AIアセスメント元年
〜事業成長を加速する「評価中心の戦略的企業教育」〜
ざっくりのあらすじ
1. 育成の成果が見えない最大の理由は、現状(As-is)をデータで把握する「客観的な評価」が欠けていることにある
2. パフォーマンス不振の8割以上は「組織環境」にあり、個人の能力不足と決めつけるのは間違いである
3. 査定のための「人事評価」と、成長のための「教育評価」を切り離し、後者をAIに任せるべきである
4. AIの客観データと上司の対話を組み合わせることで、経験則に頼らない「科学的な育成」が実現する
「人材育成の効果が見えない」
「研修がやりっぱなしになっている」
企業から寄せられるこうした切実な声は、育成への期待の裏返しであり、「成果の定量的可視化」という未解決の課題を浮き彫りにしています。
人的資本経営がスローガンから実装段階へ移行する今、人をコストではなく投資対象である「資本」と捉えるならば、重要なアクションの一つに「As is(現状)- To be(あるべき姿)ギャップの定量把握」があります。
これはカーナビゲーションに例えると明白です。目的地(To be)を入力しても、現在地(As is)が不明であればルートは引けません。多くの企業では、優れた研修(移動手段)はあっても、社員の現在地を正確に測るGPSが機能していないのが実情です。
(ご参考記事)
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「人事評価」と「教育評価」の混同という落とし穴
なぜ現在地の把握がこれほど難しいのでしょうか。過去に弊社が実施したアンケートからは「基準のバラつき」「フィードバック困難」といった現場の苦悩が浮かび上がります。
最大の問題は、処遇を決める「人事評価(査定)」と、成長を促す「教育評価(育成)」の混同です。人事評価は公平性が厳格に求められるため、心理的バイアスにより「当たり障りのない評価」になりがちです。
一方で、人が育つには日常的な実践を見る「教育評価」が不可欠ですが、プレイングマネージャーとして多忙を極める上司に、部下の行動を細かく指導する物理的な余裕はありません。結果、現場のOJTは「なんとなく」行われるに留まり、育成は本人のセンス任せという状況が続いているのです。
| 人事評価 (査定・選別) |
教育評価 (育成・支援) |
|
|---|---|---|
| 主な目的 | 給与や昇進など 「処遇」の決定 |
学習習得や 「行動変容」の支援 |
| 実施頻度 | 年1〜2回 (定期的・厳格) |
研修・OJT時 (継続的・随時) |
| 特徴・課題 | 公平性が重視される反面、 心理的バイアスによりフィードバックが機能しにくい。 |
個々の強み・課題を可視化し、 次の学習や環境改善(ツール導入等)へ繋げる。 |
| ポイント | キャリア・能力開発に活用 長期の視点で人財育成 |
スキル・業務の質改善に活用 短期の視点で人財育成 |
「教育評価」という概念が知られていないのも、日本における企業教育の特徴です。「テストは子どもが受けるもの」「現場では情熱や熱意が重要で、知識やスキルは測れない」。日本企業ではこうした風潮が根強く、教育評価の概念が希薄です。
しかし本来、効果的な育成設計には評価が不可欠であり、これと人事評価の両輪が揃って初めて、人的資本経営は実装フェーズへと進み、成果につながります。
(ご参考記事)
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今、生成AIの登場でこの教育評価が脚光を浴びています。「やりたかったが難しかった効果測定」「手間のかかるフィードバック」といった長年の課題を、AIが解決してくれるのではないか。テクノロジーへの期待は、かつてないほどに高まっているのです。
AI評価への期待と課題: AIは「育成」のパートナー
生成AIによるアセスメントには、「評価の均質化(バラつきの解消)」「評価根拠の可視化」「フィードバック工数の削減」という大きな期待が寄せられています。人間が見逃しがちな微細な変化も、AIなら特定の基準に基づいて全員を同じモノサシで判定できます。 一方で、「AIに人の評価ができるのか」「ブラックボックス化するのではないか」という懸念も存在します。だからこそ、AIをいきなり処遇決定の「人事評価」に使うのではなく、結果を用いて振り返りを促進し、成長過程を支援する「教育評価」として活用すべきだと考えます。
結論として、AIは「査定」ではなく「育成」のパートナーです。処遇を決める人事評価には向きませんが、成長を支援する教育評価とは極めて相性が良いのです。 感情や忖度を持たないAIは、事実ベースでフィードバックを行います。「質問の意図が分かりにくい」「提案の整合性が弱い」といった指摘は、人間が伝えると角が立つこともありますが、AIが客観データとして提示すると、案外素直に受け入れられるものです。
教育評価の指標である「カークパトリックモデル」で見ても、従来はレベル1(アンケート)で止まっていた効果測定を、AI解析を用いることで、レベル2(学習定着度)やレベル3(現場での行動変容)まで、低コストかつ高頻度で可視化できるようになります。
「上司が見ていないところでも、AIが見守ってくれている」。この環境を作ることが、自律的な学習を促す第一歩です。AIは何度でも即座にフィードバックを返せるため、学習者は納得いくまで練習を繰り返すことができます。これは多忙な上司には不可能な、AIならではの価値です。

