職場の問題解決を通じてチームで学ぶ「アクションラーニング」
2025年9月5日更新
ざっくりのあらすじ
1. 企業は人材育成に力を入れているが、研修が実務で活かされない、やらされ感があるなどの問題が多数存在する。
2. 「アクションラーニング」は、実際の問題を小グループで解決しながら学ぶ手法で、これにより個人と組織の成長を目指す。
3. 成功のためには、具体的な課題の選定、多様なグループ構成、定期的な反省とフィードバック、ファシリテーターのサポートが重要。
4. アクションラーニングは、職場での実践的な学びを通じて、学習と仕事の境界性を越え、企業内教育の質を向上させる効果的な手法である。
人的資本経営も推進される昨今、より一層人材育成に対する取り組みを強化する企業も多くなっていると思います。
たくさんのリソースをかけて取り組む一方で、人材育成に関わる悩みはそうした組織でもつきないのではないでしょうか。
「研修でやったことが、まったく実務で活かされていない…」
「いろんな企画をしても、やらされ感が蔓延していて、自律的な学びになっていない」
「業務が忙しいのに、研修にそんな時間を割いていられない」
「次世代を担う若手リーダーを育てられていない」
皆さんの組織ではいかがでしょうか?
このような声が上がってくる背景には、様々な要因があると思いますが、その問題を解決する手法の1つが「アクションラーニング」です。
職場の問題解決をしながら学ぶ「アクションラーニング」

アクションラーニングとは、実際の業務やプロジェクトに直面している問題を、小グループで協働しながら解決していく学習プロセスです。この手法は、レグ・レヴァンスによって提唱され、個人の学習だけでなく組織全体の変革をも目指します。
アクションラーニングのセッションでは、参加者が実際の問題に取り組み、その過程で学びを深め、スキルを向上させることができます。参加者は自らの経験を共有し、互いに学び合うことで、単なる知識の習得を超えた深い学びを実現することができます。
【 ご参考 】※外部リンク アクションラーニングとは | NPO法人 日本アクションラーニング協会 (jial.or.jp)
◆アクションラーニング実践のポイント
アクションラーニングを成功させるためには、以下のポイントが重要です。
1. 実践的な課題の選定:参加者が関心を持ち、かつ組織にとっても意味のある実践的な課題を選ぶことが重要です。
2. 適切なグループ構成:多様なバックグラウンドを持つメンバーでグループを構成することで、異なる視点からのアイデアや解決策が生まれやすくなります。
3. 反省とフィードバックの機会の提供:アクションラーニングは実行と反省の繰り返しです。定期的にセッションを持ち、進捗の共有とフィードバックを行うことが成長につながります。
4. ファシリテーターの役割:ファシリテーターは、グループの学習プロセスを促進し、参加者が問題解決に向けて深く考えることを支援します。彼らは直接的な答えを提供するのではなく、適切な質問を通じて参加者自身が答えを見つけ出せるよう導きます。
<アクションラーニング事例解説>クロス・ファンクショナル・チームによる希少疾病MR 営業スキルの体系化

始まりは現場の悩みから
製薬会社X社の希少疾病領域事業部は、深刻な問題を抱えていました。
希少疾病という性質上、患者数が極めて少なく、医師でさえその疾病に関する知識や治療経験が限られています。X社の希少疾病領域所属のMRは医師に対して、通常の疾患領域以上に高度で専門的な情報提供が求められる一方で、確立された営業手法がありませんでした。
その結果、MRのパフォーマンスには大きなバラつきが生じ、優秀なMRのノウハウは属人的なままで組織全体に浸透していない状況でした。
「なぜあの人はうまくいくのに、自分はうまくいかないのか?」現場のMRたちからは、そんな声が日々聞かれていました。
アクションラーニング4つのポイントを実践:X社の取り組み
この課題に対してX社が実践したアクションラーニングのプロセスを、4つのポイントに沿ってご紹介します
1. 実践的な課題の選定:現場の切実な問題に正面から向き合う
X社のプロジェクトチームは、MRが今まさに直面している具体的で切実な問題を課題として選定しました。
