社員の行動・学習を後押しする『自己効力感』を活かす!

パフォーマンス評価・設計, 人材育成, 学習支援, 教育設計, 教育評価

ざっくりのあらすじ

1.自己効力感が高い人は、研修でも積極的に学び、困難な課題にも立ち向かい、その結果として成功する可能性が高いとされている
2.自己効力感を高めるためには、適切な目標設定、成功体験の積み重ね、適切なフィードバック、失敗を前向きにとらえることが重要であり、これらのポイントは相互に関係している
3.ルーブリックを活用した育成は、自己効力感を高める効果が期待できる
4.自己効力感を高める工夫を企業内教育に取り入れることが、社員の育成やパフォーマンス向上につながる!

企業内教育は、社員の能力向上や業務効率化を目的に研修を実施しますが、研修後に社員が学んだことを業務に活用しないばかりか、研修自体にも積極的に参加しないことがあります。その原因の一つが、『自己効力感』の不足にあると言われています。

自己効力感とは、「自分が目標を達成することができる」という自信のことです。自己効力感が高い人は、研修で積極的に学び、困難な課題にも立ち向かい、その結果として成功する可能性が高いとされています。一方で、自己効力感が低い人は、自分に自信が持てず、失敗を恐れて行動できないことがあります。

「自己効力感が低い受講者には手を焼いています…」
「“自己効力感”ってよく聞くけど“自己肯定感”とは違うの?」

こんな声も聞こえてきます。
今回は知っているようで、意外と知らない「自己効力感」について、社員のパフォーマンス向上に活かす方法を一緒に考えてみましょう!

自己効力感とは(自己肯定感との違い)

自己効力感は、アルバート・バンデューラによって提唱された概念です。バンデューラによれば、自己効力感は、過去の成功体験やモデルの行動から得られる情報、自己観察、周囲からの評価などによって形成されます。

自己効力感(self-efficacy)は自己肯定感(Self-esteem)と混同されがちなのですが、これらは異なる概念です。自己肯定感は、自分自身の価値や能力を肯定する感情のことで、自分を好意的に評価することができる状態を指します。自己効力感は、課題を達成するための自信のことです。自己肯定感が高い人は、自分自身を肯定しながら、自己効力感も高くなるなどのように、自己効力感と自己肯定感は密接に関連していますが、自己効力感は特定の状況や課題に対する自信であり、自己肯定感は自己全体に対する肯定を指します。

企業内教育で自己効力感を活用するポイント

企業内教育において、自己効力感を高めるための、4つのポイントをご紹介します。

■適切な目標設定を行う
自己効力感を高めるためには、適切な目標設定が重要です。目標が高すぎたり、低すぎたりすると、自己効力感を低下させてしまうことがあります。目標を明確にし、達成可能な範囲で設定することが大切です。組織として最終的に目指す「あるべき姿」は1つかもしれませんが、目標達成に向けた過程において、社員の現状のレベル(入口)を把握し、個々の社員のレベルに応じた「適切な」目標設定をすることがポイントになります。
一律の目標設定ではなくレベルに応じた課題別研修の設計など、「適切な」目標設定をするための工夫はありますか?
参考:育成や学習がうまくいかないのは「目標に問題アリ」かも!?

■成功体験を積み重ねる
自己効力感を高めるためには、成功体験を積み重ねることが重要です。研修では、社員が成功体験を積むことができるよう、実践的な演習やシミュレーションを取り入れることが有効です。また、社員が業務に取り組む際にも、成功体験を積む機会を設けることが大切です。業務においても、達成可能な小さな目標を設定し、積極的に達成することで、自己効力感を高めることができます。
トレーニングでもINPUTだけで終わるのではなく、ロールプレイ実践を設けながら徐々に難易度を上げていったり、何かのプロジェクトを任せる際には『プロジェクトメンバー→プロマネのアシスタント→プロジェクトマネジャー』のように段階的に責任範囲を広げていくなど、成功体験を積み重ねられるような工夫はありますか?
参考:何かを始めるのも続けるのも 「できそう!」と思えないとムリなんです!