成功の鍵は「ハイブリッド評価」:現場の行動変容の壁を突破する
この「教育評価」を実装し、HPI(Human Performance Improvement)サイクルを回すプラットフォームとして、AI評価システム「SkillPalette」が注目されています。
従来の研修は受講直後のアンケート(レベル1)で終わりがちでしたが、経営が求めるのは現場での実践(レベル3)と成果(レベル4)です。
SkillPaletteは、HPIとID(Instructional Design)に基づく「評価基準(ルーブリック)」をAIに学習させ、研修での知識定着(レベル2)の判定に加え、実際の行動内容を解析することによって現場でのスキル発揮状況(レベル3)までを事実ベースで可視化します。これにより、これまでブラックボックスだった「現場での行動変容」の壁を突破できるのです。
AI活用は決して人間(上司)を排除するものではありません。「AIによる客観的な事実」と「人による文脈的な指導」を組み合わせる「ハイブリッド評価」こそが、現場OJTを機能させる鍵となります。
多忙な上司が全商談を確認することは不可能ですが、SkillPaletteは即座に評価スコアとコメントを生成します。上司はこのデータを「対話のネタ」として使い、部下の納得感を醸成しながら具体的なアクションを共に考えることができます。指導の質を標準化しつつ上司の負担を劇的に軽減し、実効性のあるOJTサイクルが構築されるのです。

事例:B社における「コト売り」への転換と業績向上
実際に、「SkillPalette」を導入し、HPIのアプローチで成果を上げた電機・計測制御システム会社B社の事例をご紹介します。
B社では、従来の「モノ売り」から、顧客の潜在課題を解決する「コト売り(コンサルティング営業)」への転換を掲げていましたが、現場スキルの定着に課題を抱えていました。 そこでB社は、ハイパフォーマーの行動を分析してルーブリックを作成し、SkillPaletteに実装しました。研修でのロープレだけでなく、現場での商談データもAIで解析し、その結果をもとに上司がコーチングを行う「ハイブリッド評価」を徹底しました。
その結果、指導の標準化が進み、個人のスキルレベルに応じた適切な教育介入が行われるようになりました。 一番の変化は、上司と部下の1on1の質が劇的に向上し、かつ習慣化されたことです。上司にとっては、AI評価のおかげで課題の指摘に自信が生まれ、部下にとっては、上司の主観ではなく客観的な事実でフィードバックを受けることができるため、納得感が高まりました。人間同士の軋轢をなくし、むしろ協働作業としてのスキルアップを実現したのです。
最終的に、対象部署の売上は昨対比で平均20%向上するという、明確なビジネスインパクト(レベル4)を創出しました。

エビデンス・ベースド・ラーニングの幕開け
AIアセスメントは、単なる採点の自動化ではありません。それは、長らく経験則(KKD)に頼っていた人材育成を、データと根拠に基づく「エビデンス・ベースド・ラーニング」へと進化させる不可欠なインフラです。
AIが示す客観的な事実は、若手には「公平なフィードバック」として納得感を与え、ベテランには「自己認識とのズレ」を自覚させアンラーニングを促します。評価はもはや「最後にやる嫌な査定」ではなく、「成長のために現在地を知るGPS」へと変わるのです。
これからの育成は、「何を教えるか(Input)」以上に、「いかに正しく現状を把握し、成長を測定するか(Assessment)」が問われます。 ビジネスゴールに紐づく評価基準を設計し、AIによる高頻度で客観的なフィードバックを行い、そのデータを介して人が対話し納得感を醸成する。この3つが揃った時、評価は選別のための道具ではなく、個々が目指すべき場所へと進むための「道しるべ」になります。
「評価中心の人材育成」というパラダイムシフトへ。ぜひ皆様も挑戦してください。その先に、個人の自律的な成長と組織の進化が待っています。

執筆者プロフィール

堀 貴史 リープ株式会社代表取締役・パフォーマンスアナリスト
一般財団法人生涯学習開発財団 認定コーチ、認定アクションラーニングコーチ、
CompTIA CTT+ Classroom Trainer、CompTIA Project+、創造技術修士(専門職)
パンダやクマ、甘いものが大好きです。みんなに健康を心配されていますが、、、元気です!