◆課題例
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これらは全て、参加者であるMRが日々悩んでいる実務上の課題であり、同時に組織の業績に直結する重要な課題でもありました。
「解決できれば明日からすぐに役立つ」という実践性の高い課題設定が、参加者の真剣度とコミットメントを高めました。
プロジェクトチームは、希少疾病領域におけるMRの営業スキルに関する具体的な課題を選定しました。具体的には、医師に対する効果的なコミュニケーション方法や、希少疾病に関する情報をどのように伝え、患者さんの診断・治療ができる仕組みをどのように構築するかという点が挙げられます。
2. 適切なグループ構成:部門の壁を越えた多様性の追求
X社は縦割りの組織を超えたクロス・ファンクショナル・チームを結成しました。クロス・ファンクショナル・チームは以下のメンバーで構成されました。
(チーム構成)
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「現場を知らない人たちだけで決めても、結局使えないものになってしまう」という過去の苦い経験から、実際にフィールドで医師と向き合うMRの生の声を中心に据えながら、異なる専門性を持つメンバーで多角的な視点からの解決策を導き出しました。
3. 反省とフィードバックの機会:実行と内省の繰り返しサイクル
チームは定期的なセッションを開催し、実行と反省のサイクルを重視しました。
月次セッションでの振り返り
- 「今月試してみたアプローチはどうだった?」
- 「医師の反応はどう変わった?」
- 「うまくいかなかった場面では、何が問題だったか?」
リアルタイムフィードバックの仕組み
実際に営業手法を試したMRからのフィードバックを即座に収集し、プログラムの継続的改善に活用しました。
失敗も成功も含めて、すべてが次のアクションにつながる貴重な学習材料として扱われ、「失敗を恐れずチャレンジする文化」が醸成されました。
4. ファシリテーターの役割:答えを教えず、気づきを引き出す
今回の事例では、トレーニング部門のメンバーと外部の専門家コンサルタントがファシリテーター役となり、以下の役割を果たしました。
プロセスファシリテーション
- 議論が脱線した際の軌道修正
- 全メンバーが平等に発言できる場づくり
- 建設的な議論を促進する雰囲気作り
学習促進
- 「なぜそう思うのですか?」「他の見方はありませんか?」といった質問を通じて、参加者自身が答えを発見できるようサポート
- 直接的な答えを提供するのではなく、メンバーが自ら考え抜く過程を重視
- 内省の重要性を強調し、表面的な問題解決だけでなく、深い学びと成長を促進
成果
数カ月にわたるアクションラーニングプロジェクトを通じて、X社の希少疾病領域での営業手法が確立され、現場で本当に使える実践書として「営業スキルガイドブック」に集約されました。これは単なるマニュアルではなく、実際の成功事例や失敗から学んだ教訓が詰まった、実践的な成果物となりました。
目には見えづらいですが、以下のような意識が培われた点も注目すべき点です。
- プロジェクトリーダーを務めたメンバーのリーダーシップ能力の向上
- 部門を越えた協力関係の構築
- 「自分たちで問題を解決できる」という組織全体の自信の獲得
【 ご参考 】VUCA時代のマネージャーと部下の新しい関係性 シェアド・リーダーシップ
学びのポイント:なぜこのアプローチが効果的だったのか
この事例が成功した要因は、現実の問題解決と学習を同時に進行させたことにありました。
従来の研修では「まず学んでから実践」でしたが、アクションラーニングでは「実践しながら学ぶ」ことで、学んだことがそのまま業務改善につながりました。
また、多様性と「当事者性」の両輪があったのも重要でした。
異なる専門性を持つメンバーが集まりつつも、全員が「希少疾病MRの営業スキル向上」という共通の目標に向かって取り組んだことで、理論と実践の両方を兼ね備えた成果物である「情報提供スキルガイドブック」が生まれました。
学習と仕事の境界性を越える取り組みの可能性は無限大!?