■フィードバックを的確に与える
自己効力感を高めるためには、適切なフィードバックを与えることが重要です。フィードバックは、社員が自分の成果を客観的に評価することができる機会を提供し、成功体験や改善点を把握することができます。フィードバックを与える際には、具体的な行動や成果に対して的確なアドバイスをすることが大切です。
フィードバックは自己効力感を高めるためにとても重要な要素なのですが、リモートワークなどの環境下では、意図しないとフィードバックを得る機会は少なくなりがちです。フィードバックの質についても「具体的な行動や成果」で行うことは結構難しく、ついつい上記の経験と勘による主観的なフィードバックに偏りがちです。
あなたの組織では上長であるマネジャーからのフィードバックを得る機会は月にどのくらいあるでしょうか? そのフィードバックの「質」は部下にとって的確なものになっていますか?
参考:
部下指導に必要な4つのステップ
残念なコーチングで終わっていませんか?

■失敗を前向きにとらえる
自己効力感を高めるためには、失敗を前向きにとらえることが重要です。振り返り(リフレクション)を通じて失敗から学び、改善することで、自己効力感を高めることができます。企業内教育では、失敗を恐れず、挑戦することができる環境づくりが求められます。トレーニングでも、OJTでも社員が正解探しをして、講師や上長の顔色を窺い、小さくまとまってしまうとなかなか成功体験が得られません。また失敗した後、そのままにしておくことは、ただの苦い思い出になってしまいます。
トレーニングでも、OJT場面でも、社員が「安心して失敗できる」場を作れているでしょうか?
失敗した後の振り返りは、次のチャレンジにつながる効果的なリフレクションになっていますか?

これら4つのポイントは独立したものではなく、関係し、連動しています。文章で書くと当たり前のことのようにも見えますが、実際にこれを実践するのは難しいなぁ…と感じた方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。
参考:
何度もチャレンジすることがかっこいい!そんな社風があなたの会社にはありますか?
若手育成のヒント~インストラクショナルデザインの視点から~

ルーブリックを活用した育成は自己効力感を高める効果がある

リープではパフォーマンス評価指標である「ルーブリック」を評価・分析だけでなく育成ツールとしても活用していますが、ルーブリックを活用することで自己効力感を高める仕掛けとしての効果も期待できます。

ルーブリックとは、学習して身についた行動のレベルについての目安を数段階に分けて記述して、その行動の達成度を判断する基準を示すものなのですが、マトリクス状の評価基準のことです。(詳細はURLをご参照ください)
参考:パフォーマンスの状態を可視化できる評価指標「ルーブリック」

「チェックリストではダメなの??」
「6段階評価は皆つけづらいから、3段階に減らせない??」
「評価観点を10項目くらいに減らしたいんだけど…」

細かく細分化された評価観点と評価尺度のルーブリックをご覧いただくと、こんな風に思われることも多いかと思います。
しかしながら細分化されていることで、社員一人一人のレベル感に合わせた「適切な」目標設定を行い、上長がOJT場面においても具体的な行動レベルでフィードバックに活用しやすいメリットがあります。
ルーブリックを活用した適切な目標設定と行動レベルのフィードバックを得られることは、社員の成功体験を積み重ねることにもつながります。上長による振り返りやフィードバックを通じて、部下のルーブリックのスコアが1点ずつ上がっていくその過程に、自己効力感を高める効果があります。

自己効力感を高める工夫で社員のパフォーマンス向上を狙う

企業内教育において、自己効力感を高めることは、社員のパフォーマンス向上につながります。
研修を企画する担当者はもちろん、部下育成でお悩みのマネジャーの皆様にとっても、自己効力感を高める工夫を取り入れていただくことは大きなメリットがあります!
ルーブリックを活用して、適切な目標設定、成功体験の積み重ね、的確なフィードバック、失敗を前向きにとらえる…これらを連動させることで自己効力感を高める仕掛けをしてみてはいかがでしょうか?

 

執筆者プロフィール

荒木 恵 リープ株式会社 取締役・インストラクショナルデザイナー 
ラーニングデザイナー (eLC認定 e-Learning Professional)、e-Learning マネージャー(eLC認定 e-Learning Professional)、e-Learning エキスパート (eLC認定 e-Learning Professional)、CompTIA CTT+ Classroom Trainer、認定アクションラーニングコーチ、日本評価学会認定評価士、修士(教授システム学)、RCiS連携研究員
趣味は温泉・秘湯・マッサージ巡り。(どこかおススメがあれば”こっそり”教えてください!)
教育に関わるデータの活用方法から、データに基づいた教育プランの設計まで、皆さんのお悩みをサポートしますので、お気軽にメッセージください。

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