコーチングが、この経験学習サイクルを支えるエンジンとなる
4. 戦略浸透の本質は「理解させる」ことではなく、現場が行動と成功体験を通じて「体得する」仕組みを設計することにある

本社ではブランドプランを練り上げ、明確な戦略方針を描く。
一方で現場では、その戦略に沿って活動しているつもりなのに、成果が出ない。

本社:「戦略は伝えたはずなのに、なぜ動かないのか?」
現場:「現場は頑張っているのに、なぜ成果が出ないのか?」

このような“すれ違い”は、多くの組織で見られます。

背景には、戦略が複雑化し、デジタルや多面的なチャネル施策が組み合わさることで、現場が「戦略の意図」を行動レベルで理解しづらくなっている現実があります。
では――現場が戦略を理解したうえで、戦略に沿った活動を展開することを期待するのは、もはや“無理ゲー”なのでしょうか?

戦略の理解は“教え込み”ではなく、“体験”から生まれる

戦略理解というと、「説明を受ける→理解する→実行する」という直線的な順序を想像しがちです。
しかし実際には、深い理解は実行のサイクルの中で生まれるものです。

たとえば、MRが医師面談で戦術に沿った行動を実践し、「この順序で話すと反応が変わる」「この問いかけで関心が高まる」という成功体験を得る。
その背景を振り返ることで、初めて戦略の意図やつながり、ターゲティングの意味を“体感をもって”理解できるようになります。

つまり、戦略理解とは「戦略・戦術の実行→理解の深化→実行精度アップ」という循環の中で深まる学習プロセスです。

戦略の理解は直線ではなく循環行動を通じて仮説を検証し、結果から意図を再解釈する――。
その繰り返しが、戦略を現場に浸透させる本質的な仕組みになります。

事例:製薬会社Xの戦略浸透方法

製薬会社X社では、新薬ローンチにあたり、限られた営業リソースを最大限に活かすため、デジタル施策やDr. to Dr.施策を組み合わせた多層的な戦術を設計していました。
同社が重視したのは、「フィールドでの実行の中で理解を深める仕組み」の構築です。

まず、現場のMRが戦術をどのように実行しているかを調査し、成果につながる行動パターンを特定。
それを次年度の戦術としてさらに精緻化し、MRが再現しやすいように行動単位まで具体化しました。

同時に、マネジャーとMRの戦略理解度を可視化。
論述形式のWebテストを活用し、戦略意図や価値のつながりに対する“解釈の深さ”を分析しました。
このデータを組織全体にフィードバックすることで、現場は「戦略実行のキーファクターは何か」「なぜこの行動が成果につながるのか」を理解しながら実行精度を高めていったのです。

このように、X社は「戦略・戦術の実行→理解の深化→再実行」の循環を仕組み化し、戦略理解を“体験的に深める”マネジメントサイクルを確立していました。

このプロセスの最大の成果は、戦略が“腹落ちする”こと。
MRが行動し、結果を見て、「なぜこのアプローチが有効だったのか」を自ら考える。
その過程で初めて、戦略の背後にあるロジックや意図が理解され、「だからこの戦略は意味がある」と確信を持てるようになる。

この“体得型の理解”こそ、会議や研修では得られない真の戦略浸透です。

経験学習モデルでみる「戦略の体得プロセス」

この理解深化のプロセスは、組織行動学者デービッド・コルブの経験学習モデルで説明するとより明確です。
経験学習モデルの図

1. 具体的な経験
MRが戦略・戦術に沿って医師面談を実施する。
「戦略を実行する」という具体的体験が出発点となる。

2. 内省
面談後、「うまくいった点」「うまくいかなかった点」を振り返り、
医師の反応や自分の対応を客観的に観察する。

3. 教訓化
成功・失敗の要因を戦略や戦術の意図に照らして整理し、
「なぜこの展開は刺さったのか」「なぜこの順序では響かなかったのか」を抽象化する。

4. 新しい状況での実践
次のターゲットDr.で、得た教訓をもとに再チャレンジ。
異なる状況で戦略を再現する中で、実行精度が高まっていく。

このサイクルを回すことで、MRは「戦略を覚える」のではなく、自らの経験を通して戦略の本質を理解するようになります。
成功体験が理解を促し、理解が次の実行精度を高める――

まさに「戦略・戦術の実行→理解の深化→実行精度アップ」という好循環の仕組みです。

▼経験学習モデルについて、詳しくはこちらの記事もご覧ください。
『経験学習モデル』を活用し、人の経験を“成果に変える”

マネジャーによるフィールドコーチングが戦略浸透のエンジンになる

とはいえ、この経験学習サイクルをMR任せで回すのは難しいものです。
そこで重要になるのが、マネジャーが現場で行うフィールドコーチングです。

■ 医師面談前のコーチング(プレ・コーチング)
MRが面談を計画する段階で、戦略・戦術の意図を踏まえた「狙いどころ」や「展開順序」を整理する。
これは、経験学習における“具体的経験”の質を高める支援です。

■ 医師面談後のコーチング(ポスト・コーチング)
面談後、「どの要素が成果を生んだのか」「なぜ反応が分かれたのか」を共に分析。
戦略との整合性から教訓を導き出し、次の面談での適応を支援する。
これは“内省→教訓化→再実践”のプロセスを組織的に回す役割を果たします。

このように、マネジャーが経験学習サイクルの前後を支援することで、MR一人ひとりの経験が単発の成功・失敗ではなく、組織として戦略を学び、実行精度を高める学習プロセスに変わります。

まとめ:戦略を「理解」から「体得」へ

戦略を浸透させる最短ルートは、会議でも研修でもなく、実行の設計です。
現場が動く中で成功を実感し、その体験を通じて戦略の意図を理解する――。

この「戦略・戦術実行→理解の深化→実行精度アップ」のサイクルこそが、戦略が組織に根づき、成果を生み出す最も確実な道筋です。
リープは、HPIID理論に基づき、戦略を“理解されるもの”から“実行されるもの”へと変える仕組みづくりをサポートします!

執筆者プロフィール

荒木 恵 リープ株式会社 取締役・インストラクショナルデザイナー 
ラーニングデザイナー(eLC認定 e-Learning Professional)、e-Learning マネージャー(eLC認定 e-Learning Professional)、e-Learning エキスパート (eLC認定 e-Learning Professional)、CompTIA CTT+ Classroom Trainer、認定アクションラーニングコーチ、日本評価学会認定評価士、修士(教授システム学)、RCiS連携研究員
著書に「インストラクショナルデザイン 成果から逆算する“評価中心”の研修設計」がある
趣味は温泉・秘湯・マッサージ巡り。(どこかおススメがあれば”こっそり”教えてください!)
教育に関わるデータの活用方法から、データに基づいた教育プランの設計まで、皆さんのお悩みをサポートしますので、お気軽にメッセージください。

執筆者に質問する

関連記事一覧