アクションラーニングは、現場で直面している実際の問題を解決する過程で学び、成長するための有効な手法です。研修が現場から分断されてしまう問題を解決し、参加者に主体性をもたらすことができます。
アクションラーニングを実践する上でのポイントを押さえ、適切な課題選定、多様なグループ構成、反省とフィードバックの機会の提供、そしてファシリテーターの役割を重視することが成功の鍵となっています。これらの要素を踏まえることで、アクションラーニングは個人のスキルアップだけでなく、組織全体の革新へとつなげることができます。
アクションラーニングは、学習の場を「研修」ではなく、「職場」に置くことで、企業内教育を次のレベルへと引き上げるための強力な手法となります。
あなたの組織でもアクションラーニングを取り入れてみませんか?
【 ご参考 】上手く行かないグループワーク。目的を盛り込み過ぎてませんか?
FAQ よく頂戴する質問
Q1. 「うちの会社でも始めてみたいけれど、どこから手をつければいいの?」
まずは小さく始めることをお勧めします。X社の事例のような本格的なプロジェクトを最初から目指すのではなく、まずは「今月中に解決したい身近な問題」を1つ選んで、3〜4人のチームで2週間程度取り組んでみてください。例えばなど、全部門に関わる身近な課題から始めると成功しやすいです。
Q2. 「忙しい現場メンバーを巻き込むのが難しい。どうすれば参加してもらえる?」
重要なのは「参加することのメリット」を明確に示すことです。X社では「あなたの困りごとを、みんなで解決しましょう」というスタンスで現場MRにアプローチしました。「研修に参加してください」ではなく「あなたの仕事を楽にするためのプロジェクトに協力してください」と伝えることで、当事者意識を持ってもらえます。また、最初は30分〜1時間の短時間から始めて、徐々に時間を延ばしていくのも効果的です。
Q3. 「ファシリテーターなんてできる人がいないんですが…」
完璧なファシリテーターは必要ありません。大切なのは「答えを教えない」「全員に発言してもらう」「時間を管理する」の3点だけです。認定アクションラーニングコーチに頼むのも一つの方法ですが、人事担当者や研修担当者やマネージャーなどの管理職の方でも十分務まります。「みなさんはどう思いますか?」「他の見方はありませんか?」といった基本的な質問ができれば大丈夫です。
Q4. 「結局、いつものメンバーしか参加しなくて、多様性が確保できません」
X社が効果的だったのは「課題に直接関係ある部門から1名ずつ必ず参加してもらう」としたことでした。また、普段発言しない人にも「〇〇さんの部署ではどうですか?」と個別に意見を求めることで、全員が当事者として参加できる仕組みを作りました。年代や役職のバランスも意識して、「先輩の知恵」と「若手の新しい視点」両方を活かせるメンバー構成を心がけてください。
Q5. 「途中で行き詰まったり、成果が見えなくなったりしませんか?」
必ずそういう時期がきます。そんな時は「小さな成功体験」を積み重ねることが重要です。大きな課題を一気に解決しようとせず、「今月はこの部分だけでも改善しよう」「来月はこの手法を試してみよう」と段階的に進めることで、メンバーのモチベーションを維持できます。また、定期的に「今までできるようになったこと」を振り返る時間を設けることも効果的です。
Q6. 「上司や経営陣を巻き込むにはどうすればいいでしょうか?」
最も効果的なのは「小さな成果でも必ず報告する」ことです。例えば、月次で簡単な進捗レポートを作成し、「現場でこんな改善がありました」「メンバーからこんな声が上がっています」と具体的な変化を伝えるとよいでしょう。数字で表せる成果があればベストですが、「部門間の連携がスムーズになった」「自主的に改善提案する人が増えた」といった定性的な変化も、将来の業績向上につながる兆候として報告することをおすすめします。
執筆者プロフィール

荒木 恵 リープ株式会社 取締役・インストラクショナルデザイナー
ラーニングデザイナー (eLC認定 e-Learning Professional)、e-Learning マネージャー(eLC認定 e-Learning Professional)、e-Learning エキスパート (eLC認定 e-Learning Professional)、CompTIA CTT+ Classroom Trainer、認定アクションラーニングコーチ、日本評価学会認定評価士、修士(教授システム学)、RCiS連携研究員
趣味は温泉・秘湯・マッサージ巡り。(どこかおススメがあれば”こっそり”教えてください!)
教育に関わるデータの活用方法から、データに基づいた教育プランの設計まで、皆さんのお悩みをサポートしますので、お気軽にメッセージください。
